第三十一話 手足
「俺の新しい腕と足だって・・・?」
ロストは俄かには信じがたいような目で目の前の腕と足の形をした物を見る。
「義手と義足って言うんだよ。これは僕の考えた物ではないが僕自らの改造は施しているがね」
義手と義足は人間の手と足というよりはロストは銃と同じ印象を抱いていた。なんといってもその理由はその手と足の色にあるだろう。
通常の人間の腕とは考えられない灰色なのだ。他にも肘の部分や指の部分には何に使うかは分からないが銃口のようなものが付いている。
義足は一見普通に見えるが間違いなく何か仕込んであるであろう痕跡が義足の膝部分と踵部分に見えている。
「・・・これって人間の腕や足に付けるものなのか?」
ロストは心底疑問に思った。どう考えても普通の人間が付けるものではないのだ。しかしエルはそのセリフを待ってましたと言わんばかりに満面の笑みを浮かべこう言った。
「ふっ、何を言ってるんだい?クロエが言ったじゃないか、これは君の手と足だって」
「つまり・・・?」
ロストは少し嫌な予感がしつつも問いかけた。そしてエルは一度大きく息を吸い、発言する。
「これは君専用の武装義手と武装義足なんだよ!!」
エルはそりゃもうとんでもないくらいのドヤ顔でロストを見つめる。肝心のロストはといえば・・・
「お、おう」
若干引いていた。
「ちょ!なんで引くの!」
「いや、だってそんな自信満々に俺の腕と足って言われても現実味ないし・・・」
「本当なんだってば、すごいんだよ!これが世界に出たら国宝物だよ!それを君専用に作ってあげたんだから引かないでよ!」
「・・・・」
しかしロストは無言で更に一歩後ろに下がる。
「ちょっとぉおお!」
「エル、落ち着きなさい。そんなに訳の分からない物を熱弁されたら普通は引くわ」
クロエがエルを宥めるように言った事でエルは少し落ち着きを取り戻したのか一度深呼吸を行う。
「ふぅ・・・すまなかった。確かに君はまだこの義手と義足の事をよく知らないんだったね」
「いや、分かってくれればいい」
なんとか場は落ち着きを取り戻しエルは再び説明に入る。
「さて、まずはこの腕と足は君の物だ。サイズは君の以前の腕と足で違いはないはずだよ」
ロストは今は唯の飾りとなっている右腕を一度見て目の前にある義手に目を向ける。
「確かに違いはあまりないように見えるな・・・」
「で、どうする?義手と義足、付けるかい?」
エルはそこで付けるか否かを聞いてくるがロストの答えは一択しか存在しなかった。
「当たり前だ。つけなきゃ戦闘に支障が出るだろ。戦闘に支障があっちゃ困るんだよ、俺の目的はあんたならもう知ってるだろ」
「12魔騎士達への復讐だったね・・・」
「ああ。俺を見捨てたやつ全員を殺し尽くすんだ、腕と足は必要だろ」
エルは一度頷き義手と義足が乗った台を奥へ持っていく。
「あ、おい!なんで奥へ持ってくんだよ!」
「君に義手と義足を付ける準備をするんだよ。クロエ、彼を手術室へ」
「分かったわ」
エルはそのまま奥へ引っ込んでいってしまった。
クロエが再び車イスを持って動かし始める。
「あなたが生きられた理由をまだ教えてなかったわね」
「ああ、そういえば・・・」
確かにロストはクロエにここに連れてこられた理由が自分が生き延びられた理由だったことを思い出す。
「ここの奥の部屋は死にかけの人を助ける施設なの。ほら、見えた」
そう言われクロエに車イスを押されるがまま少し上を見ると手術室と書いてあるランプが点灯していた。そのままクロエは手術室の扉を開く。するとそこには白衣を纏ったエルが出迎えてくれた。
「来たね、さぁロスト君ここの台の上に寝っ転がってくれ」
「そういわれても俺、腕使えないから登れないんだが」
「ああ、そうだった」
エルは白衣のポケットからなにやら小さい物を取り出すとスイッチらしき箇所を一つ押す。ピッと音が鳴り長い機械が降りてくる。
「うわっ!なんだこれ!?」
「君を助けた機械に酷い言い草だなぁ」
「え?」
「何を隠そう死にそうな君を助けたのはこの機械達だよ」
