第五十四話 勇者と魔神と無の騎士7
「あんまり慣れてないから、奥の手だったんだが・・・。まあ俺の武器が壊されたし、丁度いい機会だったのかもしれないな」
邪龍の操作を強制的に引きはがされ邪龍の首からルークが這い出てきた。
「な・・・ど、どうやって・・・」
「どうやっても何も、新しい銃を引っ張り出して撃っただけだが?」
ロストは平然と言い放つ。
「馬鹿な、それでは僕が気が付かない訳がない!」
「うーん、というか俺の今したことに気付けるんだったらお前化物だぞ」
ロストは両手に持ったリボルバーを回しながら返答する。
「き、君のその武器は邪龍の頭を掻き消すほどの威力はなかったはずだ・・・」
「ああ。まあ確かに普通のリボルバーなら消し飛ばせないだろう。だが、この銃はお前が壊したのとは一味も二味も違ってな。それにただ撃っただけじゃない、少し魔法を使った」
「魔法・・・?」
「ああ」
「く・・・」
「うん、思ったより使えるな。新しくてしっくりくるか不安だったが心配する必要はなさそうだ」
ルークは聖剣を杖に立ち上がる。
「くっ・・・」
「おいおい、フラフラで今にも倒れそうじゃないか。それで大丈夫なのかよ」
「はは、ここまで魔力を・・・・・消費させられたのは、初めてだ・・・・」
「俺はお前を追い詰めてるってことでいいのか?」
「ま、まあそうなるかな」
「じゃあ、止めを刺すか」
「容赦ないんだなぁ・・・」
「容赦してたら獲られるのは自分だ。そんなことはもう大分前に学んでるよ」
ルークは自分の命が絶たれそうな今においてもまだ手を残している感じがある。
「お前のことだ、止めを刺そうとしてもまだ何か手を残してるんだろう?」
「少し油断したところに一撃決めようとしてたんだけど、それも見破られるか」
「無論だ。ま、秘策があるっていうのなら、それを潰すのが上策だと思わないか?」
「だが、瞬時に回復できるってことも考えていいんじゃないかい?」
ルークは口に薬か何かを含ませていたのかその何かを噛み砕き、瞬時に魔力、傷を治癒してゆく。
「おいおい、どんな薬を使ったんだよ、瞬時に魔力だけじゃなく傷も治すって・・・」
「まあ僕の一族に伝わる伝説の薬さ。僕が死にかけたときに、と思って念のために仕組んでたのが功を奏したね。いやあ、しかし参った。まさか僕が死にかける目に合うとは、予想もしてなかった・・・僕をここまで追い詰めるなんて、本当に君は何ものだい?」
「秘密だ」
「ふっ」
一つ笑みを浮かべたかと思うと聖剣を跳ね上げルークがロストに切りかかる。
「甘い!」
しかしロストも振りかぶられた聖剣を銃身で弾きかえす。
「アイン、ツヴァイ。これがこの2丁の銃に付けられた名」
「ふっ!」
徐々にルークの重さ、威力、速度。全てが上昇していく。しかしそのことごとくをロストは弾き、逸らし、受ける。
「まだまだ上がるよ!」
「望むところだ」
二人とも笑みを浮かべ戦闘は更に激化していく。
「なあ」
「なんだい?」
「今戦ってる最中にこんなことを聞くのはどうかと思うが」
「うん?」
「楽しいか?」
ルークはその問いに少し言葉に詰まる。自分は楽しんでいるのだろうか。元々は王国からの依頼で一人の少女を捉えにきただけだ。
しかし今の現状は何だ。
少女を捉えにきたつもりが、今まで相対したことがないほどの力を持つ敵と戦っている。これで楽しいか、と問われた。
楽しいかどうか。
「ああ、凄く楽しいよ!」
「ハッ!そうこなくちゃなぁ!!」
既に互いの攻撃の速度は視認できない速度に達している。人知を超えた動きになっている。もはや互いに自分の攻撃は見えていない。信じられるのは自分の感覚のみ。感覚で弾き、逸らし、受け、攻める。
「ここだぁ!」
「甘い!」
ルークの聖剣がロストの首筋に牙をむく。しかしロストは右手に持つリボルバー、アインをルークに照準したまま左手に持つリボルバー、ツヴァイをルークの持つ聖剣、アロンダイトの剣身を射撃することにより無理矢理逸らす。
「ラァ!」
「セァ!」
ルークは剣を振りかぶる中に蹴りを混ぜ始める。しかしロストも混ぜられる蹴りを肘で受け止め攻勢に出る。
「ここだ!」
ロストは一つの賭けに出る。
「もらったああ!」
ルークがアロンダイトをロストの首目がけ斬撃する動きに入る。
ガインッ!
しかし聖剣はロストの首に襲い掛かることはなくロストの顔面にて剣が止まっていた。
「な、何故」
「自分の腕をよく見ろ」
「腕・・・?」
ルークの手には透明な糸が絡みついていた。
「動かない・・・」
「当然だ、そのための糸だ」
ロストはルークが斬撃に入った時にルークが立つ位置の土が僅かにぬかるんでいたのに気付く。
バンッ!バンッ!バンッ!
「あぐっ!?」
ロストは聖剣を握っていない腕を除く全ての四肢を射撃で消し飛ばす。
「俺の勝ちだな」
「・・・まさか、僕が負けるとは思わなかったなぁ」
ルークは自分の敗北を認めたのか全身から力を抜く。
「君の勝ちだ。でも・・・悪あがきはさせてもらうよ!!」
そう叫びルークは一つの輝く宝石を残っていた腕で取り出しクロエの方に投げつけた。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
次回でこの章は完結すると思われます。
時間があればこの章の話と話を組み合わせて短くしようかなと考えていたりします。