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狂える君にその引き金を  作者: 紅暮
第0章
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プロローグ

ミラメリア……それは科学の代わりに魔法や魔術などが進んだファンタジーな世界。魔物がいて、竜がいて、エルフやドワーフがいて……勇者と魔王も存在する夢の世界……

その世界に今1人の少年が送られようとしていた……


「うーん……どうやら死んだら無になるって仮説ははずれらしい」


そう呟いた少年はとある城の王の間にいた。王と言っても魔王であるため内装は禍々しい……ちょうど少年の前方にはこれまた禍々しい装飾の玉座があり、そこには黒衣を羽織り邪悪なオーラを醸し出している存在が座していた……そしてそんな少年の周りや魔王の横には異形の者たちがいた。魔族である。それらは形こそ人に似ているが、ある者は角や牙を、ある者は翼を……と人間とは大きく異なる姿形をしている。


「どう考えてもあれは死んだね、うん」


しかし少年はそれらに気づいていないかのようにぶつぶつと何かを呟いている。

そんな少年は実はここに転生してきたわけだが……その死因は彼の仮説を立証するための実験によるものだ。彼は前世で『人間は死後どうなるのか?』という疑問を解決するため、確実に死ねる方法・状況を自ら作り出し死んだ。つまり自殺なのだが『そんな下らないことで普通死ぬ?』とまともな人間なら思うだろう。だがこの少年はまともではなかった。とても狂っているのだ。『自らが体験すれば実証できるだろう』というシンプルというか軽率というか……しかしやはり狂っているとしか言えない考えで死んでしまったわけだ。

ちなみに享年12歳。若いというには過ぎるほどの年齢だ。


「しかしそうじゃないならこれからどうなるんだろう?」


少年はその言葉を投げかけるように目の前の存在に視線を向けた。


「……ロジェス様こいつ大丈夫何ですか?」


魔王の横にいた側近の1人が不安げに囁いた。少年の危険な雰囲気がが漂う言動を顧みれば当然と言える。しかし不安を感じているのはその側近1人だけではない。周りにいる他の配下たちも感じていることだ。


「大丈夫だ」


だが魔王は違った。不安げな側近の言葉にスパッと返答したのだ。表情をフードの闇に隠しているが故に、そして声に感情が無いが故によく分からないが、自信があるのかもしれない……いやあるはずなのだ。なぜならこの少年をここに呼び寄せたのは魔王本人なのだから。


「お前は死んだ」


「うん知ってる」


死んだと言われても特に慌てることもなくさらっとそう返す少年。それが純然たる事実であると認めるのは死因が彼自身にあるから……なのだろうが……


「で? 僕はこれからどうなるの?」


そんな少年だからこそなのだろう。先程から目の前の非現実的な状況に直面しているにも関わらず、とても落ちついている上に微笑みを浮かべてすらいるのは……


「私のために働け」


特に前もった説明もなくそう答える魔王。いきなりそう言われても普通困るというもの。しかし魔王もそんなことは分かっている。ただ魔王は魔族であり、少年は人間だ。種が異なる上にその見た目は人間にとって恐れるべきものだ。だからこそ魔王としてはこの少年が少なくとも『NO』という答えさえ返してこなければいいのだ。


「いいよ」


しかし少年の答えはその場の者たち全員の期待を裏切った。それは間違いなく予想外の返答であったが、少なくとも彼らにとって良い意味での裏切りであろう。


「……本当によいのか? 私は魔王。異なる世界とはいえお前と同じ人間の敵だ」


やはり声からはその感情が伺えないものの、声を発するまでの間が驚きを表していた……だからこそもう1度少年に尋ねたのだろう。


「あ、やっぱり魔王なんだ……」


少年は今更ながら目の前の存在が魔王であることを知った。そんなのんきなことを呟いた後少し考える素振りをし、今度は少年が魔王に問いを投げかけた。


「うーん……でもあなたは僕の敵ではないんでしょう?」


「それは保障する」


「じゃあいいや」


「……そうか」


あっさりいいと答えた少年に、魔王も少しの間の後ただそうかと答えた。それは呆れからか、その程度の些事取るに足らぬと捉えたが故かは不明であるが……


「あっ……でも僕あまり行動を制限されるのは嫌だよ?」


自由……少年はそれをとても重要なものとしていた。創造の最初のステップは想像すること……だからその想像を生む条件として自由は大切だと少年は思っているのだ。しかしまあその自由過ぎる発想で自殺したのだから困りものである。


