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有無の騎士  作者: 七咲衣
我の為に鐘は為る
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第七十七話 世界の果て

「クロエ、お前は俺の事が・・・好きか?」

「うん」

「どこまでも、想ってくれるか?」

「当り前よ」

「そうか・・・俺も、永遠に愛してる」

「どうしたの?」

「俺の考え、お前には話しておくよ」


ロストは一枚の紙をクロエに見せる。紙には一文だけ書いてあった。


「セレナ・アーサーは未だにお前を愛している?何これ」

「そのままの意味だ。だからクロエ、一つお願いしていいか?」

「何?」

「俺を確実に殺す矢を、作ってほしい」

「分かった」


クロエは即答する。


「い、言っといてなんだが即答するんだな」

「私はロストが好きだもの、出来る事ならしてあげたいと思うのは当然でしょ?」

「そういうものなのか?」

「そういうものよ」

「じゃあ、頼む」


そのままロストは一本の矢をクロエに渡す。


「じゃあ、込めるよ」


指を光らせなぞる。


「はい、おしまい。これで撃たれればどこに当たってもロストは必ず死ぬよ」

「ありがとう」

「フフッ、どういたしまして」

「そうだ、これ」

「これは?」

「銃だよ、俺が作ってみた」

「ロストが?」

「ああ。もしかして嫌だったか?」

「ううん、凄くうれしい!ありがと!」


そのまま花のように可憐な笑みを浮かべる。


「それじゃ、行こうか」

「ええ」








「何で!?どうして!?」


セレナはその場でへたり込む。


「ルーク・・・・貴方なの?」

「その名は捨てた、二度と呼ぶな」

「ッ」


思い起こされるのはかつての記憶、誓いを立てた時。






「どういう事ですか!」


適性検査が終わった後、自分の父親であるロード・アーサーにセレナは詰め寄る。


「何のことだ?」

「とぼけないでください!ルークの事です!!」

「ああ、あの無能者の事か。セレナ、あいつのことは忘れろ」


ロードはセレナに命令する。


「お父様!」

「話はそれだけか?ならば私は行かせてもらう」

「待ってください!」


そのままロードは扉の奥に去る。


「・・・・ルークッ!」


セレナは我慢できず城を飛び出し、ランスロット家の屋敷を目指し駆け出す。


「貴方は私が守る!絶対に、守って見せるから!!」


かつて交わした約束、他の誰も知らない二人の約束。



「セレナ、必ず大人になったら結婚しよう」

「うん、ルーク。私の騎士様。いつか本当に私を守る騎士になってね」

「君も騎士の家系じゃないか」

「実力ならあなたの方が上のはずよ。だってあの名家の生まれじゃない」

「そうかな・・・」

「そうよ。だから自信持って」

「うん。じゃあ、そうあれるよう頑張るよ」

「頑張って、私の愛しい騎士様」



余りに稚拙な約束、何も考えてなかった。それでも本気だった。



「私が!」


ガシャァァン!


窓を思い切り割った音が聞こえた。そこにあったのは一つの悲劇。


「お兄様、お姉様方。それに俺の弟達、妹達よ」

「うん?どうしたんだい?ルーク」

「どうしたの?」

「どうしたんですか?兄様」

「あいつ、今日追い出されるようなんですが、最後のお別れをしませんか?」

「ルークは優しいなぁ」

「本当にね。それに才能もセレナに負けず劣らず、だものねぇ。こんな立派な弟を持てて姉さん嬉しいわ」

「それで、兄ちゃん」

「お別れってなにするんですの?」


彼の兄妹が魔法で一人の少年をひたすらいたぶっていた。


「ひどい、こんなの・・・・家族のすることじゃない」


急いで止めなければいけない。絶対に、彼を殺させはしない。そう誓ったから。


「ルー」

「セレナよ、何をしに来た?」

「お父様!」

「お前の事だ、ランスロット家に行くのではないかと思って見に来てみれば・・・・ドンピシャだ」


セレナの前に佇み睨み付ける。


「そこを、退いてください」

「退いたとして、お前は何をしようとしている?」

「ルークを助けます」

「忘れろ、と言ったはずだが?」

「出来ません」


断言する。これだけは譲れなかった、絶対に譲るわけにはいかなかった。


「ならば足だけでも止めるとしよう」

「退かないのなら、退いてもらいます!」


セレナは今出せる全力で駆け出す。敵わないかもしれない、なんてことは考えない。ここはどうしても通らなければいけない道だから。


「これは、久しぶりに教育が必要だな」


一瞬でロードの姿が消える。


「後ろ!」


これまでの父の訓練を思い出す。父の戦闘の癖は分かる。戦場で培った、死角から剣で切り付ける攻撃。


キィン!


