第四十一話 過去編 結末3
やっと過去編完結です!
「燃えつくせ!【炎蛇】!」
「おっと」
青年は悠々と炎で象られた蛇から逃げる。
「逃げられると思うな!」
「でも逃げられるんだから不思議なんだよな」
炎の蛇が遂に青年を捉えた瞬間だった。
「温いな」
青年がそう一言呟いた途端に炎の蛇が一瞬で霧散した。
「何!?」
「温いって言ったんだよ。それに何だ?本当にお前たち12魔騎士の先祖かよ?どうもそんな風には見えないな・・・」
「知った口を!」
「待て、ユウェル」
激情に駆られかけたユウェルを一人の男が止める。当然この場に彼を止められるのは一人しかいない。
「ザイ・・・」
「奴の相手は俺がしよう。お前は逃げたお前の娘たちを追え」
「しかし!」
「聞こえなかったか、ユウェル」
冷静だったザイがほんの少しの怒気を流す。それだけでユウェルは口を噤んでしまう。
「追え。お前ではあいつには勝てないだろう。ここは俺がやる」
「・・・分かった」
「ランスロット家の者か・・・」
「ランスロット家現当主、ザイ・ランスロットだ」
「ランスロット家当主、か・・・」
その名前を聞いた瞬間一気に青年から殺気が嵐のように吹き荒れた。
「ああ、殺したい。でも今こいつを殺すと元の時代に戻った時に・・・」
青年は独り言をブツブツと呟き始める。
「貴様、何を言っている?」
「別に、何もない。こちらの話だ。それで、もう一人の方はあいつの方へ向かったか・・・」
「俺がいる以上ユウェルの元に辿り着けると思わない方がいい」
「いや、別にいいんだけどな・・・ちっ、忌々しい。お前を見てると昔の虐待された記憶が蘇ってくる。正直お前を射殺することは簡単だが、こちらの都合でそうすることはできない・・・全く歯痒いこと、この上ないな」
「俺を射殺することが、容易いだと?」
「ああ。1秒も掛からない内にこの世界から消し去ることが出来る」
「戯言を!!」
ザイは怒気を滲ませ一つの魔法を放つ。
「死ね!【水の刃】!」
一つの線がものすごい速度で青年に向けて迫る。しかし青年は焦った素振りを一つも見せることなくひょい、と躱して見せた。
「ふん、大蜘蛛の方がよっぽど早い。それにこの程度の速度の攻撃、食堂の連中より数段どころか数十段は劣る。所詮12魔騎士もこの程度ということか」
「この程度だと、思うな!」
一本だった水の線が3本に増え、再び青年に迫る。しかし青年はつまらなさそうに迫ってくる水の線を見つめ右手を動かし何かした。
バンッ!バンッ!
青年が何か動作を行った後遅れて辺りに乾いた音色が響き渡った。
「なっ!?」
そしてザイが操っていた水の線の根本の指が消し飛んでいた。
「そう簡単にお前にやられてちゃ意味がないだろう・・・」
「くっ!」
「終わりだ」
バンッ!
