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有無の騎士  作者: 七咲衣
鴉の巣窟
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第五十九話 対立

「・・・」


地図にも載っていない荒野にヒッソリと佇む砦。その砦の中心部の広場には八人の青年と女性がいた。しかし八人ともただ無言で椅子に座っていた。ある者は息を呑み、ある者は笑みを浮かべ、ある者は興味なさげに、ある者はただ無言を貫いていた。


「おいおい、それは冗談じゃないのか?見間違いとか」

「いや、間違いではない」


そう問われた質問に確固たる自信を持って答えた女性がいる。彼女の名はナナ・ルカト。かつて死にかけだったロストを絶望の淵から掬い上げ、今のロストを生み出したと言っても過言ではない女性である。


「ナナ、どうして分かるんだ?」


そう問うのは金色の髪を短く切り揃え、筋肉質な青年、トールである。彼は不思議そうにナナに問う。


「今までずっと音信不通だったんだろ?俺達全員あいつは死んだんだと思っていたんだが・・・・」

「ああ、それについてはロストと私が出会った時の話になるのだが、ロストと私が出会った時彼は既に満身創痍の状態でな。下手をすれば死んでいた。だが彼を治癒するのに、私の炎の一部を彼に与えて治癒したんだ。以降彼の体内には私の炎の反応が残るようになっていた。それをとある男の魔法でずっと世界中に探索をかけていた。今まで音信不通だったんだが、つい先日いきなりその反応が現れた。反応があるということは彼は間違いなく生きている」

「なるほどね」


水色の髪を腰まで伸ばし落ち着いた雰囲気を出している女性、アルテミスは冷静に相槌をうつ」


「だが彼は『魔神の食堂』にいたんだ。あそこはどんな国も人も立ち入ることすらしなかった未知の領域だ。それもかなりの深部にいたはず・・・そこから這い上がってきた、ということは」

「恐らく強大な力、もしくは特殊能力を得ている可能性がある、ということですわね?」


金色の髪を縦ロールにしたレアは腕を組んで自分の考えを述べる。


「ああ、私もそうなのではないかと思っている」


ナナはレアの考えに賛同する。


「ああ、なるほどな」


黒色の髪をした青年、アレスはナナのやりたいことが分かったような口ぶりをする。


「つまり今回集合をかけたのは、未知の領域から這い上がってきたロストあいつを出迎えに行け、と?」

「そういうことだ」


アレスの考えにナナは頷く。


「それはまた、随分と大げさなことをするんだな」

「そうだね。こう言っちゃ自意識過剰に思われるかもしれないけど、今からやることって多分私達全員でロストを迎えに行けってことでしょ?私達八人が一緒に外出するって、それ国3つ分の戦力を動かすってのと同意義なんだけど?」


暖かな色を感じさせる琥珀色の髪をしたティアは少し意外そうに眉を上げ言外に今の自分達の戦力を国3つに匹敵すると言ってのける。


「確かに過剰戦力と思うかもしれない、だが頼む。彼を、ロストを何としてもここに連れ戻すためだ、私は彼を連れ戻すためならば君達を動かすに値すると判断する」

「それはまた・・・」

「・・・うん、随分と大掛かりなことをするんだね」


黒より更に深い漆黒の髪を肩口で切り揃えている女性、タナトスも意外そうな声を上げる。


「さて、諸君私の提案を受けてくれるか?」

「ムシャムシャ」


黒色の髪をし、身長の倍以上はある大剣を背中に背負った青年、ハデスは興味なさげに果物を自由気ままにかじる。


「・・・いいだろ」

「ロキ?」


青色の髪をした青年、ロキは意味ありげな笑みを浮かべナナの提案を受け入れる。


「あの『魔神の食堂』から生き残ってきた奴なんて、面白そうじゃないか。俺は行かせてもらうぞ。10年前は、あまり面白くない奴だと思っていたが・・・中々面白くなってきたじゃないか」


