第七十三話 眠る屍 伏せる体 凍てついた心
「被害はどうなっている」
ルークは苛立ちを隠さず部下に状況説明を求める。
「はっ、今現在ではボールス家、ケイ家、パラメデス家、ベディヴィエール家がやられました」
「四家もやられたのか?」
「そのようです」
「屑が、負ける者に十二魔騎士を名乗る資格などない」
「その通りでございます」
ルークは歯ぎしりする。
「ルーク様、どうなさいました?」
「嫌な奴を思い出した」
「嫌な奴、とは?」
「力も無いのに六年間も十二魔騎士の名を名乗っていた奴だ」
「そんな奴がいたのですか?しかしそんな事、今まで一言も」
「ちっ、失言だ。忘れろ」
「し、しかし」
「俺は忘れろ、と言ったぞ?」
「はは、申し訳ありません」
そのまま椅子に深く腰掛ける。
「まあいい、どうせ何処かで野垂れ死んでいるだろうさ。それより今は侵入者の方が最優先だ。もはや十二魔騎士一人では止められない程の力を持つようだしな。確実に潰すために三人向かわせる」
「十二魔騎士のお方を三人も向かわせられるのですか!」
「ああそうだ」
「しかしそれでは」
「今この状況が世界にいる不穏分子に知られてみろ。我が国は一気に瓦解する」
「しかし我々には貴方方十二魔騎士が」
「確かに俺達は最強の力を持っている。だが俺達が生き残れたとしても国の無辜の民達はどうだ、ただの兵士達はどうだ。生きられても数は減るだろう」
「っ」
部下は押し黙る。
「既に国民達は俺達に何らかの異変があったことは既に知られているだろう。お前が報告した炎、既に国民多くの者達は目にしたんだろう。ならば俺達がする行動は唯一つ、侵入者を何としても排除しいつも通りのアヴァロンにする事だ」
「分かりました」
「ルミナ、アリア、キルツに向かうよう知らせろ」
「承知しました。すぐにパーシヴァル家、ユーウェイン家、ガラハド家の方に伝令を向かわせます」
「何としても侵入者を排除するぞ」
そのままルークは深く瞑目した。
「ルミナ様、アリア様、キルツ様」
「グルルルル」
「アンガラ、落ち着きなさい」
「アリア、アンガラは興奮してるようね」
アリアが撫でる白変種のライオンは低く唸り声を上げている。
「で、ルークから下った指令は侵入者の迎撃だったか」
「そのようね」
各自自分の聖剣を腰に差しいつでも迎撃にいけるようにしている。
「全員、準備はいいな?」
キルツが全員を見渡し城の正門に手をかける。
「よし、行く」
ぞ、と言いかけたところでルミナ、アリア、キルツの三人が一斉にその場から退く。
バゴォン!
「次はこの家を壊すか」
三人が集まっていたガラハド家の正門が一瞬で粉微塵にされた。
「こいつか、侵入者ってのは」
「グルルルル」
「確かに趣味の悪い面を付けてるわね」
「ここに来るまで二つの家を潰してきたんだが、いなかったんだよなぁ、目的の奴らが」
「二つ・・・?」
「ああ、パーシヴァル家とユーウェイン家って言ったか?」
そう言って骸骨の面を付けた男はクツクツと三人を嘲笑っていた。
ロストは目の前の三人を嘲笑う。ああ、なんと間抜けな者なのか、と。自分の家族や兄妹が焼かれて、斬られて、射殺されているというのに自分達は遠くの家で殺した張本人を倒す作戦を練っている。これを滑稽と言わずして何というのか。
「さて、お前らはどんな風に俺を追い詰めるんだ?」
「殺してやるッ!」
キルツが氷の鋸を振りかぶってくる。
「そういえばお前の聖剣は氷の鋸だったか」
「だからどうした!?」
「いや?氷ってのは水関係の魔法だからな、水魔法ってのはどうにも・・・腹が立つ」
「ッ!水を馬鹿にするな!」
鋸の氷の鋭さが更に増す。
「水は俺にとって尊敬する魔法だ。それを馬鹿にするのは何人たりとも許さないぞ」
「おお、怖い怖い」
「ガルァ!」
おどけていたロストに向かって白いライオンが飛びかかる。
「アンガラ!」
「ガァ!」
そのままロストの首筋にアンガラが食らいつこうと飛びかかる。
「はっ、地に伏せてろ獣畜生が!」
飛びかかってきたライオンにロストは体を屈めそのままライオンの腹部に蹴りを叩き込んだ。
「ガウッ!」
そのまま腹部を蹴りあげられて浮いていたアンガラをロストは更に踵落としで地面に叩き付けた。
「おっと」
ロストがいた場の地面が一気に盛り上がった。
「よくもアンガラを!」
「アリア、次はお前か」
地面から土の槍がいくつもロストを狙い襲い掛かってきた。
「槍だけじゃないわ!」
アリアが大鎌を振りかぶって襲い掛かってくる。
「ほう?ユーウェイン家の聖剣か」
「あなたの首を、刈り取る」
大鎌はロストの首筋を正確に狙ってくる。
「だが甘い」
バンッ!
