第七十話 復讐者
アヴァロンは十二人の支配者たちが治めている。十二人は十二魔騎士と言われ一人一人が絶大な力を誇っている。彼等の苗字には誰もがひれ伏した。誰も敵うこと叶わず、苗字は世界に一つしか存在しない。アーサー家、ランスロット家、ガウェイン家、トリスタン家、ガラハド家、モルドレッド家、パラメデス家、ケイ家、ユーウェイン家、ボールス家、ベディヴィエール家、パーシヴァル家の十二家。名を出せば誰もが震えた、恐れた、そして憧れた。国の子供達は誰もかれもが一度は言った。
あの人達みたいになりたい。
彼等は素晴らしい人物だ。力があって、優しくて、皆から信頼されている素晴らしい人達。
「・・・」
そんな物は嘘っぱちだ。力がなければ切り捨てる。力が無い者のみならず無い者の家族すらも躊躇なく切り捨てる。それが例え自分の妻だろうと関係がない。
「本当にふざけた連中だ」
歩く、奴らが構える住処までの道のりを。並び立つ十一の豪邸、一つの王城の入口たる門。
「待ってください」
「?」
門に踏み入ろうとした人物を見る。一見丁寧な言葉遣いに見えるが立ち姿に一つも隙がないのだ。恐らく国のエリート、王族直属の騎士団というところか。
「これより先は我らが主たちが住まう場。口添えがない方を入れるわけには・・・あれ?」
門番は訝しむ。目の前に怪しげな人物がいたのに突然消えたのだ。
「その言葉、聞き飽きた」
バツンッ!!
異音が鳴った後門番だった者の頭部は消し飛び崩れ落ちた。
「ダメだなぁ、ダメだ。もう駄目だ歯止めがきかねええよおおお!!!!」
ロストは獣のように咆哮を上げる。
「何だ!?」
「!おい、あれ!!」
「っ、リード!」
「あん?こいつリードって名前だったのか」
「お前かぁ!よくもリードをっ」
騎士団は全員殺気立ち向かってくる。表面上は激怒し向かってきているように思えるが構えには一切乱れがなく内心は冷静であることが見て取れた。
「死ね」
騎士団たちは洗練された連携でロストに向かってくる。
「邪魔をするなぁ!!」
一喝。
「えっ?」
騎士団全員が驚愕した、一瞬にして視界が暗転したのだ。騎士団が一瞬で命を散らした。
「ここからだ、少しでも邪魔をしてみろ・・・消し飛ばしてやる」
そのまま十二魔騎士の住んでいる方へ歩を進める。
「あ?侵入者だって?」
アヴァロン十二魔騎士の一つ、ボールス家。屋敷の執務室の中に現当主であるアトス・ボールスが一つの報告を受ける。
「ったく、被害はどれくらいだ?」
「騎士団が、全滅しました」
「何?騎士団が全滅だと?」
アトスは内心驚愕していた。騎士団は十二魔騎士の次に実力が高い集団だ。そう簡単にやられる集団ではないことは十二魔騎士がよく知っている。
「一体どんな奴が相手だったんだ?」
「情報では白のローブに骸骨の仮面を付けている、と・・・」
「骸骨の仮面?」
「はい。今現在街にある戦力を全てこちらに回しています」
「全戦力を回す?そこまでのやつなのか」
「どうやら止められない様です」
「侵入者の目的は分かるか?」
「いえ・・・ただこちらに向かってきてはいるようです」
「こっちに?」
こちらに向かってきていると言われてもあるのは王城を含め十二魔騎士の城だけだ。
「となると、目的地は俺達十二魔騎士か・・・」
席を立ち、机の棚から一振りのナイフを取り出す。
「まあいい、俺が直接出る」
「アトス様自らですか!?」
「どちらにせよ騎士団が敵わないなら十二魔騎士がどうにかするしかないだろう?」
「それはそうですが・・・」
「いいからお前は他の十二魔騎士に声をかけて来てくれ」
「分かりました」
「さて、行くと」
バコォン!!
アトスの言葉を一つの爆音が遮る。
「おいおい、こりゃまさか・・・」
「ええ、例の侵入者でしょう」
「丁度いい、出向かう手間が省けたってもんだぜ」
そのまま爆音が聞こえた城の正門に向かう。
「マジかよ。本当に骸骨の面をしてるんだな」
「ああ?」
骸骨の面をしたロストは十二魔騎士の城と思わしき場所の正門をぶち壊した後声の聞こえた方に視線を向ける。そこにいたのはかつての同期。
十年以上経って姿は変わっている。だが見間違えるはずがない。復讐の事を忘れた日は一日とてない。
「お前か?騎士団を全員殺したってのは」
「・・・」
「無言かよ。まあいい、お前は自分が手を出した相手は決して触れてはならなかった相手だということを思い知らせてやる」
「・・・」
「まあいい、ここで死ね!」
ボールス家は空間魔法を扱う一族である。常に戦争用の物資を空間魔法に仕舞っている。食料も、水も、武器もほぼ無尽蔵に。物量で押し潰すのがボールス家の戦い方である。展開した空間から剣、槍、斧、無造作に全てロストに降り注ぐ。
「ぶっ潰れろ」
「ハッ」
そこでロストは一笑する。
バンッ!!ギィィンン、カキン!
