第五十六話 巣立ち
新章のタイトルが思いつかない事件
「うん、おかえり」
「ああ。ただいま」
「ただいま」
エルが二人を迎える。
「君なら出来ると、思ってたよ」
「ああ、やれたよ。でも結構な強敵と戦う羽目になったけどな」
「そうかい」
「そうだよ」
二人で笑いあう。
「も~う、二人で分かりあって~・・・私も入る~!」
クロエがロストに抱き着く。
「っと、全く。やはり変わらないな、クロエ」
「ロストは私が変わった方よかった?」
「いや?俺はどんなクロエでも好きさ」
「もう!だから好き」
「ははは」
「うふふ」
「あの~・・・惚気はその辺でいい?」
「ああ、ごめん」
「はぁ、まあいいけど。とりあえず、ご飯食べよう」
「そうだな」
「私も食べる~」
それから三人だけの晩餐会が始まった。
「あ、エル!それ俺の唐揚げだ!食うな!!」
「いいじゃないかぁ。うまっ」
「もう、騒がしいなぁ。楽しいからいいけど」
「フォローしてくれよ!?」
「うふふ」
平和な時間が三人を包んでいた。
それから夜を迎える。静謐な夜の庭園に一人の青年が佇んでいた。もう一人の青年が近づく。
「ロスト君かい?」
「よく分かったな」
「まあ付き合い長いしね」
「ふっ・・・まあそうだな」
「・・・・・・一つだけ。一つだけ、聞いてもいいかな?」
「何だ?」
「君は、君なら、ロロナを救えたのかい?」
それはエルが長年抱き続けた疑問。エルの胸に燻り続けた問。ロストはエルが気を失っている間、ロロナを見ていた。それを止められたのではないか、ロロナが命を失わずにすんだ結果を作れたのかもしれない。そんな問いがずっと、『主食の間』で再び見た時から。
「俺なら救えたのか、か。難しい問いだな」
「・・・・」
「でも俺は、救えなかったと思う」
「本当に?君は治癒魔法だって相当な腕前を誇ってるだろう。なら、なら!!」
「誰が彼女の意思と行動を無意味な行動に落とすことが出来る。少なくとも俺は彼女の決死の決断を、無意味に終わらせたくはなかった。仮に救える状況になっていたとしても、俺は救わなかった」
「決死の判断、か。それは考えてなかったな。僕は彼女に生きてほしいって、思い続けてただけだった。これじゃ、ロロナを愛してた、なんて言えないな」
エルは自嘲する。
「それは違う、違うだろ」
「え?」
「お前は彼女の望みを十分に果たしている。彼女の生きろ、という望みを十分果たしているじゃないか」
「・・・・果たしているか」
「ああ」
「そうかな?」
「ああ」
「なら・・・いい」
「ああ」
それからしばらく二人は静かに庭園に佇んでいた。
「おっはよー!ロスト、朝だよ!」
「おぶっ!」
ロストが寝ていたベッドにクロエがダイブする。
「ク、クロエ。ベッドに・・・ダイブするのは、や・・・やめて。鳩尾に、は・・・入った」
「う~ん?動けないの?」
「み、見て分からない?」
「うふふ。ごめんね、こうやってまたロストとじゃれ合いが出来るのが幸せで」
「む」
そう言われただけでロストは何も言えなくなった。
「ほら、行こ!朝ごはんとか出来てるから!」
「あ、ああ」
そう言って手を引かれて食卓につく。
「それで、ロスト君」
「ん?なんだよ」
「君は、もう地上にいつ出てもいいんだろう?」
「・・・ああ」
「そっか、ロストはここを出るんだったね」
「ああ。ここを出なくちゃ、俺の目的は果たせないだろ」
「じゃあ私も行く~」
「ええ、そんな簡単に・・・それに、大分危険だぞ?」
「いいよ、ずっと付いて行くから!」
「そうかい」
「簡単に折れるんだな」
エルは笑顔で見守っている。
「それで、エル。お前はどうするんだ?」
「うん?」
「俺に付いてくるのか?」
エルは首を振る。
「いいや、行かない。僕のするべき事は、全部済んだんだ」
「そうか」
「僕の人生は、ここで終わりだよ」
ロストは腕を組み、静かに目を瞑る。
「僕の人生はそりゃ大変だっただろうし、人より長く生きた。辛かったことも沢山あったけど・・・僕は満足だ」
「ああ」
「じゃあ、この朝ごはんが」
「うん、三人での最後の時間になる」
「そう・・・」
「さ!しめっぽいのは終わり!さっさと食べよう」
「そうだな」
そこから三人の朝餉が始まる。いつもと変わらない、明るい朝食が。
「お別れ、だな」
「世話になったな」
「本当にね」
二人で笑いあう。
「ここを真っ直ぐ行けば、外に転移する魔法陣がある」
「そうか」
「ありがとう」
「うん、じゃあ」
「ああ、さよならだ。俺の親友」
「え?」
「俺は友達がいなかったからな。ダメか?」
「いや、嬉しいよ」
「じゃあな」
互いに手を振る。
一人は見送る
二人は歩き出す
人が一切寄り付かないような山に一つの要塞、とも言える城が建っていた。その城のとある一室、呼び出された女性と呼び出した男性が会話をしていた。
「何!?それは本当か!!」
「ええ。僕も驚きました。まさか一度消えた信号が再び出て来るなんて・・・」
「場所は!?」
「知ってますけど、どうするんです?」
「決まっているだろう!迎えに行くんだ!!」
「ふぅん。ま、いいですけどね」
「さっさと教えろ!」
「はいはい・・・」
男性の方は黒いローブを被り、部屋の暗闇と一体化しているような男だった。そんな男が女性に一枚の紙を渡す。女性は紙を受け取った途端部屋を飛び出した。暗闇が広がる部屋にはローブの男がひっそりと椅子に座っていた。
「まさか、彼が戻ってくるなんてねぇ・・・」
最後まで読んでくださってありがとうございます。
前書きに書いた通りタイトル思いつかない大事件起きてしまいしばらくはこのままになりそうです・・・思いつき次第設定しておくことにします。