第三十八話 過去話 6
終われませんでした。申し訳ありません。
「エル!今日はどこにいく!?」
朝から彼女の声が聞こえる。でも僕は未だに微睡の中だ。眠くて現実と夢の区別がまだついていない。
「エル?早く起きなさい!出かけるわよ!」
「んぅ~・・・あと1時間・・・」
「長いわ!早く起きなさい!」
「ん~・・・・」
朝から彼女は元気だな。でも僕は朝が苦手なんだ。どうやって起きればいいんだ。
「しょうがないわねぇ・・・」
あ~、おはようのキスでももしかしてしてくれるのかな。だとしたら凄く嬉しい。キスの一つでもしてくれればそりゃもう飛び起きるさ・・・
「こうなったら力技よ!」
ん?力技・・・?そういえば、前にもこんな事があったような・・・
「起きなさい!【風玉】!」
「え・・・?いってえ!!」
「やっと起きたわね!この寝坊助」
「痛いなあ・・・ひどいよロロナ」
「あなたが起きないから悪いのよ」
「だからって普通は魔法を使わないと思うんだ・・・」
目の前には大好きな彼女の顔。朝から魔法をぶっ放してくるけどとても優しい女性ってことはこの6年間でよく分かっている。
「ん?あなたまた新しい銃を作ってたわね?」
「ああ、また兵士から銃の発注がきてね。作ってたんだ」
「それで?出来たの?」
「うん。頼まれた40丁、全て製作が完了して後は王城に納品しにいくだけだったんだ」
「そうなの?じゃあ一緒に行きましょ。早く準備してね」
「ああ」
僕と彼女がくっついて1週間。国の皆揃って祝福してくれた。小さな国だから噂が広がるのも早い。それに僕はこの国の軍事関係に革命を齎したような存在だ。一応この国では有名人になっている。
とりあえず王城に行く用意をしなくちゃ・・・
「お待たせ」
「うん、じゃあ行きましょうか」
僕とロロナは一緒に王城までの道のりを歩く。少し距離はあるが二人一緒に歩くと直ぐについてしまう。
「さっさと納品しちゃいましょうか」
「そうだね」
僕とロロナは王城の門を潜って兵隊たちがいる場所に向かう。
「お、これはこれは」
「あ、どうも」
奥の方から国の将軍が歩いてくるので挨拶をする。
「お望みの銃40丁、持ってきましたよ」
「おお!それはありがたい。いつもの場所に納品しておいてもらえますかな?」
「分かりました」
いつも銃を納品する場所に置いておけと言われたのでそこに向かう。
「納品完了っと」
「それじゃ、どこか行きましょうか」
「そうだね」
「また森に行く?」
「う~ん、森に行くのも捨てがたいね」
「あなたと一緒にいられるのなら、どこでもいいわ」
「・・・ありがとう」
ロロナのこの不意打ち、どうにかならないかな・・・
「それじゃあ今日は」
『全国民に告げる』
「!!??」
「?」
なんだろう。国全員に聞こえた。魔法でも使ったのか?
「あ・・・え・・・?なん・・・・で?」
「ロロナ?」
「嘘・・・見つかっちゃった・・・」
「どうしたの?ロロナ。ねえ、ロロナってば!」
辺りを見回してみると国民の人達も戸惑っているようだ。
『聞こえているだろう?ロロナ。戻ってきなさい』
「え?今ロロナって・・・」
「・・・・・来ちゃった」
「来た?」
「・・・ごめんね、エル」
「ロロナ?何を言っているの?」
「・・・来てしまったの」
「何が?」
「私の・・・家族・・・」
「え?」
「今まで言ってなくて・・・ごめんね、エル。私の本名はロロナ。ロロナ・ガウェインって言うの」
「ガウェイン?」
「ごめん、分かりにくかったかな・・・」
「え~っと・・・」
「私の家はね?アヴァロン国12魔騎士の家の一つ、ガウェイン家なの・・・」
「12魔騎士・・・」
聞いたことがある・・・アヴァロン家12魔騎士・・・
敵と定めた国には絶対容赦せず、徹底的に殲滅する・・・最強の戦士達・・・
「ロロナ・ガウェイン・・・それって!」
「うん、私・・・ガウェイン家の娘なの」
『もう一度言おう。ロロナ、聞こえているのだろう?戻ってきなさい』
「ロロナ・・・」
「・・・」
『我々はアヴァロンの12魔騎士が1家、ガウェイン家だ。貴国にいるはずのロロナ・ガウェインの身柄をこちらに引き渡して頂こう。素直に引き渡してくれれば我々は貴国に何もしないと誓おう。ただし・・・抵抗するつもりなら』
『国が滅ぶ覚悟をしてもらおうか』
「っ・・・」
「本気で、私を取り戻しに来たんだ・・・」
ロロナは顔を青ざめさせて震えている。何かよっぽど嫌な事を経験してきたのかな・・・
「ロロナって言ったぞ?」
「え、ロロナちゃんを取り戻しに来ただって?」
「どういう事なんだ?」
「それより国が滅ぶって・・・」
町の人達がざわつき始めた。
今聞いた限りじゃロロナをこっちに渡せ、渡さないと国を潰すぞって暗に言っているんだろうか・・・だとすると、僕が取るべき行動は一つしかないじゃないか・・・
「ごめんね、エル・・・私達、別れなきゃいけないみたい・・・・」
「・・・」
「でも、私は!本当に・・・本当に!あなたが好きで・・・叶うのなら、いつまでも・・・いつまでもずっと一緒にいたかった」
「・・・」
「この国も・・・小さな国だけど、本当に皆、優しくて・・・エルの家のお父さんとお母さんも、私の本当の親より、ずっと両親っぽくて・・・」
「・・・」
「でも、しょうがないよね。私が出ていかないと、私が大好きなこの国まで滅んじゃうもんね・・・」
「・・・」
「楽しかった!本当に、夢のようで・・・」
「・・・」
「それじゃ、エル・・・」
「さようなら」
そう言ってロロナは歩き出す。彼女がここから出ていけばこの国は救われるらしい。12魔騎士の噂はこんな片田舎まで飛んでくる。
曰く圧倒的な魔力を使い圧倒的な魔法で敵国を殲滅しきると。
曰く最強の剣で何もかもを切り裂いて敵を完膚なきまでに屠ると。
曰く少数人で一国を陥落させたと。
そんな圧倒的な種族が今この国の目の前にいる。対して僕の国は小さい。とても小さい国だ。兵士の数だって少数精鋭な向うよりも少ないだろう。そんな国を相手にして、僕の国は生き残れるか?
