第三十三話 過去話 2
今回の話を一つの章にすることにしました。つい設定に凝ってしまいましたからw
僕、サミュエル・フーリエはとある小国の王都で産まれた。
両親は至って普通。父は国の兵の団長でもなければ将軍でもない。母は人形のように美しい・・・っていう訳でもなく醜悪って程でもない。要するに普通だったって事だ。
しかし僕は両親が好きだったし、両親も普通に僕を愛していてくれた。僕は小さな時から両親と話すのも好きだったし、友達と遊ぶのも普通に好きだった。
しかしそんな僕にも一番好きな事があった。
僕は物を作るのが大好きだった。
僕が5歳くらいの時は遊び道具を作るのに熱中してたっけ。例えば石を並べて絵にしたり、木の枝を尖った石で削って木刀なんかも作ってたかな。他にも木に生えていた葉っぱで船を作って川に流したり、紙を上手く折って紙飛行機なんて物も作っていた。
僕は日々町の正門から出て隣の小さな森に探検するのがとても大好きだった。正確にはその森で物作りの材料を取ってくるのが、だけど。僕にとっては正門は異世界への扉だった。
「よ~っし!母さん!父さん!行ってきま~す!」
「お~、気をつけてな」
「いってらっしゃい」
いつものように隣の森へ遊びに行く。今日はどんな素材が手に入るのか、どんな生き物に出会えるのか。日々が退屈せずとても楽しかった。
「お、エル。今日も元気だな~」
「こんにちわ~」
正門の前にはいつもの衛兵が立っていて笑って見送ってくれる。
「また森に行ってきま~す」
「動物に気をつけてな~」
「はーい」
僕は慣れた道のりを駆けていく。いつもと変わらない風景だが毎日違う色に見えていた。
「今日はどんな素材が見つかるかな~。新しくて面白いの見つかるといいな~」
僕はいつものように気軽に森へ踏み入れる。やはり森はいい。町も十分に綺麗だけど森は町とは違う綺麗さがある。
「ん~・・・昨日は西に行ったし・・・よし、今日は北へ行ってみようかな」
僕は森の構造を熟知していたし、当然東西南北全てに何度も行ったこともある。しかし毎日同じようで違う発見が幾つもあるのだ。それは今まで気づかなかった事もあれば、新しく出来ていたものもある。本当に自然は不思議な事がいっぱいでワクワクするね!
「~♪~♪」
適当な歌を口ずさみながら森を駆け回る。ここを走っていると森と一体化している感じがとてもすごい。この森の事ならなんでも分かる。そんな気がするんだ。
やはり毎日が新鮮で楽しかった。
そんな時だった。僕がこの世に生まれて10年。
運命の人に出会ったのは。
「ん?」
北の方角に向けてダッシュしていると何か声がした。僕はその声を聞いて誰かいるのか気になったので声のした方角に足を向ける。
「この森に人が来るなんて珍しい・・・今日は国の兵士達の演習もなかったと思うんだけど。行ってみよ」
僕は声のした方に向けて駆ける。そして徐々に徐々に声が大きくなっていく。
「ハァ!」
「グギュアァァ!」
「もうッ!しつこいわね!」
「グギャギャ」
「グギギ」
「もしかして・・・魔物に襲われてる!?」
この世には魔物と魔獣と言われる生物が存在している。魔物は人型の魔物で主にゴブリンやオーガなどが魔物の部類に入る。一方で魔獣は動物が多大な魔力を浴びた時に変質する動物だ。
「急がなきゃ!」
僕は走るスピードを上げる。
「しょうがない、【風玉】!」
やっと声の下にたどり着いた。その時僕はこの世の神秘を目にした。
目の前にいたのは僕と同じくらいの少女だった。
彼女は3匹のゴブリンに囲まれていた。彼女の手には剣が一本と盾が一つ。しかし剣を振り切って体は硬直していた。その隙を狙ってか二匹のゴブリンは一斉に手に持つ棍棒を振り下ろした。しかし彼女は一言呟いたあと手に不思議な力が集まり残りの2匹を一気に蹴散らしてしまった。
「ふぅ・・終わり!」
そして何事もなかったかのように剣を仕舞う。
「す・・・」
「ん?」
少女は声のした方に振り返っただけだったのだろう。そして僕はと言えば・・・
「すっげえええええ!!」
「え!?」
少年がいきなり大声を上げたからか少女は驚いたように後ずさる。