「マジかよ・・・こんなの見たことも聞いたこともないぞ」
「ま、当然だね。君たちの今の主流は「魔法」だ。この技術とは正反対の物だからね」
「正反対の技術?」
ロストは魔法しか知らないために疑問に思う。
「そう、これは「科学」っていう古代の技術さ。この技術が僕がいた国では主流になってたよ」
そしてずっと笑顔を浮かべていたエルの顔に一瞬の陰りが入る。
「ま、「魔法」の方が圧倒的に主流だったから「科学」という技術は長い歴史の中から一瞬で姿を消してしまったよ。使っていたのは僕のいた国だけだったからね」
そこでロストは初めてエルに会った時の事を思い出す。
『冗談じゃないよ、真実さ。ただこの武器が広まる前に僕達の国が滅ぼされただけさ』
「成る程な・・・」
「さ、こんな暗い話はもういいだろう。義手と義足を付ける作業に入ろうか」
「ああ、そうだな」
ロストは機械の補助を受けながらなんとか台へ寝そべる。
「じゃ、まずは腕からかな。少し痛いかもしれないけど我慢してね」
「ああ、分かった」
エルは義手を手に持って近づいてくる。
「付けながらこの義手の説明を少ししよう」
義手が左腕部分に当てられる。
「まずこの義手は魔力で作動するようになっている。この義手は魔力が人間の腕の神経の役割を果たすようになっているから触った感触もしっかりと伝わるはずだよ。以前の腕のように振るえるから安心していいよ」
「すごいな、その科学って技術・・・」
ロストが感心しているとエルは皮肉気に苦笑する。
「これは科学ではあるが同時に魔術でもあるんだよ」
「え?」
ロストはどういう意味か把握しかねているとエルが説明してくれた。
「僕達は本来相入れるはずのない科学と魔術を合わせたのさ」
義手が左腕にくっつけられ機械が細部の調整を行う。
「痛みがくるから気をつけてね」
「・・・痛ッ!?」
一瞬だけ左腕に激痛が走る。
「・・・これを両腕に付けなきゃならないんだな」
「あはは、我慢してね。それとさっきの話の続きだけど」
「ああ、科学と魔術を合わせたって話だっけ」
「そう、僕達は世界中の人間から異端者に見えたんだろうね。だから叩き潰された」
「・・・・・」
エルはロストの右足に義足を当ててくる。
「さて、次は義足か」
「痛っ」
カシュッ
「やっぱり痛いな・・・」
「ごめんね、君の魔力と同調したから痛みが走ってるんだ。でもこれで感覚は戻ってきたはずだよ」
ロストは新しく付けられた左腕を持ち上げて拳を握って開いてを繰り返す。
「懐かしい感じだな、左腕を使えるっていうのは」
そういいながら苦笑を零す。
「さて、次は右腕か・・・」
「しかしどうやって付けるんだ?この通り動きはしないけど一応右腕はあるんだが」
「それは心配ないよ、右腕を切り落としてまた義手つけるから」
「そんな爽やかな笑いを浮かべながら切り落とすとか言わないでくれよ・・・」
ロストは乾いた笑みを浮かべる。
「ふむ・・・右腕切り落とすが意識はある方がいいかい?眠らせることも出来るけど?」
「・・・遠慮しとくよ。寝させてくれ」
「分かった、では眠らせよう。お休み」
「ああ。その前に一つ聞いても、いいかな」
「なんだい?」
「エルとクロエの過去、聞いてもいいかな?」
その質問をするとエルは少し無表情になる。
少しして口を開く。
「ああ、いいよ。君には話しておかないといけないだろう、この手術が終わったら話そう。約束だ」
「ああ」
そう言い残しロストは意識を手放した。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
投稿日時がバラバラで申し訳ない。ストックがないのでバラバラになってしまうのです・・・
さて、いよいよこの小説を執筆していた時からやろうと思っていた義手義足です。本当は目も潰す予定でしたがやめましたw
最近の話題としてはやはりあの週刊誌の主柱の一本が終了した事ですかね。あの漫画は作者が一番最初に買った漫画ということもありとても思い入れが強い漫画でした。この話もその漫画のOP聞きながら書いてますw
ではまた次回にお会いしましょう