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人形勇者の憂鬱  作者: まる
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勇者の死

【勇者の死】


自分達は魔王を倒した。

人々が将来苦しむと分かっているから。


自分たちは勇者の行うべき事を行ったのだ。

感謝されこそすれ、責められるべきではない。


「村の人たちは何も分かっちゃいない。古き魔王戦争と勇者の活躍を」


時間が経ち、村を離れ、町を離れ、王都に近ずくと、激昂が薄れ、少しずつ冷静になっていく。


「まあ考えてみれば、彼らも哀れよね。辺境の村と言う事で教会の神官が来なくっちゃ、真実を知る事もできないんだから」

「(うーん、どちらにも申し訳ない気持ちだね)」


村人達は、日々の生活と、古の伝承を融合させたのだ。

この世界に与えられた、複合祈祷型事象干渉システムの目的からすれば正しい。


初代勇者だった僕が、その複合祈祷型事象干渉システムを隠す手段として考えたのが、世界管理者を唯一神とする今の教え。

この考えに固執する彼女だけが、決して悪い訳ではない。


「(ただ悪い方にしか、向かっていない気がするんだけど・・)」


王城に着き、ヘクセがトホターに面会を求めた際に、その最悪が浮き彫りになる。






トホターの部屋を訪れると、侍女の口から、とんでもない事が出てきた。


「トホター姫は、監禁されています」

「・・えっ!? どう言う事!?」

「姫は禁書の閲覧申請をされました」

「それが何? トホター様だって第四王女。特に問題があるとは・・」

「大いに問題です」

「えっ!?」

「(やっぱり・・。この女馬鹿だろう)」


禁書である以上、国王や王家にとって不都合な内容が書かれていると言う事。


「禁書と言う事は、知られては困るという事です」

「だから第四王女なら・・」

「下位の者が調べるという事は、弱みを握るためと取られます」

「なっ!? そ、そんなつもりは・・」

「あなたがたの考えなど、どうでも良いのです。相手がどう捉えるかです」

「くっ・・」


僕の考えを読んだかの如く、侍女が肯定の説明をしてくれる。


「あの村の人たちのようにね」

「えっ!?」


侍女の言葉遣いが変わった。まるで見下すかのような物言い。


「『ふん! いずれ私達に感謝するでしょう! 帰るわよ、プッペ!』でしたか? 村人達への言葉」

「ど、どうしてそれを、あなたが・・」

「貴方の捨て台詞を、彼らはあの世で噛み締めているかしら?」

「あ、あの世って?」


やれやれ、といった風に肩を竦めると、仕方なさそうに説明する。


「あなたが町で聞きまわってくれたおかげで、あなたに監視がついたのよ」

「えっ!?」

「何驚いているの? 当たり前でしょ? 軍が負けた? 魔王がいる? そんな事を誰が知られたいと思うのよ」

「そ、それは・・」

「反乱した村を見せしめのために軍で蹂躙、村人達は晒し首にされたわよ」

「あ、あ、ああ・・」

「おとなしく飼い殺しにされていれば良いのに。あなたにも詳しく事情を聞きに行くから、部屋で大人しくしてなさい」

「えっ・・」


呆然とするヘクセに、侍女はシッシッと手で追いやり部屋の中へ戻ってしまう。


「(この侍女、時間稼ぎのために長々と話しやがったな)」


不在です、の一言で済んだ筈なのに、不要な事情な説明をしたのだから。


「(いや、待てよ? ははぁん。人の不幸は蜜の味って言うからな。あえて教えて、絶望のどん底に落としたかったのか)」


トホターもヘクセも警戒していたが、侍女はやはりスパイだったとしか思えない。

二人が面白いようにどつぼに嵌るって行くのを、心の中でせせら笑っていたのだろう。






トホターの侍女の言葉に動揺してか、ヘクセは狭い部屋をうろうろしながら呟く。


「どうして? どうして? どうしてこうなったの? どうしてどうしてどうして・・」

「(今更何を言ってんだ、この女・・)」


そもそも第四王女として、お飾りの仕事を与えられていたのは何故か?