降り注いだ凶器は全てロストの銃弾に弾かれ、逸らされ、撃ち砕かれた。
「世界の十二魔騎士の一角がこの程度かよ、笑わせるな」
「誰が」
その瞬間ロストの周囲に先程の倍近くはある空間の扉が開かれる。
「この程度だって?」
剣、槍、斧、曲刀、ありとあらゆる武器が更にロストの周囲に展開される。
「降り注げ!」
バツンッ!ギィィィン!
降り注がれた武器は全てロストに撃ち砕かれた。
「お前がこの程度だと言っているんだよ」
「なっ」
今までアトスの物量に太刀打ち出来た敵は誰一人としていなかった。しかし、目の前の敵はなんだ。自分の物量の全てを砕かれた。今までの敵は全てこれでやられた、なのに何でこいつは死なない。
「どうした?まだ何かあるのか?あるなら出してみろ」
「くっ」
アトスは全力で後退する。この館は自分の館だ、館の勝手は自分が一番知っている。
「追いかけっこか?はっ、懐かしいなぁ。いいぜ、やってやる」
「懐かしいだと?」
疑問に思ったもののアトスは全力で退く。何なんだあいつは、何故平然としていられる。天下の十二魔騎士だぞ、少しは恐れを持て、止まらない。十数年感じていなかった恐怖。狩る側ではなく狩られる側。今まで自分は狩人だった。なのに今は獲物だ、どういうことだ。何故自分は獲物になっている。
「ふざけやがって!」
食堂の扉を壊す勢いで飛び込み開く。
「俺は狩人だ、お前が獲物なんだよ!」
「へぇ、面白い理論だ」
「!?」
アトスの耳元から声がする。自分を狙う狩人の声が。
「そんな理論誰が考えたんだよ、お前か?それとも十二魔騎士独自の理論か?」
「な、何なんだよ!!」
声から必死に離れようと動く。
「ハァ・・・こんなもんかよ。笑わせないでくれ」
「侮るな!」
ボールス家に代々伝わる聖剣。見た目は小振りのナイフだが見た目の性能ほど攻撃力は低くない。ナイフは攻撃手段というより鍵という意味合いが強い。即ちナイフを振れば振るほど空間の門が開く。アトスはこの際全ての物資をロストに向ける勢いで空間を開く。
「押し潰す」
全ての門がロストを取り囲む。数は百を下らず全てから武器が覗いていた。
「何回やれば気が済むんだ。これがお前の全力みたいだな・・・もういいや」
バンッ!ガキン!キィィィィン!
全ての剣、槍、斧などの刀身に当て砕き、砕いた破片すらも利用し跳弾させ撃ち抜く。
「そ・・・そんな」
「所詮十二魔騎士もこの程度か」
「く、来るな!!」」
そのままロストはアトスに歩み寄る。
「何なんだ、お前は一体誰なんだ・・・」
「・・・はっ」
カシュッ
面を外し素顔を露わにする。
「お、お前!!」
「久しぶりだなぁ、アトス。お前にリンチされた時以来か?」
「る、ルーク!」
「ルークは今ランスロット家にいるじゃないか。なぁ?」
眼には憎悪と狂気しか浮かんでいない。
「ま、待て、待ってくれ!!」
アトスは後ずさることしか出来ない。
『ギャアアアァァ!!』
『イヤァ!!』
「な、何の声だ!」
「ああ。お前の家の両親、兄妹、使用人の焼焦げる断末魔じゃないか?」
「な!?」
「どんな気分なんだろうな?水に付けても魔法を使っても一切消えない地獄の業火で焼き殺されるってのは」
「そんな・・・」
「まあしょうがねえよな?俺にやった事をお前たちは虫を無邪気に殺してた感覚だったのかもしれないけど、俺からすれば憎しみを募らせるには十分だったよ」
ゴリッ
銃口がアトスの頭に押し付ける。
「や、やめてくれ。俺が悪かった、頼む!!」
「そう言って許してくれたこと、あったか?」
「や、やめろぉ!」
「じゃあな」
パァン
その日世界最強の十二魔騎士の一角であるボールス家が崩壊した。
「あと十一家」
ロストは面を付け、アトスの血を手に塗りたくり、玄関へ行く。
「狼煙代わりだ」
正門に血で文字を描く。
vendetta(血の復讐)