答えは否だ。どう考えても勝てる見込みはない。
「一体なんの騒ぎだ」
この小さな国の王様が王城から出てくる。
「はっ、王様。それが・・・」
近くの兵士が王に現在の状況を説明する。そして王は顔を真っ赤にする。恐らく王はロロナを12魔騎士に引き渡すのだろう。それは王の選択として、圧倒的に正しい判断だ。この場に100人がいたとして王の立場になって考えると間違いなく降伏を選ぶだろう。その選択は、確かに正しい。
王として、これ以上の回答はあるのだろうか。ロロナが正門に向かおうとする。このまま12魔騎士にロロナは出向き、付いてゆき、アヴァロンに帰る。あちらは娘が回収できて万々歳。こっちは国を守れて万々歳。どちらにも特しかない選択肢だ。
しかしどんな場面でも例外という物は存在するものだ。
僕は正門に向かっているロロナの手を取った。
「え?」
「君を向こうになんて絶対に行かさない」
そうだ。絶対にロロナをあっちになんていかせてやるもんか。
圧倒的な魔力を使い圧倒的な魔法で敵国を殲滅しきる?そんなのこっちは圧倒的な技術力で逆に潰してやる。
最強の剣で何もかもを切り裂いて敵を完膚なきまでに屠る?そんなのこっちが近づかなきゃ剣なんてあたるもんか。
少数人で一国を陥落させた?それならこっちは少数で国を守ってやる。
「君を失うなんて、死んだ方がマシな生き地獄を君は僕に味あわせるのかい?」
「・・・何を言ってるの?」
「ロロナ、君を向こうになんて絶対に行かさないから。どれだけ暴れられても、磔にして動けなくする。だから僕から離れないでくれ。君が僕の目の前からいなくなったら、僕は生きる目的がなくなるじゃないか」
「何言ってるの!?離してよ!私があっちにいかないとこの国は消えちゃうんだよ!?」
「絶対にこの手を放してやるもんか!」
「離してって、言ってるじゃない!」
それでもロロナは強引に逃れようとする。だから僕は
「んむぅ!?」
ロロナの手を思いっきり引っ張ってロロナの口に自分の口をくっつける。
「ん・・・」
「・・・」
この口づけで分かってくれたのだろうか。
君を失う事が、僕にとってどれだけ大きいか。
君が僕の目の前から消えてしまうことが僕にとってどれだけ怖いことか。
唇と唇を離してロロナの顔を見ると、ロロナは泣いていた。
「なんで?なんでこんなことするの?」
「君に僕にとって君がどれだけ大きい存在なのかを知ってほしくて・・・」
「ひどいよ・・・ずっと、別れたくないって気持ちを抑えてたのに・・・こんなことされたら、もう・・・歯止めが効かなくなっちゃうよ・・・」
ロロナの瞳から次々と涙が零れ落ちてくる。
「私だって!本当はエルとずっと一緒にいたいよ!ずっと一緒にいて!エルの隣にいて!結婚して!子供を作って!家族皆で過ごして!エルの隣で、ずっと一緒に年を重ねていきたかった・・・でも、もう無理なんだよ?私がいかないと、この国はなくなっちゃうんだよ?そんなの嫌だよ!アヴァロンなんて国より、ずっと居心地がよくて、あったかいこの町にずっといたかった・・・そんな大好きな町だから、無くなってほしくないんだよ・・」
「潰させないよ」
「え?」
「僕はなんのために銃を作ったんだ」
「・・・私を守るため」
「確かにそうだ。でももう一つの理由も忘れてもらうと困る」
「国を、守るの?」
「そういうこと」
「でも・・・」
「ああ、もう!でももクソもあるか!僕は君を絶対に失いたくない。君はこの国から出たくない。とっても簡単な問題じゃないか」
「エル・・・」
「相手はこの国に僕という発明家がいるのを知らない。銃だって未知の武器だ。なら数の差はある程度埋まる」
「徹底抗戦してやろう。君は、どうする?」
ロロナは涙を目に溜めながら僕を見る。
「私も一緒に、エルと一緒に戦う」
「そうか」
「だって誓ったもんね」
「ああ」
「君を守るのは、僕だ」
「私もエルを守る」
「それが」
「二人の」
『誓いの言葉』
最後まで読んでくださってありがとうございます。
はい、終わる終わる詐欺再びですね。いや、なんていうか更新が遅くなったうえに過去編を終わらせられなかったこと、本当に申し訳ありませんでした。書いている内にまたいろいろ出てきたので1話で纏めると結構な長さになりそうだったんですよ。それに終わったところがキリがよくてですね・・・
とりあえずまだ過去編は続きそうです・・・ といってももうクライマックスなんですけどね