「すげえ!すげえ!今の魔法ってやつだろ!?初めて見た!!もう一回やって!もう一回やって!」
「え?え?」
僕に詰め寄られて少女は思いっきり後ずさる。しかし僕も負けじと詰め寄る。
「ほら!あのゴブリンを一気にブオオって吹き飛ばしたやつ!!」
「え、え~っと【風玉】のこと?」
「そうそう!そんな感じのやつ!お願い!もう一回やってくれよ!」
僕はこの時生まれて初めて魔法というものを見たんだ。それは心踊ったさ。
魔法は僕の国の兵士達は使えなかった。魔法使いなんてこんな小国に立ち寄らないからね。皆この国より大きい国に行ってしまう。なんだったかな・・・確かアヴァロンって国だったかな。
「あの・・・私、急いでて・・・」
「お願い!一回でいいから!!」
僕は絶対にこのチャンスを逃したくなかった。そしてあわよくば魔法を教えて欲しかった。
「ううん・・・一回だけだからね?」
「やったー!!ありがとう!えと・・・そういえば名前聞いてなかった」
「ロロナ。ロロナ・ガ・・・」
少女、ロロナは続きを言おうとする途中ですごく嫌そうな顔そうな顔になり言うのをやめる。
「うん、私はロロナよ」
「へ~!よろしくロロナ!僕の名前はサミュエル!サミュエル・フーリエ!長いからエルでいいよ!」
「うん、よろしく・・・エル」
綺麗な栗色の髪を肩まで伸ばし、目はパッチリとし瞳はとても澄んだ青色。肌は少々白いが決して病的な程白くはない。
端的に言うととても美少女だった。
「それでもう一回見せてくれるんでしょ!?」
「う、うん」
するとロロナは再び手のひらに不思議な力を集中させ始めた。
「す、すっげええ!」
「そんなに魔法を珍しそうに見る人初めて見た・・・」
「だって生まれて初めて見たんだぜ!?興奮しないほうがおかしいって!」
「そ、そうなんだ・・・」
それから10秒ほど魔法を使ったところでロロナは魔法をやめた。
「じゃあ私はもう行くから」
「え~、もう行っちゃうの?」
「うん。急いでるから」
「目的地は?どこへ行こうとしてるの?」
「遠いどこか、かな」
そこでロロナを注視してみれば彼女の服装からしてこの周辺の町の人間ではないことはすぐに分かった。彼女はどうやらとても遠い所からここまで来たようだった。
「目的地ないの?」
「うん。今は遠いところに行きたいから」
「何で?」
「少し、ね」
ロロナの顔は先ほどの名前を名乗ろうとした時と同じような陰りを宿した。でも僕はどうしてもロロナに行って欲しくなかった。もっとロロナと色々話をしたいと思ったんだ。
「ねえ、目的地ないなら僕の住んでる町に来てみない?」
「え?」
ロロナは意外そうに目を丸くする。
「あなたの住んでる町?」
「うん。小さい町だけどいい所だと思うよ」
「う~ん、どうしようかな」
ロロナは腕を組み考える仕草をする。しかしこんな好機、逃してなるものか。
「付いてきて!」
「え、ちょっと!」
僕はロロナの手を掴み引いていく。
「あっ・・・」
そのまま来た道を帰る。この森は小さいとは言え似たような景色が多く、まず初めて来たんじゃ絶対に迷う。
僕だってこの森を何度も来て森の構造を熟知するのに結構な時間がかかった。今でもたまにどこにいるのか分からなくなってしまうこともある。それに構造を知り尽くしていてもまだ未探索の所も多々ある。森にある洞窟とかね。
ロロナの手を引いて走り始めて暫くしてから町にたどり着く。そしてロロナの方に振り返る。
「ここが僕の住んでる町だよ!」
「ハァ・・・ハァ・・・エル、走るの・・・早すぎるよ」
ロロナは息も絶え絶えな状態だった。
「ロロナは体力がないなぁ」
「じ・・・地面に木の根とか張り巡ってて・・・ハァ・・・走るのに、く・・・労した、のよ・・・」
「まあ、とにかく入ってみなよ!」
「はぁ・・・」
ロロナは観念したのか僕に手を引かれて町に踏み込む。
「ここが・・・エルの町・・・」
「うん!」
「おっ、エル。今日は随分と早い帰りだなっと・・・そちらのお嬢さんは?」
「ロロナ!森で会った僕の友達!」
「は、初めまして。ロロナです」
「服装から見てこの近辺の子じゃないなぁ。どこから来たんだい?」
「え、え~っと・・・」
ロロナは口篭る。