迫ってきていた大鎌を正確無比に撃ち抜く。
「なっ」
大鎌は弾かれロストに傷一つも付けられない。
「やっぱこんなもんか」
そう呟いた途端側方から二つのチャクラムが飛んでくる。
「ほう?死角から投げてくるとは少しは頭を使えるようだな?」
「確実に仕留めるためにね!」
そこで瞬時にその場を飛び退こうとしたが体全体に氷が這って動けなくされていた。
「お?」
「動きが封じられれば当たらざるを得ない!」
「これで終わり!」
三人は確実にチャクラムが当たると思っていた。しかしロストはその三人の予想を軽々上回ってきた。
「くくく」
一瞬だった。ロストに纏わりついていた氷はロストの体が炎に包まれた途端冗談のように溶けて行った。
バンッ!バンッ!
ギィン!
迫っていたチャクラムはあっけなく撃ち落とされる。
「で?次はどんな手段で来る?」
そして再び歩こうとしていたロストは急に足が重くなり膝をついた。
「こうするわ」
そこには睡眠魔法を放っていたルミナの姿があった。
「・・・成る程、チャクラム自体も・・・囮か」
「ええ。私達は策を二重で張り巡らせていたのよ。あっけなくひっかかってくれて良かったわ」
「・・・はっ」
その場にロストは倒れ伏した。
「で?こいつどうするの?」
「兎に角ルークに引き渡そう」
「そうね」
「私はアンガラが心配なので見てきますね」
国に攻めてきた侵入者を何とか捕縛することに成功した三人は侵入者の対応に関して話し合っていた。
「分かってはいるけれど、自分の気持ちを押さえつけるって中々大変ね・・・」
「それに関しては私も同意します」
ルミナとアリアは自分の家を潰されているのだ。今すぐに感情に任せて侵入者をこの場で八つ裂きにしたい気持ちでいっぱいだった。
「でも・・・駄目なのよね」
「ああ。ルークが有事において十二魔騎士のトップだからな」
「・・・」
そして倒れていた侵入者に視線を向けた途端、ルミナは命を散らした。
「え?」
キルツとアリアは何が起こったのか分からず呆然とした。
「あーあ、眠ったフリをすれば少しは遊べるかな~とか思ってたのに、お前ら全然襲い掛かってこないんだから飽きてつい一人吹っ飛ばしちまったよ」
その場には最も聞きたくなかった声が響いた。
「俺が気が付かないとでも思ったか?睡眠魔法の気配ぐらい察知してたっての」
「な、何故」
「何故睡眠魔法が効いていないんだってか?そりゃ耐性が付いてるからな」
「耐性?」
「ああ。ま、簡単に言うとお前ら程度の実力じゃ俺には勝てないってことが証明された訳だな」
「ふざけないで!」
アリアが声を荒げてロストを睨み付ける。
「まだ殺し合いは終わっていないわ!」
「いいや?お前は既に終わってるぞ?」
「そんな減らず口を言っていられるのも今の内よ」
ロストの後方に白い影が揺らめく。
「今よ!アンガラ!」
一匹のライオンが獲物を見定めて襲い掛かった。
「ガルァ!」
「・・・え?」
「だからお前は終わってるって言ったのに」
アンガラは自分の主であるアリアに喰らいついた。
「何・・・で」
「・・・ガルァ!!」
アンガラは獲物を確実に仕留めた事を獣の本能で理解した。そして自分の主人に褒めてもらうために駆け出した。生まれた時からずっと傍にいた、間違るはずもない主の場所へ。
「アン・・・・ガラ・・・」
「悪いな、闇魔法でこいつに幻覚を見せたのさ。五感全てにかけてやったから流石の獣も分からなかったみたいだな」
バァン!
アンガラは額に銃口を押し付けられ一瞬で絶命した。
「じゃあな、自分の最も信頼していた獣にあっけなく殺された哀れな騎士様」
そして残っていたキルツは手に持った氷の鋸で襲い掛かる。
「うおおおお!」
「お前、氷魔法に誇り持ってるんだよな?」
「当然だ!尊敬するランスロット家の水魔法を攻撃寄りにした魔法だ、俺達ガラハド家の氷魔法は世界で二番目に強い!」
「ハッ」
ロストはその言葉を鼻で笑い一瞬でキルツとの距離を詰める。
「お前が世界で二番目だって?」
向かってきていた鋸を僅かな距離しか躱さず鋸を持っていた手を掴み、キルツの首筋に氷の鋸を押し付けた。
「荷が勝ちすぎだよ」
そのまま押し付けた鋸を手前に引き、キルツは自分の氷の鋸を自らの手で朱く染めた。
「あと五家・・・」