態の良い厄介払いに他ならないだろう。


それを魔王の調査と言いつつ、禁書の閲覧許可である。

こちらに他意はなくても、疑ってくれと言わんばかりである。


「詳しく事情って・・。私も捉えられるという事よ、絶対!」

「(まあ、当然だろうな)」


何時の時点で監視が強化されたか分からないが、少なくとも魔王の発生と、討伐に高い能力を示したプッペの存在はバレていると思った方が良い。


もしあの村を管轄する領主の方から、プッペとヘクセを手に入れようと画策した動きがあれば、尚の事、この王城から二度と出られないだろう。


「逃げなくちゃ・・。そう、今すぐ逃げなくちゃ!」


突然向きを変え、死角に立っていたプッペにぶつかる。


「痛・・! 何よ、あんたもボサッとして!」


完全に八つ当たりなのだが、ヘクセはプッペを蹴りつける。


「あんたも腹の中で笑ってたんでしょう! さぞ道化のように見えたでしょうね!」

「のー、ますたー」

「勇者の記憶があるなら、もっと有効に私達に情報を渡しなさ・・い・・よ? 勇者の記憶? プッペ、あなた勇者の記憶があるわよね?」

「いえす、ますたー」


ヘクセはある事実に気が付く、気が付いてしまう。


「あなたが・・、いえ勇者が残した資料って存在する?」

「何点カハ書キ残シテイマスガ、現存スルカハ不明デス」

「あなたの書いた資料の中に・・魔王に関するものはある?」

「いえす、ますたー」

「どんな事が?」

「神ヤ精霊、魔王ノ発生めかにずむナド・・」

「なっ!?」


プッペの不用意な一言から、ヘクセの顔が驚きから、怒りに歪み始める。


もし現存するのであれば、当然禁書に指定されて当たり前だ。

ヘクセもやっと理解できたのだろう、禁書に触れる事は、自分達の首を絞めることに。


「あんた知ってたのよね、それを! 何故言わなかったの!」

「ますたーヨリ、求メラレマセンデシタ」

「はあ!? 私の責任な訳? 違うわよね! あんたワザと隠してたでしょう! 知っててあえて言わずに隠して!」

「のー、ますたター」


プッペのそこかしこを、持っていた杖で何度も何度も叩く。


「(やれやれ、勇者の時代の資料を見るって提案したのは、ヘクセ、あんただろうが)」


殴っていた手が止まり、ヘクセが何かを閃いたのか、顔から一切の表情を消す。


「プッペ・・。あんた・・魔王・・、神や精霊の創り方を知っているのよね?」

「いえす、ますたー」

「あんた自身が、神や精霊、魔王を創れる?」

「いえす、ますたー」

「・・あんたでしょう? ヘドロと風と影の魔王を生み出したのは?」


歪んだ責任転嫁が、一つの真実を探り当ててしまう。


「いえす、ますたー」

「何でそんな事をしたのよ!?」

「全テハ、ますたーノタメニ」

「何が私のためによ! 絶対に自分のためでしょう! 自分の存在価値を示すために! プッペ命令よ! 魔王に関する知識と創造の技を私によこしなさい!」

「ソレハ・・」

「出来ないの!?」

「ヤッテミマス」


流石に勇者の記憶の影響からか、一瞬躊躇うも、命令に従う。


プッペが右人差し指で、ヘクセの額を触れる。


「(ちっ!? 不味い! 強制事象干渉能力を使って、ヘクセにその情報と能力を受け渡すつもりか!?)」


指を中心に、魔法陣が生まれ、ゆっくりと指先から外周へと色が変わりながら、魔方陣は右や左へと回る。


「終ワリマシタ、ますたー。如何デスカ?」

「そう・・」


ヘクセは目を瞑り、自分の頭に写された情報を確認する。


「・・ウフフッ、分かる、分かるわ! 神や精霊・・、そして魔王の創り方が!」


そう言うが早いか窓に近づき、両手を天に突き出す。


・・祈祷型複合事象干渉システムとは、存在が漠然としたモノへの思いの集大成である。


「闇よ集いなさい、もっともっと集いなさい。この王都に渦巻く闇の思いよ、来たれ!」


ヘクセが指し示す場所に闇の玉が生まれる。


・・絶対に存在すると言う確信は、容易に祈祷型複合事象干渉システムが発動する。


「私に忠実な竜よ、偉大な闇の竜よ! 私の声に従いなさい!」


頭部の大きさがヘクセを一飲み出来るほどの、漆黒の竜が生まれる。


・・更にプッペより与えられた強制事象干渉能力の一遍が、具現化を後押しする。


「くっくっくっく・・。これで逆転ね!」


狂気の笑みを浮かべたまま、プッペの元へ帰ってくる。


「ありがとう。最後の最後で役に立ってくれて。不忠な僕に褒美を上げましょう」


プッペのコアに手を当てると、何やら呟き始める。


「・・最終命令【魂よ砕けろ! 人形!】」


プッペの瞳から光が失われ、操り人形の糸が切れたように崩れ落ちる。


「あーはっはっはっはぁ、ざまあ見ろ! このオンボロ人形が! よくも創造主である私を振り回して、虚仮にしてくれたね!」


倒れたプッペに何度も何度も蹴りを入れる。


「んん? コア・・か。これは唯一の成功例だったわね。寄り代はまた馬鹿なことをされても困るから捨てて行くとしても、こいつは持っていきましょう」


魔王との戦いにも、決して外れる事のなかったコアが、ヘクセの手により簡単に外れる。


原動力のコアは、容易に外れたり壊れたりしない仕組みになっている。

しかし創造主の命令か、人口生命体自らの解除があれば取り外せるようになっていた。


「さあ、こんな所からとっとと逃げるとしましょう。そして私を王とする新たな王国を打ち立てるのよ!」


暗黒竜の頭に乗ると、あちらこちらで騒ぎ立てている人々を無視して飛び立って行く。




その直後、王城の衛兵達が、ヘクセの部屋の前に集まってくる。



ドンドン



「ヘクセ殿! ヘクセ殿! 少々お伺いした気事があります。扉をお開け下さい!」

「先ほど漆黒のドラゴンもこちらの部屋に向かっていました! すぐに扉を!」


中から何の返事もない事に、衛兵達は顔を見合わ、頷きあう。



ドゴン!



