第七十二話 深淵の闇
「ベディヴィエール家、闇魔法を取り扱う一族、か」
ベディヴィエール家が住む城の門。ロストは両腕に愛銃を持ちながら眺める。
「貴様らの闇なぞ俺からすれば子供の癇癪だ」
門を蹴破る。
「何だ!?」
城内は突然の爆音に身構える。
「徹底的に潰してやる、覚悟しろ」
城内からは続々と兵士が現れる。
「やっぱ十二魔騎士の城でも兵士くらいなら流石にいるか」
「貴様が何者かは知らん。だが十二魔騎士の城に手を出したらどうなるか、思い知らせて」
バツンッ!
「聞き飽きた。死ね」
兵士の頭部は一瞬で砕け散りただの肉塊と化した。
「どいつもこいつも同じことばかり言いやがって、一気に回りから引っ張り出した方が楽か・・・」
ロストは空中に筒をいくつも放り投げる。
「一気に燃え広がらせるとしよう」
バンッ!
ロストが放った弾丸は一気に放った筒に着弾する。着弾と同時に筒からは炎があふれ出し辺り一帯に炎を撒き散らし始めた。
「さぁ、炙り出してやるぞ十二魔騎士共」
炎は際限なく燃え広がりありとあらゆる所に灼熱の炎が蔓延った。
ランスロット家の執務室でルークはありえない報告を受けていた。
「何?」
「ハッ、十二魔騎士の方々が住む貴族街に突然と炎が降り注いできました!」
「炎が降り注いだ?どういうことだ」
「それが、本当に突然降り注いだのです」
「どういうことだ」
「恐らく、例の侵入者の仕業かと」
「他の奴らはどうした、アトス、ルシル、キールの三人が対処に向かったはずだ」
「そのお三方との連絡が、途絶えました・・・」
「やられたのか?」
「・・・分かりません」
報告を続ける部下の顔は暗い。
「他の十二魔騎士もその侵入者排除に回すぞ、遠征中の三人も呼び戻せ。ルーク・ランスロットの名において命じる。即刻この国の賊を排除せよ」
ルークは認める。相手は想像以上の力の持ち主だということを。
「あなたが国の侵入者ね?」
「あん?誰だお前」
「ルキナ・ベディヴィエール」
「ルキナ?はは、随分と綺麗になったものだ」
そのままクツクツと笑う。
「何がおかしいのかしら?」
「いいや、別に何も」
「まあいいわ、とにかく貴方の蛮行はここで終わらしてみせるわ」
「蛮行?違うな」
「何がかしら?」
「俺が行ってるのは復讐だ」
「復讐?」
「ああ。俺が生きてきた意味でもある」
「つまり貴方は私達十二魔騎士に何かしらの縁があるという訳ね?」
「ああ、そんな単純な一言じゃ言い表せない程の縁はあると自負してるつもりだが?」
「そこまで言う?」
「まあな。とにかく目の前に俺の復讐の対象がもう一人増えてくれたんだ。遠慮なく片付けさせてもらうとしよう」
「そう簡単にやらせないわ」
ルキナはそのまま腰を深く落とし右手を前に、左手を後ろに置き構えを取った。
「ああ、そういえばベディヴィエール家は徒手空拳なんだったな」
「私の攻撃速度、甘く見ないでね」
「使用聖剣は『魔手甲・黙示録』、だったか?」
「下調べは十分って訳ね」
「いや、元々知っていただけさ」
「まあいいわ」
そう呟いた後ルキナの姿が瞬時に掻き消える。鮮やかな黒髪の残像を残しロストの足元までコンマ数秒で駆け付けた。
「さようなら」
そのまま拳をロストの顎に打ち込む。否、打ち込んだはずだった。
「そう簡単にやられるなら俺はここにはいないぞ?」
ロストは自分に迫るアッパーを顔を横に逸らしいとも簡単に躱す。更にそれだけでなくそのアッパーを逆手に取り逆にカウンターを入れようと拳を交わらせる。
「今度は逆に自分がアッパーを食らってみるってのはどうだ?」
そのまま容赦なく振り下ろそうとする。しかしそれでも流石の十二魔騎士というべきかその攻撃を察知した途端避けられないと瞬時に判断を下しルキナは逆に自ら拳に顔を近づけていった。その際顔を少しでも顔を横に移動させ威力を減らそうとする魂胆までも見えていた。
「へぇ」
結果としてルキナの思惑は見事功を奏し顔に深い切り傷を三本程負っただけで戦闘に支障がないレベルに抑えて見せた。
「よく避けたもんだ」
「お生憎、徒手空拳を扱う一族だから徒手空拳の流し方にも精通しているわ」
お互いに腕を交差させた状況で場は硬直する。しかし忘れてはいけない。これは綺麗事で成り立っている試合ではない、一種の戦争だ。審判なんていないし殺した者が勝者で殺された者は敗者、そんな単純な話。故に徒手空拳のみなんて馬鹿げた話はなかった。
キュィ
交差していたロストの右腕からそんな異音が鳴った。
「ほら、避けなきゃ頭が吹っ飛ぶぞ?」
バゴンッ!
