第六話 片鱗を見せた才能
「着いたぞ」
「ここが・・・」
ロストの目の前に広がるのは暗い、真っ暗闇な城だった。
「そうだ。ここでお前には数々の試練を受けてもらおう」
「はい」
「私は会いに来ることはないだろうが、10年後の今日にまた来るぞ」
「分かりました。必ず生き延びます」
「いい心掛けだ。その意気で10年後もまた会おう」
「はい」
そして彼女は魔導車に乗り込もうとした時だった。ふと彼女は足を止めこちらへ振り向く
「?」
ロストは不思議そうな顔をして見つめている。
「お前、武器がないんだったな・・・」
「あ・・・僕には剣の才能も魔法の才能もないので・・・すいません・・・」
ロストは申し訳なさそうな顔をして謝る。
「お前が謝ることじゃない。それに剣をを与えても扱えるわけじゃないし魔法の才能もからっきしなお前だ」
「・・・」
「しかし、だ。私はお前の才能を知っている。その才能を活かす武器をやろう」
「え?」
ロストは呆けた顔をし不思議そうにこちらを見ている。
「言っただろう。お前にはすごい才能があると。すぐに渡すから待ってろ」
そう言って彼女は腕に魔力を集中し始めた。
「すごいや・・・」
魔力というのは基本目に見ることはできないが相当の魔力を込めれば視認できるようにはなる。しかし、それは漠然としたようなもので弱々しい光でしか見れない。しかし彼女の手元の魔力はしっかりと目で視認できるようになっている。それはそれだけの魔力を手に込めているということだ。そしてその魔力は徐々に徐々に形を作っていき最終的には・・・
「これがお前の才能を活かす武器だ」
「これは・・・弓?」
この世界で弓は魔法がまだあまり普及していない時代に使われていたが戦争で魔法が絶大な力を持つと分かってからは見向きもされず、魔法が使えない兵士もごくごく僅かながら魔力は持っているため魔力を僅かでも込め、人を殺せる力が出せる魔法弓という魔法具に乗り換えていった。
「それは弓とは少し違う」
「あ」
確かに彼が持っているものは弓と構造が違う。弓ならば大きく構えて放つものだが、彼が手にしているのは弓を小さくし、矢を引いて放つ元来のものではなく、矢を引っ掛け後ろに引いて固定する。そして・・・
「なんだろう。この下にあるスイッチ・・・」
カチッ、ヒュンッ!
「うわ!」
ロストはスイッチを押した瞬間一気に飛び出した弓矢に相当驚いた。
「なんです、これ・・・弓矢っていうのは腕で引いて放つものじゃないんですか?」
「それはボウガンと呼ばれるものさ」
「ぼ、ボウガン?」
初耳だった。しかしこのボウガンというのは小さく、素早く矢を装填でき、音もなく放つことができる。それに子供の力でも引きやすいような仕掛けが施されている。
「もう一度矢を引っ掛けてごらん」
「こう、かな・・・」
初めて触ったはずの武器なのにまるで元々自分の手にあったような感覚。矢の装填の仕方なんて聞いたことも習ったこともないのになんとなく分かる。
カチャッ
「さすがだな。私の目に狂いはなかった」
「え?」
「教えられてもいないのにその流れるように行う装填動作。そしてなにより・・・」
ボウッ!
いきなりロストに向かって小さな火の小鳥が飛んできた。
「ッ!」
ヒュッ!
「さすがだな」
ロストの持つボウガンから放たれた矢は寸分違わず火の小鳥の頭を正確に射抜いた。
「あ・・・」
今、ロストが何をしたのか。それはただただ単純なこと。
飛んできた小鳥を射抜いただけ。しかしそれがどれだけ難しいことか。通常の人はボウガンの射撃などは訓練をしなければ正しいボウガンの構え方や高さ調整などはできない。しかしそれを彼は自分の手に持っていたボウガンを流れるように構え、小鳥の頭と最適な高さ、最適な角度、風の流れ。その全てを読み切りボウガンの引き金を引いたのだ。
「それがお前の才能の片鱗だ。お前に相応しい武器はこれではないが一先ずこれで代用だ」
「わ、分かりました」
ロストは少し戸惑っている。なにせ自分でも殆ど無意識に構えてしまったのだ。
「くっくっく。これは10年後のお前が末恐ろしいな。楽しみにしているぞ、10年後を」
「は、はい!ありがとうございました!」
そして彼女はそろそろ出発しようと車に乗ろうとした。
「もう一つ言い忘れていたな」
また立ち止まり大事なことを言うのを忘れていた、というようにこちらへ振り返り美しい笑顔で言う。
「ナナ。ナナ・ルカト。それが私の名前だ」
「は、はい!忘れません、ナナさん!」
「そうか」
彼女は微笑み魔導車に乗り込み、去っていった。
「また、会いましょう。ナナさん。10年後、またここで」
そう言い残し彼は真っ暗な砦に入っていった。
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