扉を破壊し、中へと突入する。


「居ない! 探せ!」

「もしや先ほどのドラゴンと!」

「お前はすぐに連絡しろ」

「はっ!」


一人の部下に命じて、状況を報告に向かわせる。


「隊長! こちらに」

「どうした!」


崩れ落ちたままのプッペを見せる。


「こいつは・・確か、新しい護衛とか言っていた人形か?」

「そう思われます」

「動くのか?」

「いいえ、全く動く気配はありません」

「うん? わざわざ捨てて言ったというのか? 訳が分からんな。何か情報が得られるかもしれんから、魔導師たちに渡しておけ」

「はっ!」


部下は数人で、ぷっぺの抜け殻を抱えて、魔道師たちのいる部屋へと向かう。




衛兵達から、魔導師たちに渡された、プッペの抜け殻を見て呟く。


「衛兵に渡されたけど、魂が壊されちゃってるじゃん」

「あー、無理無理。倉庫に投げ込んでおけよ」

「そうだな。一ヶ月ぐらいしたら、どうやっても動きませんでしたって報告上げとけば良いよね」

「それで構わん構わん」


魔導師たちの倉庫、失敗作やゴミなどを一時的保管する場所へ投げ込まれる。


実の所、ヘクセの伝手で集められたプッペの元の素材の多くは、ここから出されており、哀れにも元に戻された形である。






真っ白な空間に浮いているように見える、透明な何枚かの板。


その一枚に、まるで壁があるかのように、バンッ!と両側に手を付く。

ワナワナと頬を震わせ、板に額を押し付け、目を見開いて呟く。


「あ、あの女・・、い、今、何しやがった? いや、人形のほうが問題だけどさあ・・」


言葉遣いも悪くなっていた。


「確か・・魔王の創造方法を寄こせと言って、あっさりと渡しやがったんだよな・・あの二人・・ ・・・ ・・何て事しやがる!」


思わず透明な板を殴りつければ、粉々に砕け散って、床などないのに、足元に貯まる。


ヨロヨロっと力なく後ずさり、何もない空間に、ドカッと身を投げ出せば、まるで椅子があるかのように体が支えられる。


「丸ごと勇者の記憶を渡したのは、私の大失態だった・・」


初代勇者だって、生まれ変わる際にその手の説明はして、確かに知識は持っていた。


それでも能力に振り回される事なく、依頼である魔王討伐と、世界平和の礎を築く事に専念してくれたので、このような問題は起こっていない。


「強制事象干渉能力で、ギフトにスキル、タラントにアビリティも創れるし渡せもする・・。考えてみれば当たり前なんだけど、実際にやられるとは思いもしなかったよ・・」


額を手で打つと、天を仰ぐ。


「まあ不幸中の幸いとしては、あの女が神や、精霊、魔王に関してのみ求めた事、あの人形がそれらに関してのみ渡した事だな」


もし強制事象干渉能力を丸ごとそっくり渡していたら、好き勝手に世界が書き換えられ、それこそ『世界の初期化』への道を辿ったに違いない。


「はぁー、やれやれ。対魔王戦の切り札としての光魔法・・強制事象干渉能力な訳だけど、ちょっと見直しが必要だな・・」


使う存在によって、正に世界を滅びへの道に導いてしまう。


「・・・ あれれ?」


あちらこちらの透明な板を見て回る。


「彼の・・勇者の魂はどこへ言ったんだ?」


創造主であるあの女が、人形の魂の破壊を命じた以上、勇者の魂も解放されたはずだ。


『勇者共有計画』の対象の魂は、異世界の輪廻転生の検証のため、必ず自分のところへ一旦戻るようになっていた。


その魂がどこにも見当たらない。


「何から何まで・・一体どうなっている訳?」


次々と予想をぶち壊す出来事に、世界管理者は疲れきってしまっていた。






創造主にして女魔導師、ヘクセの手によって創られた人工生命体プッペ。


創られたその手によって、破壊がもたらされる。


「・・最終命令【魂よ砕けろ! 人形!】」


人工生命体の人格を司る魂が破壊されると、操り人形よろしく動作を停止した。


しかし死んだわけではなかった。


どこからともなく、機械的な、感情の篭らない音声が聞こえてくる。



・・マスターコード確認・・人格の破壊を実施・・。


主人格・・仮名称、人形の魂・・の破壊により、副人格・・仮名称、勇者の魂・・への切り替えを実施・・。


警告! 警告! 警告! 人格切り替え中に魔力の消失を確認。


超効率魔素吸収および魔力貯蔵、増幅ユニットの取り外しを確認・・


・・予備魔力補給方法、残魔力量での人格の切り替えおよび、システムの再起動不可・・


副人格・・仮名称、勇者の魂および体組織の保全に全魔力使用・・


・・魔力供給まで、全システムを一旦凍結・・。





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