「うっ・・・」
「殺しはしないぜ。電撃で感電させて気絶させるだけだが・・・ちっ、殺したいのに殺せないってのは歯痒いこと、この上ないな」
青年はユウェルが駆けて行った方角を眺め目を細めて呟いた。
「ったく、あいつを殺させるわけにはいかないんだよ。それに、クロエの件もあるし・・・追うか」
青年は青年がクロエと呼んだ少女を胸に抱えて駆け出した。
「エル!エル!!」
僕を呼ぶのは誰だ・・・?でもすごく聞き覚えがあって・・・すごく好きな声だ。
「どうしよう・・・このままじゃエルが死んじゃう・・・」
この声の主が悲しそうな声を出す。僕はこの子の悲しそうな声を、聴きたくなかった。
「見つけたぞ、ロロナ・・・」
「お父様・・・」
「貴様には大分手こずらされた・・・。今一度聞こう。本当に私の元へ帰ってくる気はないのか?」
「ありません!絶対にあなたの元になんて、戻りません!」
「・・・そうか」
ユウェルはそう呟いた後胸から一枚の紙を取り出し広げた。
「ならばこの方法しかないな」
「契約書・・・」
契約書。これは余りに非人道的な物として生産が禁止された代物だ。どういうものなのかというと簡単には隷属するだけだ。この紙の主人に従ったからと言って命が奪われる訳でもなく激痛が走ってのたうち回る、なんてこともあるわけではない。これだけだったならば通常は非人道的なんてことは言われない。しかしこの契約書の真に恐ろしいところは主人の命令には確実に従ってしまうところだ。
死ねと言われれば契約者の意思に関係なく死ぬだろう。
契約者の家族を殺せと言われれば契約者は涙を流しながら殺させられる。
契約者の妹、弟、兄、姉を犯せと言われればどれだけ抵抗されても襲うことしかできない。
契約者が嫌なことを命令されて、耐えられなくなって自殺しようとしても命令がないから体が脳の命令に従わない。
このような事があるから余りの危険性と余りに酷い使い方に見かねてどこかの国の一族がこの物品を消去し、全て作り方まで闇の中に葬られたはずなのだ。
「何故それを持っているのですか?」
「ふん、このようなもの、12魔騎士のガウェイン家の力を持ってすれば本物と変わらない効力を持つ式を組み立てられないわけがないだろう?」
「作ったの・・・?」
「そうなるな」
「なんて非道な・・・」
「さて、無駄話をしている時間も惜しい。さっさと済ませよう」
「ダメ・・・」
ユウェルは紙を広げて迫ってくる。
「おとなしくしていてくれよ?」
「やめて・・・」
ロロナは恐怖で後ずさる。
「じゃないと契約が失敗してしまうかもしれないから」
「こないで!!」
ユウェルはお構いなしに迫ってくる。
「さて、これで・・・」
「い、嫌あああああ!!」
「契約完了だ」
ユウェルが紙をロロナに押し付けようとした瞬間、一つの乾いた破裂音と一人の男の咆哮が上がった。
「ぬぁぁ!?」
「え?」
少女は自分の後ろを向いた。そこにいたのは・・・
「ふざけるな。これ以上ロロナを、泣かせるなぁ!!!」
一丁の銃を構えたエルがユウェルに銃口を向け発砲していた。
「お前がいたせいでロロナは逃げた!お前がいたからロロナの幸せがなくなった!お前達12魔騎士の下らない理由で!!僕の国が滅んでしまった!!」
エルが上半身だけの体で激情を吐き出す。
「お前のせいで!!」
本来なら、立てる状態どころか喋られる状態じゃない。下半身が消滅してしまっているのだ。
それでもエルは吠える。恨みをぶつけるかのようにユウェルに激情を吐き出す。
「ぐぅ・・・」
ユウェルは撃たれた腹を抱えながらなおこちらに向かってくる。
「ここで!」
「貴様は黙っていろ!!」
エルが銃を、ユウェルが腕を向けたのは同時だった。
バンッ! ボウッ!
二つの異なった音が森に響き渡った。
「エル・・・」
「やぁ、ロロナ・・・奴は?僕は・・・あいつを殺せたかい?」
「エル・・・あなた、もう目が・・・」
「うん、殆ど見えなくなってる。でもそれはいいんだ。結果だけ・・・教えてくれないかな?もう時間が・・・なさそうなんだ・・・」
「・・・・・エル、ありがとう。お父様をやっつけてくれて・・・」
「ああ、ちゃんと殺すことが出来たんだ・・・」
「うん」
「じゃあ・・・もう、思い残す・・・・こと・・・は・・・な・・い・・・・・・・・・・」
「それはダメだよ」
「・・・・」
「大丈夫。エルは絶対に、私が死なせないから」
「・・・」
