第二十九話 出会い
「ゴガァァ!!」
「・・・」
ロストは冷静に照準を合わせ相手のブレスに向かい、ただ引き金を引いた。
ドォォォォォォォォォンッ!!!
世界が壊れるのではないかというほどの爆発が起き、辺り一帯が赤色とも青色とも白色ともつかない光によって塗りつぶされた。しかし光も一瞬で収まり、部屋の中に起き上がる者が一人いた。
「・・・・」
ロストだ。ロストは邪龍が放ったブレスを正面から打ち破ってみせたのだ。しかし無事とは流石にいかなかった。
まず全身が邪龍のブレスにより焼き爛れてしまっていた。一部炭化している部分も幾つも見える。そして右足は完全にブレスの炎に呑み込まれ消えてしまっている。今のロストは片足でなんとか立っている状態だ。それだけではない、頭の髪の毛にも火が伝わったのかロストの銀髪はもはや半分も残っておらず全て焼き尽くされていた。そして唯一残されていた右腕すらも原型こそ留めているものの腕の筋肉、筋は全て溶け落ち骨が露出していた。
そんな状態にも関わらずロストは立ち上がり辺りを見回し上へ繋がる扉を探す。
「・・・あっ」
ロストは何かに躓き転んでしまう。何かと思い目を向けると銃の残骸であった。
「最後の最後に壊れてしまったのか」
そしてその銃を暫く眺め、再び移動を開始する。
「銃がなかったらこんなところまで来れなかったな・・・相棒って言っても差し支えなかったかな。人じゃないけどなぁ」
そう苦笑まじりに呟く。
「体の自然治癒が発動しない・・・このままだと間違いなく死ぬ、かな。治癒魔法がある光魔法もここまで欠損が酷かったら意味ないし」
ロストは邪龍との戦闘で相当消耗しているため魔法を全く使えない状態だった。しかし移動をやめる訳にもいかず這いずりながらも移動を続ける。
「・・・こいつ、倒せたのか?」
目の前にあるのは3つの首が無くなった漆黒の鱗を持つ巨大な龍の死骸である。
「くっ」
やはり体の節々から激痛が走る。自然治癒も発動していないため、通常の人間ならとっくに動ける状態ではない。それでもロストが動けるのは唯生きることを諦めていないからだった。
「ここまで来て死ぬなんてなったら泣くに泣けないな。なんとか、しないと」
しかし今の状態での生存確率は余りに絶望的だった。ロスト特有の驚異的自然治癒は発動しない状態、光魔法は神力が枯渇状態で発動出来ない、回復薬なんて物はそもそも持ち込んでいないため所持していない。辺りに薬草なんて物は一切生えていない。仮に生えていたとしても先程のブレスで焼き尽くされているだろう。
「本当に・・・どうしよう」
そして遂には移動もままならなくなり始めていた。
「く・・・そ、視界が・・・」
既に目も碌に見えなくなっていた。しかし出口らしき扉は一向に見つからず遂に地面に突っ伏してしまった。
「こんなところで、死んで・・・たまるかよ」
そしていよいよ気を失いかけたロストの視界に一筋の光が入る。
「流石私の騎士だわ。アジ・ダハーカすら倒すなんて、私の眼に狂いはなかった」
目の前の白色の光は何か喋っているようだがロストには何を喋っているかも分かっていなかった。
「おま・・・え・・・は」
「うん?安心して。必ず貴方を助けるわ。ここまで来てくれたんだもの、絶対に助けると保障するわ。だから安心して、今は眠りなさい」
そして白色の光から手が伸びロストの頭を撫でる。その時にロストは不思議な安心感を抱き一瞬で意識を手放した。
「お休みなさい・・・お疲れ様」
ロストが邪龍を打ち破ったその時、場所は変わりアヴァロン王城の訓練所。
そこでは一人の少女が一人の男相手に圧倒していた。
「せぁ!」
「ぬ!?」
少女は左手に片手剣を持ち、右手に盾を持っていた。対する相手は一つの長剣だけである。
「ぬん!」
「はっ!」
少女は相手の長剣の軌道を完全に見切り、盾で長剣を防ぐ。そしてそのまま盾を目の前に勢いをつけて押し付ける。シールドバッシュという攻撃だ。
「くっ」
当然いきなり大盾が強い衝撃を伴い突っ込んできたため衝撃を完全に殺し切ること叶わず相手はよろめいてしまう。その時少女の瞳がキラリと光る。
「隙ありです!」
「しまった!」
少女は片手剣が必中する事を確信し、一気に振り切ろうとする。しかしそう簡単にはいかなかった。
「【風鎧】!」
「え!?」
相手は突然風の鎧を纏い、少女の剣の軌道を捻じ曲げた。
少女は握っていた剣の軌道が変わってしまったために腕があらぬ方向に向いてしまう。相手はその隙を見逃さず長剣を振るってきた。
「くぅ!【土壁】!」
「はぁ!」
少女は一瞬で土の障壁を展開する。しかし相手は気にせずに長剣を振るってきた。
「終わりだ」
結局長剣は土の壁を簡単に突き抜け少女の首に据えられていた。
「ありがとう、ございました」
少女は悔しげに歯噛みしながら礼を述べる。すると相手の方も笑みを浮かべながら少女を称える。
「はっはっは、そう悔しそうな顔をするなセレナ。俺を相手にその年でここまでやれるなんて驚愕を通り越すぞ」
「でも、負けたのには変わりありません」