「ッ!」
ロストの義手から鉄塊が勢いよく飛び出す。ルキナは瞬時に交差していた腕を離すまでは出来たがそこから距離を取らなければ自分の命は消し飛んでしまう。そこで手甲をしていた腕をなんとか顔の前に持ってくる。
ガギィン!
鉄を引き裂くような音が鳴った後ルキナは自分の腕が弾き飛ばされたのだと分かった。
(何て火力!私の手甲は弾き飛ばすなんて!)
腕は強い痺れが走り暫くは使い物になりそうではなかった。
「防ぐか」
必死に距離を取る。未知の戦法に未知の武具。間合いも分からなければ攻めるに攻められない。
「やりにくい人」
「お褒めに預かり恐悦至極、とでも言えばいいのか?」
「冗談」
「さて、どんどんいくぞ?」
ロストの両腕に握られるはアイン、ツヴァイ。ロストの愛銃だ。
「簡単に逃げられると思うなよ?」
バンッ!ババンッ!
左右から同時に発射される弾丸。ルキナは見たこともない武器から放たれた弾丸に危機感を覚えた。あれに当たれば命はないのだと。
「そう簡単に避けられる代物じゃないぞ?」
二つの銃弾はルキナの横を通り過ぎた。しかし銃弾はその場に落ちていた兵士の剣に当たり跳ね返って再び戻ってくる。
「ここの騎士団の置き土産だ」
「くそっ!」
やはりどうあっても弾丸はルキナに迫る。
「ちっ」
どこまでも追ってくるのなら、あえて受けに行くしか勝機はない。
「ハァ!」
ルキナは二つの拳を叩き落す様に振り下ろした。
ガツンッ!
「ほぉ、銃弾を叩き落すなんてな。普段から動体視力も鍛えてる証拠だな」
ルキナはここに至りようやく理解した。自分はまだ手加減されている。そして自分もまだ甘く見ていたことを。
(やるしかないか)
ルキナは一つ深呼吸を行う。
「何するつもりだ?」
「貴方の精神を、壊す」
ルキナの二つの拳に黒色の魔法陣が浮かび上がる。
「私の聖剣、アポクリファは相手を傷つける聖剣じゃない」
そう、ベディヴィエール家の聖剣は相手を傷つける聖剣ではなかった。相手を壊す剣だ。
「精神崩壊」
ベディヴィエール家は闇魔法を扱う一族。その魔法の真髄は相手の精神を壊し、戦闘不能にさせる、情報を引き出す。
「これで貴方はもう立ち直れない」
ロストはその場で立ち尽くす。
「さて、止めを刺そうかしら」
腰から一本のナイフをルキナは抜く。そのまま立ち尽くすロストに歩いて行き、一瞬で地に伏せていた。
「え?」
「精神崩壊ねぇ。名前、変えた方いいんじゃないのか?」
「な、何故」
「相手のトラウマを抉り出すだけの魔術。そんなもの、克服してる人間なら何の意味もないじゃないか」
「でも最大の心の傷を引き出したはず!何故平気でいられるのよ!」
「何で?」
そこでロストは笑う。
「そりゃ、心の支柱の太さも違うし、そのトラウマももう下らないと割り切ってるしな」
そこでロストは髑髏の面を外す。
「あ、貴方・・・」
「思い出したかよ?お前ら十二魔騎士の下らない理由で捨てられて何もかも奪われた俺を」
「い、生きてたのね」
「まあな。とりあえず」
ゴキッ!
「あああ!!」
ルキナの足の一本をロストは何の躊躇いもなくへし折った。
「どうだ?幼い頃はこれとは比較にならない痛みを俺はお前達に味合わされたんだぞ?」
「うぐっ」
「それ、もう一本」
ゴキッ!
「あぁぁ!!」
ロストは一息に折るのではなくゆっくりと曲げていき骨を折っていた。
「これでまず逃げられなくなったな。次は腕か」
「や、やめ」
「やめて、なんて言うんじゃないぞ?俺がやめてくれって言ってもやめなかったじゃないか、あんたたちは」
ゴキッ!
更に日本の腕をロストは折った。
「はっ、徒手格闘もこれじゃ出来ないな?四肢が動かないんだもんな」
そしてロストは銃口をルキナの額に押し付ける。
「じゃあな、闇魔法を扱う十二魔騎士。俺の闇はお前達が扱う闇程明るくないぞ」
パンッ!
夕闇の中、真っ赤な灯が飛び散った。
「あと八家」