ロロナは一つ目を瞑って手をエルの首元に充てる。
ロロナはこれまでのことを思い出す。
最初はエルのことは苦手だった。強引で、やかましくて・・・
「でも、好きになっちゃった・・・。私はここでエルに死んで欲しくないな」
気づいたら恋をしていた。いつも私の手を引いてくれた。
「エル・・・ずっと、好きでした」
ロロナはエルに口づけをする。ロロナの瞳からは大粒の涙がいくつも零れ落ちていた。
「【私の命】」
「うっ・・・」
サミュエルは森の中で目を覚ます。
「ここは・・・」
そして今までの記憶が蘇ってくる。
「そうだ!確か森でロロナの父親と一対一で刺し合って!それで・・・あれ?ロロナ?」
そこでエルは気づく。辺りにいたはずの少女が見当たらないことに。
「ロロナ?おーい!ロロナ!おかしいな・・・」
そこでエルは横に見覚えのある服が落ちていたことに気づく。
「何だ・・・これ・・・」
「彼女なら消えたよ」
「え?」
見覚えのない青年が姿を現した。
「あんな素敵な女性が12魔騎士の娘だとは・・・」
「あなたは・・・」
「俺か?俺は―――」
「・・・それで、消えたって」
「文字通りさ。お前気づかないのか?」
「気づく?」
「ん」
青年はエルの体を指す。正確にはエルの下半身だ。
「あれ!?なんで・・・」
「だから、あの少女が自分の命を捨ててお前を助けたからだよ」
「・・・・は?」
「だから、少女は死んだんだよ。お前を助けて」
「・・・・え?な・・・何を・・・」
「ハッキリ言おうか?少女は特別な魔法を使って自分の生命力をすべて削ってお前を助けるためにその生命力を使って死んだんだ」
「な・・・そんな!!嘘だ!」
「本当だよ」
「嘘だ!ロロナは死なない!だって!」
「現実を見ろ」
「そんな・・・」
エルは地面に崩れ落ちる。
「なんで・・・なんでだよっ!!なんで・・・ロロナ・・・ロロナ・・・」
エルの目からは涙が止まらない。いくつもいくつも零れ落ちる。
「何故?12魔騎士がいたからだろ」
「12魔騎士が・・・いたから?」
「当然だ。あの子は12魔騎士が攻めてきたから死んだ。あいつらが存在しなければ幸せな人生を過ごせた。そうは思わないか?」
エルは頷く。それと同時に12魔騎士に対して溢れんばかりの憎悪と怒りが噴き出す。
「ちくしょう!!ちくしょう!!殺してやる!滅ぼしてやる!!」
「無理だ」
「何故!?」
「お前には力がないからだ」
「でも!銃が!!」
「それだけで勝てるか。お前の作った武器は余りに原始的すぎる。今の段階ではな」
「じゃあ・・・どうしろって言うんだよ」
「作れ」
「何を・・・」
「最強の銃をだ。これから人生全て銃に捧げろ。そうすれば」
「そうすれば?」
「俺が果たしてやる。俺も12魔騎士は心の底から怨みがあるからな」
「・・・」
「託せ。俺にはお前の憎悪がよく分かる・・・って言っても納得しないだろうからな。俺の身の上話をしよう」
そして青年は語りだした。自分の話を。
「そうですか・・・」
「ああ。だから託せ。そしてお前はお前の仕事をしろ」
「僕は・・・僕の・・・」
「そうだ」
「分かりました」
「まず最初にお前がやるべきことは・・・」
そこから青年は少年にやるべきことを話す。
「分かったか?」
「うん」
「じゃあ、後は任せた」
「うん」
「あとは・・・・誰にも入られない俺達の聖域が必要か」
「そんな場所・・・」
「あるじゃないか」
「え?」
「ここをそうする」
「どうやって」
「任せろ」
青年は一つ足を踏み鳴らす。
「【創造】」
その途端、森が一変した。
「すごい・・・まるで神殿だ・・・」
「こんなもんか」
森は変わった。あらゆる点が。
「ここの名前は?」
「ああ。決まっている」
青年はここの名を言った。
「ここが俺を作った」
「『魔神の食堂』だ」
最後まで読んでくださってありがとうございます。
いや~、過去編が想像以上に作りこんでしまい長くしてしまいました。申し訳ございませんでした。しかし過去編をしっかりと終わらすことが出来、作者は嬉しいです。しかし読者の皆さんも感じているでしょう。どう考えてもおかしいと。どうして急に彼が出てきたか。何故いきなり食堂が組み立てたのか。大丈夫です。実はこの過去編、彼の話に結構重大な点を握っています。ここの最後は特にね。これも新章で明らかになるでしょうし深くはいいません。これからもこの作品をよろしくお願い申し上げます。