「構わない。お前のやりたいようにやれ。ただお前の働きが私のためになりさいすればいい。神々の刺客……勇者を葬ればな」


そう魔王あるところ勇者あり……この世界に魔王が存在する以上勇者も存在する。それは運命(さだめ)であり、凶力な呪いでもある。


「分かった。じゃあ……うーんどうしよう……ま、とりあえずこの世界について教えてよ」


「いいだろう……」


この世界……正確にはその領界の1つの下界であるここには人間や魔族、エルフにドワーフ、獣人などの亜人種や竜種、魔物などの多様な種族が存在する。大陸は6つ存在し、ここはその中でも未開の地が多くまだ名前すらない大陸だ。故にこの大陸で自らの国を建国したばかりの魔王にとって、開拓や発展は望むところ。となればただでさえ自分を倒しに来るという勇者はますます邪魔な存在となるわけだ。

未開故に勇者を召喚できる人間の国はこの大陸からは選定されないものの、いずれ勇者は他の大陸からやってくる。それまでにこの大陸をなるべく開拓して領土を増やしつつ、軍を強化する必要があるのだ。


「おお! それはロマン溢れる話だね。楽しみだよ」


それを聞いた少年は目を輝かせた。こういうところは普通の少年と変わらないようだ。


「だがあまり猶予はない……」


「猶予がない?」


そう……もうすぐ訪れるあることに魔王は焦っていた。それは戦争だ。だがそれは魔王と勇者の争いといったレベルではない。世界の枠を越えたもの……


「世界の枠を越えた……壮大だねえ……」


つまりそれはこの世界の神とこの世界の外側の神との戦争だ……つまり神々の戦いだ。


「へ~それが近々起こるの?」


「そうだ。おそらく早ければ10年後には起こるだろう……」


少年は10年と聞きまだまだ先だと感じた。それは少年の12歳という若さ故にそして人間であるが故にだろう。だが魔王は違う。個人差などはあれ人間よりも寿命が長い魔族にとって、10年という時間は自らの生きるもしくは生きてきた時間と比べればとても短いのだ。ちなみに魔王は1000は優に越えている。それは魔族としては長いが魔王としては短い。

だが時間の長さ以前に長く生きるものにとって、時間というものは有り余って当然のものとして軽視しがちだ。にも関わらずその戦争までの時間に関しては短いと感じるほどに重視している……つまりそうなるほどのモノがあるのだ。


「戦争が起これば最悪私たちとてただでは済まないだろう。だからこそ自らを守るため力をつけねばならん。それにだ? それまでの間神々はその準備で下界の管理が疎かになる。この機を逃す手はあるまい?」


そうこの10年という期間は短いものの、勢力を大きく伸ばすことができるチャンスなのだ。それはもう逃したならば滅ぶだろうと極端なことを言っても過言ではない程にだ。


「なるほど確かにそれは焦んなきゃだね」


少年は笑顔でそう言った。フードの奥……闇に顔を隠している魔王はともかく、周りの側近たちは『何を笑っているんだ』や『本当に大丈夫なのだろうか?』という思いを声にこそ出してはいないが、その顔が大いに物語っていた。


「なぜ笑う?」


魔王の淡々とした声が響いた。その声は決して大きくはないのに不思議と響き、感情が感じられないのにいやに恐怖のようなものを感じる。その声に周りの側近たちの表情も再び緊張感を帯びたものとなる。だが少年は違った。


「楽しそうだからだよ。楽しくて笑うのは当たり前でしょ? ああ、そう! だから僕はもう楽しいんだ。楽しくてしょうがない」


そう楽しくて楽しみでしょうがない。そんな楽しいという感情が少年の中に溢れていた。だから恐怖の象徴とも言うべき魔王を前にしてもなお笑っているし笑っていられる。楽しくて楽しそうで仕方がないから……少年の笑顔にもその楽しいという感情にも歪みは一切ない。むしろ純粋であり、美しいと言い切っても良い。だがその純粋な感情はまさしく狂気そのものであることは忘れてはいけない……


「フッ、あっはははは……」


少年がそう答えると魔王は大声で笑った。それには流石の少年も驚いたようで周りの側近たち同様キョトンとなった。特に側近たちにとってそれは突拍子のなさからでもあるが、何より魔王が笑うということ自体が驚きでもあった。普段声にすら感情の出ない魔王がこうして感情を表現することはとても珍しいことであったからだ。


「やはりお前でよかったようだ……存分に新たな生を楽しむがいい」

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