腰に差していた剣で攻撃を受け止める。


「やはりお前は優秀だよ、その年でこの攻撃を受けるのだ。だが男の趣味は悪いらしい」


瞬時に受け止めていた剣を弾き魔法に切り替える。


「それでも!」


セレナが魔法を展開する。相手を退かせばいいだけだ、動きを封じるだけでもいいだろう。故に最も得意な光魔法を使う。


光壁ホーリー・ウォール!」


相手を光の結界に閉じ込めてその場で縛り付ける。


パリンッ


「カッ」


瞬時に光の結界をロードは容易に破りセレナの首に手刀を打ちこみ気絶させる。


「家に帰るぞ、セレナ」

「そん・・・・な」


その場で倒れ込む。


「ごめん・・・・なさい」


そのまま気を失い倒れ伏した。そこからはただ悪夢のように話が進んでいた。

自分の知らないルークが婚約者になっていて、知っていたルークがいなくなって。


「私はルークを守れなかった。だからこそこれは誓い」


全ての人間を分け隔てなく守る。


「それが貴方を守れなかった私の贖罪」


心の中で常に在り続けた言葉。それに、この誓いを守っていれば本当のルークに会えるかもしれないなんて欲を持ってしまった。

だからなのだろうか、これは贖罪をしている者が浅ましくも欲を持ってしまった罰なのか。




「これは、私への罰なの?」

「何の事だ?」


二人の表情が対照的になりながら対話する。

一方は悲哀に暮れながら。

一方は歓喜に酔いながら。


「私が、貴方を助けられなかったから・・・・」

「自惚れるなよ」


ロストが冷たい声で断ち切る。


「別にお前がどう思っていようと俺には関係ない。お前も十二魔騎士の家の者という認識しか俺には出来ない」

「・・・・」

「お前も俺を傷つけて、貶して。そんな奴らと同じ一族だ、俺にはどれだけお前が俺を想っていたとしても・・・・」

「ッ」

「復讐の対象以外にはなりえない」

「は、はは・・・・・・じゃあ、私・・・・・・生きてる意味・・・・ない」


セレナはそのまま剣を自分の首元に持っていく。


「バイバイ」


バンッ!ガキィン!


一つの銃声が響く。


「え?」

「させないよ」


現れたのは一人の少女。

腰まで流れ落ちる髪の毛は何色にも染まっていない白、肌も雪のように白いのにまるで不健康さを感じさせない。顔はまるで熟練の人形職人が何十人も集まり全員の最高作品の美しさを全て集めたと言われても不思議ではない整った顔。そして瞳はこの世全ての赤色の宝石を集めてその中から厳選された真紅の宝石をはめ込んだような透き通った紅色。


「その人に、触らないで」


大聖堂のステンドグラスに腰かけていた少女が降りてくる。


「クロエ」

「おめでとう、ロスト」


仰向けに倒れていたロストにクロエは寄り添い、優しく頬をなでる。


「悲願、叶った?」

「ああ・・・・十分だ」

「そう」


クロエはセレナを見据える。


「貴方に死なんて甘えは許さないわ」


指を一つ躍らせる。


「あと百年は生きてもらおうかしら」

「あ、くっ・・・・」


セレナが胸を押さえて倒れ込む。


「貴方には生きるという地獄を見せてあげる。愛した男を殺した罪を背負って生きなさい」

「う、あっ」


セレナが気を失い倒れ込む。


「クロ、エ」

「ロスト?」


ロストが手を伸ばしクロエの頬をなでる。


「そろそろ・・・・」

「眠いのね?分かったわ」


クロエはロストを抱きかかえその場を後にする。


「さようなら、セレナ・アーサー」





後に大国アヴァロンは滅亡する。十二魔騎士が不在と知られた途端支配されていた国が一気に押し寄せた。軍は確かに存在したが十二魔騎士というカリスマを失い、士気が落ちていた。更に反乱分子の中に一つの宗教団体が猛威を振るい太刀打ち出来なかった。アヴァロンは分裂し幾つもの国を作った。

唯一生き残った十二魔騎士の一人、セレナ・アーサーの行方を知る者は誰もいない。








とある大樹の下に二人の青年と少女がいた。二人以外誰もいない、来られないように魔法が掛けられている。


「ロスト、起きてる?」

「まあ、ギリギリだな」

「うふふ、どうしても話したくてすぐに死なないようにしたの。ごめんね?」

「いいさ、俺も最後に話すならクロエが良かった」

「そう言って貰えると嬉しいわ」

「俺、復讐以外何もない人生だったけど・・・・お前と会えたことだけで十分だな」

「私も、ずっと貴方を愛してるわ」

「そろそろ、限界かな」

「そう。おやすみなさい」

「ああ」


そのまま瞳がゆっくりと下りていく。


「生まれ変わっても、また貴方を探しに行くわ」

「ああ。先に行ってるよ」


そのままロストの瞳は落ち、二度と開かれることはなかった。


最後まで読んでくださってありがとうございました。


活動報告更新予定。


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