第八話 始まり
「ほぉ、これが今期の有望株か」
扉の前に服を全て黒色で統一している男が立っている。彼は言った、有望株と。
「・・・」
ロストは喋っていいのか分からず突っ立っているだけ。しかし子供達の中で勇敢にも声を掛ける子がいた。
「誰だよあんた」
トールだ。彼は純粋に疑問を投げかけたのだろう。男は投げかけられた質問を無視して一方的に話し続ける。
「しかし本当にナナはこんな奴らをあの組織に入れるつもりなのか?俺が見た感じじゃ何一つ才能なんて感じられないんだが・・・まぁあいつの人の才能を見抜く技術だけは本物だ・・・ここはあいつの才能を見抜く才能に賭けるのもいいか。あいつが選んだ奴でハズレはいないしこいつらも何かしら才能を持っているのだろう。しかしナナは発展途上と言っていた、ということは今のこいつらは役立たず当然か・・・」
「おい、おっさん!誰かって聞いてんだろ!」
トールは声を荒げて話しかける。恐らく彼が発した役たたずというところで彼の気持ちを逆撫でしたのだろう。しかし男はトールの方を見た瞬間
「黙れ役たたずの糞ガキが。俺はお前のような五月蝿いガキが大嫌いなんだよ。少し静かにしたらどうだ?」
「な、なんだとぉ!!」
憤慨したトールはどこからか鉄の棒を出し、男に殴りかかる。
「ちょ、ちょっとトール!」
それを見ていたティアはさすがに止めた方がいいと判断し、止めようとするが・・・
「!?」
ロストは自分の目を疑った。当然だろう、トールは鉄の棒を持ちながら残像を残すような速度で殴りかかったのだ。ティアやこの場にいたトール以外の子供達もさすがに目を見張ったようだ。しかし・・・
「ふん、遅い」
ガスッ!
「な・・・に・・・」
男の手が一瞬ブレたかと思いきやトールが床に腹を抱えて蹲っている。
「一体何が・・・」
「腹を殴ったんだよ・・・」
「え?」
声のした横に向いてみるとアレスが真剣な顔つきをしながら今男がした事を解説してくれる。
「あのトールというやつが鉄の棒で殴りかかった瞬間左手で鉄の棒を弾いてその瞬間右手で拳打を放ったんだ。それもあの苦しみ様・・・たぶん一発じゃない、複数発やられたんだ」
「嘘・・・」
ロストは驚愕していた。男が行った行動にも驚愕したがそれを見抜いたアレスの動体視力に驚愕していた。自分には何一つそんな行動見えなかったのに・・・
「あいつ、只者じゃない・・・」
「うん・・・」
そしてティアが蹲っているトールを介抱しながらも男には厳しい視線を向けている。そして男が再び口を開いた。しかし今度は全員に向けて・・・
「貴様達はある目標で集められたガキ共だ。ある者は誘拐、ある者は自分で、ある者は勝手に、ある者は気づいたら、ある者は売られて、ある者は買われて、ある者は偶然に、ある者は誘われて。しかし集められた貴様達には一点共通しているものがある。それはこの世界では酷い扱いを受けた、という事だ」
全員が顔を背ける。そしてロストは思う。皆も自分と同じような境遇を受けたのだろうか、と。
「だが貴様達はナナ・ルカトという人物にその才能を買われた。そうだろ?」
そして男はロストの方に視線を向けてきた。そしておもむろにロストの方へ歩いてきた。
「貴様がロストか?」
「!・・・はい」
ロストは自分も殴られるのか?と内心恐怖でいっぱいだった。しかしロストの心は次に男の発した言葉で一気に冷水を浴びせられたような気分になった。
「くっくっく・・・そうか。お前があの・・・12魔騎士で忌み嫌われた忌み子のルーク・ランスロット本人か」
「!!!」
何故・・・何故この男は自分の事を知っている!ランスロット家は自分の6歳になりすぐに行われた適性検査の結果が報告された後に自分の存在は抹消されたはず。それを何故この男は知っているんだ!?
そんな考えがロストの頭を巡る。しかし彼は口をパクパクと開閉するだけで声など出していない。
「まぁいい。お前は今ロストなのだからな」
「・・・」
そしてそんな言葉を残し男は子供達を一箇所に集めて言った。
「いいか?貴様達がどんな出自、産まれ、扱いだろうがそんなことここではもはや意味はない。貴様達には今から地獄という言葉すらも生温い修行を行ってもらう。いいか?お前たちが死のうが俺にはなにも思わないし何もしない。今からやるのは修行という名を借りてはいるが実質死にに行くような行為をする。だがお前たちにはたった一つの目標がありここへたどり着いたはずだ。強くなりたい、そうだろう?」
場の全員が息を呑んだ。
「地獄は10年続く。それでもやるか?やらないやつは今すぐ楽に殺してやる。遠慮なく言え」
「「「「「「「「「・・・・・」」」」」」」」」
全員無言だった。
「では承認した、と受け取らせてもらう。お前たちは今から専用のカリキュラムを達成してもらう。名前を呼ばれたガキから渡す紙に書かれた場所へ行け。そこから地獄の始まりだ」
そして男は名前を呼び始める。
「トール」
「・・・」
凄く怒りの形相をしつつも先ほどの一件で彼我の実力を弁えたのか渋々という様子で紙を受け取りに行く。
「アルテミス」
「・・・」
黙々と紙を受け取りに行き、紙に目線を向け扉から出て行く。そんな事が8回起き、最後に自分だけが残る
「ロスト」
「・・・」
そして遂に呼ばれ、自分も紙を受け取ろうと手を伸ばした瞬間男に話しかけられた。
「ロスト。お前に今から行われるカリキュラムが9人の中で一番致死率の高いカリキュラムだ」
「・・・」
ロストは男に冷酷非情というイメージを持っていたため、この言葉に少し驚きを顕にする。
「それでもやるのか?」
「当然です」
相手には自分がもはやルーク・ランスロットだったという事はバレてしまっている。だから堂々と発言する。自分の目標を
「強くなってアヴァロンを潰すんです。そのためならどんなに苦しくても、死にたくなっても・・・耐えてみせます」
「・・・そうか」
そして男から紙を渡される。
「では」
ロストはそう言い残し自分に与えられた場所へ向かう。自分の目標を改めて胸に秘めながら・・・
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