体の秘密はなんじゃろな
「ほれ。出来てるぞ。重さの確認しとけ。」
店主が俺に呼びかける。
どうやら、俺が元気っ子をはぐらかしてる間に奥でしていた調整が終わったらしく、ヴィルさんが一振の剣を渡してきた。
「ありがとうございます。少し、試し斬りとかしたいんですけど、広場とかありませんか?」
予想していたよりもかなり軽い剣に戸惑いつつ、そう尋ねる。
「おう。裏に試し用の案山子があるから使って行け。俺は鍛冶場に居るから何かあったら呼んでくれや。」
代金はそこに置いとけ。と付けたしヴィルさんは奥に戻っていった。
――――――――
「兄ちゃん…あんた何者なんだよ…」
ヴィルさんの孫、ユンがため息混じりに呟く。
ふと足元に目をやると、粉々になった案山子が転がっていた。
おそらく。自分がやったのだろうが、まるで現実味が無い。
この世界に来て3ヶ月。確かに、現場作業で肉体を鍛えたが、この力は確実にその範疇を越えている。
たった1振りで、木製の案山子が粉々になってしまったのだ。
「一体なんだこの力…」
おかしい。神は特殊能力を与えるなんて一言も言っていない。
というか、神との会話の記憶は日が経つ事に薄れていき、今では煙の中のように思い出すことが出来なくなったいる。
それでも、何か特別なチカラを
与えられていたとしたなら、何かしらの情報を少しは覚えているはずなのだけれど…
「兄ちゃん、もしかして厄災能力持ちなのか…?」
厄災能力?なんだそれ。初めて聞いた。
こんな単語、おばさんも一言だって口にしなかった。
言葉からは何かおぞましいものを感じるが、もしかして危ない物だったりするのだろうか。(使いすぎると死ぬとかだったら嫌だな)
「厄災能力?なんなんだそれ、差し支えなければ教えて欲しい。なんせ俺、この国の知識は殆どなくてさ。」
そう言うと、ユンは庭の隅まで走って行き、こちらに来い。と言った風に手のひらで合図をした。
とりあえず従おう。
おもむろに側に寄ると、ユンは小声で話し始めた。
「兄ちゃん。その力についてあまり大声で話すのはオススメできないよ。ディズはとても危険なモノとされているから、忌み嫌う人が殆どなんだ。
もし貴族や権力者に知られてしまったら、下手すれば処刑されるかもしれないよ。」
やはりそうか。大きすぎる力を個人で持つことに恐怖するのは人間の
本質でもある。ジャンヌダルクの例だってそうだ。
しかし変だ。それだけですぐさま死刑になるとはとても思えない。大きな力は利用すれば確実に役に立つ。知識人ならばそう考えるだろうし、傭兵として雇えば千人力というものだろう。
「でも何故?それだけで処刑されるとは考えにくいんだけど。理由があるのかな」
ユンは少し間を置いて、さらに小声で話し始めた
「ディズ能力者は、厄災者の末裔と信じられているからだよ。」
ユンの額に汗が浮かぶ。内容が内容なだけに、この世界では相当タブー視されている事なのだろう。
「厄災者というのは、何千年も前に、キリシア大陸に現れて、たくさんの人や種族を殺し、制服したって言われてる。絵本に出てくる魔王。と言ったら分かりやすいかな。そんなのが何人も居たらしいんだ。」
魔王。か。なんだかお伽噺のようだが、ユンがデタラメを言っていないのなら、この世界には実際に起きたことのようだ。
ちなみに、キリシア大陸とはこの世界の地図の真ん中(と言っても地図の制作地がこの国だからだと思う)に位置する大陸で、冒険者王国トーキン(今居る国)、獣人国家ファルナ、長命国シャペイルの三国、そこにいくつかの小さな国家が点在している。
「ということは、そいつらもディズ能力を使えたって事なのか?」
気になる点を聞いてみる。もしそうなら、この能力は思っていたよりかなり危険だ。
そもそも、俺の能力がそれかどうか確定した訳では無いけど。
「伝承じゃそういうことになってるよ。有名な厄災者だと、閻魔ゴウキ、狂人ミュールあたりだけど、閻魔は腕の1振りで街一つを破壊したと言われてる。その時の破壊跡に水が流れ込んで出来たのが、ファルナの湖と言われてる。」
かなり小声で話すユンの目からは怯えが薄くなっており、だんだんと輝き出していた。
おそらく、タブー視はされているものの、子供はその強大な力に魅力を感じてしまうのだろう。アメコミでヴィランが好きになる感覚だろうか。
しかし、やはりあくまでも伝承の範疇を出ないな。腕の一振で街を壊した。と言ってるけども、怪力なのか、ビームのようなものを出したのか、重力か何かで押しつぶしたのかまったく予想がつかない。
やはり数千年前の話はこんなものなのだろう。
「狂人ミュールというのはどんな能力なんだ?」
シンプルな疑問だ。2人の名前を挙げたにも関わらず、ミュールに関してのことを口にしていない。
「えっと。ミュールは少し言い難いんだけど、人間を拷問して喜びを感じる狂った人間だったらしいよ。どこからともなく拷問器具が現れて、たくさんの人をいたぶっては攫っていったらしいよ。すごく怖い話だよね。」
え、なにそれこわい。
その伝承だけは偽りであってほしいと思いながら、数千年前なのだから流石に死んでいるだろうと考えて安堵する。
「でもね。」
ユンの口調が変わる。
「厄災者はまだ生きているらしいんだ――――――――――――」