ロキは楽しそうに言う。


「ナナ、案内しろ」

「・・・そうだな、久しぶりに旧友に会いに行ってやるか」


他の面々も同意する。


「感謝する」


ナナは頭を下げる。


「よし、んじゃ懐かしの友人の顔を見に行ってくるか!」


その後広場には誰もいなかった。











「久々に・・・外に出たな」

「ロストは10年ぶりなんじゃない?」

「ああ、そういえば本物の太陽はそれくらいになるのか。思い返してみると、長かったな」

「これからどうするの?」

「決まってる、復讐だ。アヴァロンに向かうさ」

「早速目標に向かうんだね」

「ああ、そのために這い上がってきたんだからな」


ロストとクロエは一つの街道に出ていた。二人は徒歩で道を歩く。




復讐を果たすべき場所に向け、ロストは一歩踏み出した。














『魔神の食堂』の最深部。そこには二人の青年と一人の女性がいた場所だった。しかし今そこには青年一人しかいなかった。


「・・・凄く、静かになっちゃったな」


エルは頭の後ろをポリポリと書きながら、かつての住居を見回る。


御伽噺に出てくるかのような幻想的な庭園。

石造りの噴水

一人の青年の新たな手足を付けた工房

三人で三食を共にした住処。


「ああ、何もかも・・・夢のように楽しかった」


エルはそのまま歩みを進める。大事な時間を噛みしめるように、踏みしめるように歩く。決して、忘れないように。


「エル様」

「ああ、君か。凄く、久しぶりだね」

「エル様もお変わりなく、安心しましたぞ」


エルに話しかけたのは、かつて主食の間にいたモノ・・。この場に突然現れたにも関わらず、エルは自然な笑みでを見つめた。


「君には、随分と無理をさせちゃったね。本当なら死後の安らぎを得られていたのに、こんなにも長い時間を付き合わせてしまった」

「いえ、好きでやったことですから」

「全く、まさか僕の計画にここまで一緒に加担してくれるとは、思ってもいなかったよ?」

「はは・・・一応、エル様の一番弟子・・・・ですから」


そういって彼は苦笑する。


「ですが、これで」

「ああ、お役御免だ。すぐにとそう」

「お願いしますぞ。では、お先に失礼します」

「ああ。本当に、ありがとう」


そう言ってエルは彼の額に手をあて、横に手を振り払うと糸の切れた人形のように彼の体は崩れ落ちた。


「お役目ご苦労」


そう言ってエルは歩き出す。そのままずっと歩いて行き、最深部のさらに奥。かつて一人の女性が眠っていた装置のある場所にエルは辿り着く。エルはその場にあった機械に特殊なコードを打ち込む。その途端機械が横に動き始め、一つの洞窟が姿を見せる。その洞窟をエルは物怖じせず通る。洞窟はすぐに終わり、一つのちょっとした広場に出る。広場とはいえ、それほど大きくはない場所だったがその広場の奥の壁際に、一つの杖が突き刺さっていた。


「やっぱり、終わるならここだ」


カシュッ


そんな異音が響いた後、エルの左手が抜け落ちた。しかしエルは気にすることはなく、そのまま歩く。次に右腕が抜け落ちたがそれでも気にしない。そして杖の突き刺さっている壁際に辿り着いた後、杖の横に座り込む。


「ああ・・・永かった。本当に永い時間を生きることになったよ」


エルは一人虚空に誰もいないはずなのにそこに誰かがいるように話しかける。そこには誰もいないはずなのに、声に返しがあった。


「大変だったんだね、お疲れさま・・・・エル」


慈しむような声があった。その声に対してエルがした反応は驚きでもなく涙でもなく、苦笑だった。


「ああ、本当に大変だったよ。でも、やっとこれで終わる。僕も君の方に行くことが出来る」

「そうだね、これでよかったんだよ。ロスト君とクロエちゃんも結ばれたんだしね」


フフっ、と穏やかに笑う反応が帰ってくる。


「でもエルはこっちに来るまで相当かかるでしょ?どうせまた私が迎えに行かなきゃ絶対何処かで道草を食うんだから」

「むっ、痛いところを突かれるなあ」

「だから、そっちに私が迎えにいくよ」

「ああ・・・・それじゃあ・・・・頼むよ」


そう言ってエルは瞳を閉じる。重い荷物がようやく降りて、とても幸せそうに目を閉じる。





それから彼の眼が再び開くことは二度となかった。


最後まで読んでくださってありがとうございます。

今回の話で少し謎だった主食の人物の正体が露わに。そして一人の青年は一人の少女に再開し、共に歩み始めることが無事出来ました。

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