第六十話 想いを断つ
世界を統べる超大国アヴァロン。アヴァロンには当然様々な施設がある。けが人を治すための治療院、訪れるお客に料理を提供する飲食店、この国のここによれば揃わないものはないと言われる商店街。大国は様々な施設が揃っている。その数ある施設の一つ、アヴァロン魔法学園。この学園は世界有数の魔法の学園であり、ここには世界各地の魔法を学ぶ事が出来る施設でもある。ここに通える人物は絞られる。国有数の貴族の出の者、この学園に必死に夢を賭けて勉学に励み入学したもの、学園側から勧誘を受け是非とも来てほしいと言われるほどに優秀な成績もしくは功績を残した者。様々な人物がこの学園に通っている。この学園を上位の成績で卒業した者は全て国に名を遺している。その学園で注目されている女子生徒が一人。
「見て、セレナ様よ」
「今日もお美しい」
「綺麗・・・」
セレナ・アーサー。この国の貴族の中の貴族、12魔騎士の長アーサー家の才女。見た目は金糸と見紛うような流麗な髪、様々な名匠が各自意匠を凝らせ最高傑作と言わしめる人形のもう一段上と言っても過言ではない程の顔立ちをしている。そして見た目だけではない実力でも国の中でも屈指の実力を誇っている。そんな彼女は学園の渡り廊下で愁いた表情で中庭を眺めていた。
(もうすぐ結婚式・・・か。好きでもない相手との結婚、しかも相手が想い人と同じ名前なんて、皮肉が利いてるわね)
この国は18歳で成人が認められる。故に結婚可能も18歳からとなる。これまで結婚せずに婚約止まりになっていたのはこの国を統べる王の一族が国の法律を破るのはダメだと一族の総意によるものだった。
(力が弱い者は追放する一族が決まり事を守る?馬鹿馬鹿しいにも程があるわ。決まり事を守る前に一人の人間の扱い方を学びなさい)
セレナは美しい中庭を似合わない表情で眺め続ける。そんな彼女の元に一人の青年が歩み寄る。
「こんなところにいたのかよ、セレナ」
「・・・・ルーク」
セレナはこの名前を目の前の青年に呼びかけるときは必ず一泊を上げるか苦虫を噛み潰したような顔をして言う。
「ったく、そんな顔するなよな」
青年は苦笑して言い放つ。
「ルーク様・・・」
「素敵」
彼もまた顔立ちが非常に整っている美丈夫である。銀色の髪を短めに切り揃え、碧色の眼は何者も見通すように澄んでいる。実力も間違いなくこの国で3本の指に入る程の実力者でもある。
「実力と知略、女神の美貌を兼ね備えたセレナ様、戦となれば百戦錬磨の実力を発揮し、戦況を的確に見極める慧眼を持つルーク様・・・お似合いだわ」
「そうね」
二人を遠巻きに眺める学園の生徒達は二人をお似合いだと囃し立てる。
「それで、何の用かしら。あまり暇ではないの、私も。何か用があるのなら手短に頼むわ」
「相変わらず冷たいねぇ。ま、いいや。これから12魔騎士の一族会議がある。セレナも来い、例の組織についての話だ」
「そう」
「俺は先に行ってるぞ、早く来いよ」
「分かったわ」
そう言ってルークは学園の廊下を歩いて行く。
(例の組織、ねえ。本当にいるのかしら・・・この世界に革命を起こそうとしてる組織があるなんて、信じられないわ)
「はぁ・・・」
セレナは一つため息をつき歩みを進める。
「・・・・」
セレナが少し歩みを進めてから足を止める。
「・・・・」
セレナはおもむろに胸にあったロケットペンダントを取り出し開く。そこには幼きセレナと元ルーク・ランスロットが映っていた。セレナは花畑で座りルークは彼女のために必死で作った不格好な花の冠をセレナの頭にのせていた。
彼女は思う、この時はどれだけ幸せだっただろう。適性検査で彼が無能と分かった途端彼の周囲は瞬く間に手のひらを返した。優しかった大人たちはその優しさを侮蔑に変え、彼の回りにいた同年代は期待と尊敬を嘲笑に変えた。セレナは当時6歳、周りに影響を及ぼせるほどの権力なんて当然持っている訳もなく、あっという間にセレナの前からルークは消えた。
「・・・っく」
ロケットペンダントの上に一滴の雫が零れ落ちた。
「あれ、もう克服したと思ってたのに・・・やっぱり慣れないや」
すぐに涙を拭い、再び足を進める。その中セレナはまだ彼への想いを捨てきれないことを再認識する。
「今は、目の前の事に集中しよう。まずは組織についてだ」
セレナは自分の頬を一つ叩き、気合いを入れ直し12魔騎士が集まっている会議場所に向かった。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
今回は久しぶりに12魔騎士を登場させました。これからどんどん出番が増えてくるかも?