「言いたくないことは言わなくていいさ」
「すいません・・・」
「いや、俺の方こそすまない。余計な詮索だったな。ま、何もないところだけどゆっくりしていってくれ」
「ありがとうございます」
「ロロナ、行こ!」
「あ、うん。ではこれで」
ロロナは門の前に立つ衛兵にお辞儀をしてから僕の後ろをついてくる。
「ねえエル」
「ん?何?」
ロロナはすごく不思議そうな顔をして質問してくる。
「あの、町に入るときに身分証明証とか提示しなくていいの?」
「へ?町に入るのに自分の事を証明出来るもの見せなきゃいけないの?」
エルはとても不思議そうに首をかしげロロナはとても珍しそうに町を見渡す。
「私がいた地域とは大分違うのね・・・」
「へえ~、ロロナの住んでる場所は町に入るのに身分証明証が必要なんだね~」
僕はそのまま家までのいつもの道を進んでいく。
「到着!」
「え~っと、ここは?」
「僕の家!」
ロロナはポカンとした顔をする。
「まあまあ、入ってよ!」
「え、ちょっと!」
ロロナの静止の声も聞かず僕は玄関の扉を勢いよく開く。
「たっだいま~!」
「あら、今日は早いのね」
母さんは洗い物をしていた手を止めこちらに振り返る。
「あ、え~っと」
ロロナは慌ててペコリと頭を下げお辞儀をする。
「ロロナです。よろしくお願いします」
「まあ!まあまあまあ!」
母さんはロロナを見た途端目をキラキラと輝かせてこっちに駆けてくる。
「こんにちわ。家の息子が何か迷惑かけなかった?」
「あ、いえ。エル君には町を教えてもらって感謝しています」
ロロナはしどろもどろになりつつも説明する。
「エル、どうしたの?こんな可愛い女の子連れて」
「それがね、母さん!ロロナ凄いんだ!」
「へ~。まあとにかくそんな所に突っ立ってないで上がりなさいな。お昼ご飯作ってるから。ロロナちゃんも上がりなさいな」
「あ、はい」
それから森であったことを僕は自分の事のように話して母さんはそれをうんうんと相づちを入れる。そして話が一段落したところで母さんが問いかける。
「ねえ、ロロナちゃん」
「はい?」
「目的地ないならこの町に住んじゃいなさいよ」
「え!?」
母さんのその提案は僕もとてもいいと思った。僕には友達はいるけどロロナみたいに魔法を使える友達なんていないし友達は皆この町で遊ぶのが好きなようだけど僕は町で遊ぶより外に出て森とかに探検する方が楽しい。でも僕の遊びに行く森は危ないからって誰もついてこない。でもロロナならゴブリンを倒せるくらいなんだ。それならダンジョンとかも探索できる!
「そうだよ!住む所がないなら家に住んでもいいからさ!」
「え、え~っと・・・」
「遠慮しないで。部屋は無駄に余ってるの」
僕と母さんはワクワクしながらロロナの返答を待つ。
「じゃ、じゃあ厄介になろうかな・・・」
「やったー!僕ロロナみたいに一緒に冒険できる友達欲しかったんだー!」
「ふふっ。エルったらはしゃいじゃって。ロロナちゃん、あんな息子だけどよろしくね」
「よろしくお願いします」
その日の夜父さんが帰ってきて話をすると母さんのようにとてもよろこんで家族の中にロロナを交えてとても楽しい夕飯を食べて全員が就寝に入った。僕はこれからロロナと色々探検出来ると思うと楽しみで楽しみで仕方がなくなり頭の中で明日はどこへ行こうかのルートを考えている内に眠りに落ちた。
深夜、エルの家の庭にひっそりと佇む少女、ロロナが夜空に浮かぶ満天の星空と満月を眺めていた。
「・・・・大丈夫。こことアヴァロンは凄く離れてるもの。ここまで来ればあの人達も追ってこない」
ロロナは独り言を呟きもう暫く夜空を眺めた後エルの家に戻り、自分に与えられた部屋のベッドに潜り込み、眠りに落ちた。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
さて、エルの過去に新たな登場人物、少女ロロナの出現。彼女は何者なのか、そしてエルの過去とはこれからどうなるのか?誠意執筆中。
誤字脱字がありましたらお手数ですが報告よろしくお願いします。
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