鳥籠の外へ
昔々
まだ黒船にのった異国人が
日ノ本に足を踏み入れる前のこと
ある所に
生まれてから鳥籠の外に出たことのない
それはそれは美しい娘がいたそうな
そしてある所には
生まれてから緑の内から出たことのない
草木動物に育てられた常識知らずな人の子がおりましたとさ
この一見出会いそうもない二人の
出会いは偶然か必然か
ある日のことでありました
自分自身も鳥籠にとらわれながらも
こよなく鳥を愛す美しい娘は今日も窓辺に座り込み
娘のもとへ訪れる小鳥と戯れております
そこに見覚えのない一羽の綺麗な純白にうす桃色の小鳥が
ちゅん
「あら、見ない子ね新しい子かしら、こっちにきなんし」
美しい娘は小鳥に手を差し伸べました
ですが小鳥は娘に近寄ろうとはしません
「こわがっているの?」
娘は小鳥がこわがらないように
そっと小鳥との距離を縮めてみました
すると小鳥は森の方へ羽ばたいていってしまったのです
「………あの子羽を怪我していたわ」
純白の羽に赤いシミ
その小鳥は羽に怪我をしておりました
「少しくらいなら……」
鳥籠の外に出たことのない娘は
その日初めて鳥籠を抜け出したのです
森の中といえど
時刻は真昼。さんさんと照り続ける太陽のもと
日光など知らぬ美しく白い娘の肌を
じりじりとじりじりと焼いていくのもしらず
美しい娘はただひたすらに
さきの小鳥を探すのです
「あの羽では遠くにいけないはずだわ、きっとまだ近くにいるはず………」
ちゅんちゅちゅちゅん
西の方角から小鳥の声が聞こえてきました
「きっとあの子だわ」
美しい娘は声のする方へ
走っていきます
美しい肌に滴る汗もそのままに
美しい娘が向かった先にいたモノは
さきの小鳥と茶色の獣
みたことのない大きさの茶色き獣に
娘は美しい顔をこわばらせ怯えます
つぎのとたん
小鳥を茶色き獣がくわえました
「駄目!!!!」
恐怖で声がでなかった娘は突然のことに驚いて
大声を出してしまいます
その声に気づいた茶色き獣は
娘の方へ顔を向けました
「…………!」
少女は腰がぬけました
立ち上がりにげようとしてもなかなか立ち上がれません
その間にも茶色き獣は娘との距離を縮めてきております
「(だめっ、わたしはここで死んでしまうのね、じいやとの約束を破ったからバチが当たったんだわ、どうせならもっと綺麗な死にかたが良かったわ)」
娘は覚悟を決めたように
目をつむりました
「(誰か……助けてっ)」
ガサガサッ
すると先程までなかった葉の擦れる音が
響きます
「(もしかしてあの獣がどこかにいったのかしら…?)」
おそるおそると
目を開きますとそこには
さきと同じように茶色き獣と羽を怪我した白い小鳥
そして
「貴方は誰?」
美しい娘よりも一つや二つほど
若くみられる土や汗に汚れた人の子がおりました
「…………」
人の子は言葉を発しません
ただ警戒したように娘の方を見ています
「あなた、大丈夫なの?
その…茶色い獣?こわくないの?」
美しい娘は人の子にたずねます
すると人の子は口を開きました
「……貴女はヒトか?」
想像していなかった人の子のすっとんきょうな言葉に
美しい娘は驚きます
「人じゃなかったらなんに見えるのかしら?」
それでもしっかり
人の子の目をみて答えます
「……いや、私は自分以外のヒトにあったのは、翁以外初めてで。そうか………こんなにも美しいヒトもいるものなのか」
人の子は
感心したように
手に顎をつきながら
そういいました
「貴女はどこにすんでいるの?」
娘は人の子に問いました
「私は生まれてこのかたこの森をでたことがないんだ、この子達とずっと暮らしてきた。」
人の子は
隣にいる茶色き獣の頭を撫でながら
いいました
茶色き獣も気持ち良さそうに
人の子の手を受け入れています
「そう……あっ。その小鳥、羽を怪我しているようだけど」
娘は、はっと思いだし
小鳥の羽の方を指差します
「ほんとうだ、野犬にでもやられたか、このままだとこの子は飛ぶことができなくなるな。」
人の子は小鳥を手で優しく包み込みながら
眉をひそめ悲しそうに言いました
「あぁ、そうだ、貴女が良ければ貴女の家につれていって手当てをしてくれないか?」
「えぇ、もちろん!!!」
娘は即座に答えます
「そうかそうか、それはよかった。こいつも嬉しそうだ、どうかこいつをよろしく頼んます」
人の子は娘に頭を深々に下げました
すると娘は何かを考え込みはじめました
そしてこういったのです
「貴女も、私と一緒に来なんし」
その言葉に
人の子は目をぱちぱちと
瞬かせ何をいっているかわからないと言う風に
小首を傾けます
「はて?それは、つまり?どういうことだ?」
「それは、つまり、そうね今日から私はあなたの姉になるのよ」
「それはそれはこんなにも美しい姉さまができるなんて、 私は幸せもんね」
人の子は冗談にして
けらけらと
人の子はふざけたように笑います
「私は冗談はいわないわよ?それともなにかしら?貴女のいう爺殿にご挨拶申し上げた方がよろし?」
その言葉に再び人の子は
目を数回瞬かせます
「いやいや、貴女が本気とは思っていなかった。………それに 翁はとうにこの世を去っていますうえ………」
人の子は
戸惑った様子で答えた
「そう、なら問題ないわ。私の家においでませ」
美しい娘は手を人の子に差し伸べました
人の子は
娘の手をととろうとしましたが
「ちょいとまっておくれ」
といいながら
茶色き獣のもとに歩いていきます
「さすがにその子はつれてけないわよ?」
娘が人の子にそういうと
「ちょいと、いってくるね、なぁにすぐに会いにくるさ」
人の子は茶色き獣と目をつむり額をあわせ
語りかけます
「その獣、、貴女の友達?」
娘の質問に人の子は答えました
「いいや、家族さ」
それはそれはとてもいい笑顔で
「じゃあ私の家族にもなるのね 」
家族ならその子も家に迎えるよう手配しないと、と
美しい娘も微笑みながら答えます
そして
二人と一羽は同じ家に帰りました
後に一匹も加わることになりますが
「それにしても貴女は本当にヒトなのか?」
「あら?姉さまを疑うつもり?」
「いや、そうではないが………」
(貴女の笑った笑顔があまりにも美しすぎて………)
それから
幾年かたちまして………
「そんなこともありんしたね。なつかしやなつかしや」
美しい娘は美しい女性に成長し
「いやぁ!あのときのちゅんは本当に綺麗だったよ!!!いやまじで!!!天女かと思った!!!! 」
土で汚れたヒトの子は元気なそれはもううるさいくらいに元気な女性になりましたとさ
「あの時は?今もでしょ?」
「いや、綺麗だけど。しわgががががががががいたいいたいよななちゅん!!!!!」
「たんちゃん、すこしお黙りなんし」
仲睦まじい二人のようすを
白い鳥と茶色い熊が今日も眺めておりますのです
衝動的に