少女・・・セレナはその場に憮然としながら訓練所の地面に座る。たった座るだけなのに気品を感じさせるのは流石貴族である。
「いやいや、俺が勝てたのはただの経験と少しの実力差だ。お前程のものならあと1年もすればすぐに俺なんて追い抜かすさ」
そう言うのはセレナの父、アーサー家現当主のジュード・アーサーである。皇帝のロード・アーサーもアーサー家の当主ではあるが家の事はほぼ全てジュードに一任しておりアーサー家の者や従者たちもジュードの事を主としている。
「そうなのでしょうか」
「ああ。ま、才能という点ではお前の許嫁のルーク君も相当だがね」
「っ・・・そうですね」
セレナは少し間を開けたが答える。
「あと8年後に結婚だ。孫の顔が楽しみだよ」
「はい、お父様」
セレナの想い人が行方不明になってから既に世界では2年が経過していた。
セレナはその間に剣の腕前、魔法の腕前がもはやそこらの兵士では敵わない領域にまで達していた。そして来年には世界中の国有数の魔法学校に通うことも国民全員が知っていることである。セレナはもはや容姿も相まって国の宝ともいわれ挙句の果てには聖女と呼ぶ輩まで出てきている。
父親が訓練所から去った後セレナは長い溜息をつき剣の後片付けを行うために武器庫へ向かう。
武器庫で剣の手入れを多少行った後武器庫から出てそのまま城へ帰ろうとした時に背後に一つの気配が出現する。
「・・・誰?」
「おいおい、誰とは・・・未来の婚約者にそれはないんじゃないか?」
「貴方だったの・・・」
「いい加減名前で呼んでくれないか?俺にはちゃんとルークっていう素晴らしい名前があるんだぜ?未来の伴侶なんだから名前で呼んでくれよ」
「いやよ。貴方をルークだなんて絶対に呼ばないから」
「ふん、あいつの事をまだ引き摺ってるのかよ・・・」
「前にも言ったじゃない。私の中でルークという名前を持つ男の子はこの世界で彼唯一人だって」
「彼ねぇ・・・」
ルークは面白くなさげに壁に寄りかかる。
「でもいつまでもあいつのことを引き摺ってる訳にはいかないだろう?俺とお前の結婚は国民全員が望んでいることだ。それにもう8年後に向けての準備が12魔騎士の中でゆっくりと進行しているんだ。今更止められる訳ないだろ」
「・・・そうね」
セレナはいくら嫌でも目の前のルークとの結婚は拒むことの出来ない事である。
セレナはこの男の事が嫌いだが国の事はとても好きだった。その大好きな国の国民たちが諸手を上げて祝ってくれるのだという。
セレナは賢明だ。故に分かっていたのだ。
国の中で絶対の権力を持つ12魔騎士。しかも魔騎士の中でも有数の力を持つアーサー家、その次期当主が国を放りだしてこの国を去ったら国民は誰が引っ張っていくのか。
この国を守るためにはこの国を去る訳にはいかなかった。
「ま、早々あいつの事は忘れることだ。あんなゴミ、もうとっくに死んでるだろ」
「っ!」
セレナは一瞬目の前の男の首を圧し折りたい衝動に駆られたが必死に自制した。
「ッ・・・」
セレナから相当な殺気が発せられる。その殺気を浴びルークはよろめく。
「彼をゴミだなんて、言わないで。殺しそうになっちゃうから・・・」
そしてセレナはこの場に少しでもいるのが嫌だというように訓練所を去って行った。
「ルーク・・・貴方は何処へ行ってしまったの・・・今貴方に会いたくて会いたくてしょうがないの」
そう言って少女から流れた涙を見たものは誰もいなかった。
「くっ・・・」
ロストが目を開けて最初に見えたのは白色の光だった。
「ここ・・・どこだ?」
ゆっくりと身を起こし、今いる場所を把握しようとするが上手くいかない。
「っつ・・・・」
そして先程までの死闘を思い出し、一気に意識が覚醒する。
「っ!そうだ、俺は確か食堂の最上階であの龍と戦ってそれでなんとか勝てたけど体がボロボロで結局気を失ってそれで・・・」
そう思っていると新たな声がした。
「あ、目が覚めたのね」
「え?」
ロストは自分の耳を疑った。この食堂へ来て行ったまともな会話など片手の指で足りるほどしかした事がない。
それなのに聞こえたのはこの世の物とは思えないような絶世の音色の声だ。その声はロストに銃を渡した青年の声とも主食の間で戦った人型の声でもなかった。
声のする方へ目を向ける。
そして目を奪われた。
「君は・・・」
「初めましてね」
ロストは少女程綺麗な生物を見たことがなかった。腰まで流れ落ちる髪の毛は何色にも染まっていない白、肌も雪のように白いのにまるで不健康さを感じさせない。顔はまるで熟練の人形職人が何十人も集まり全員の最高作品の美しさを全て集めたと言われても不思議ではない整った顔。そして瞳はこの世全ての赤色の宝石を集めてその中から厳選された真紅の宝石をはめ込んだような透き通った紅色。
そんな少女に目を奪われ何も喋れない。
「貴方、1ヶ月も寝てたのよ?すごく心配してたんだから・・・って聞いてる?」
「え、あっ・・・ああ」
気遣われてやっと意識を取り戻すロスト。
「うふふ、そんなに見つめられると流石に照れるわね。嬉しいけど・・・さて、自己紹介しようかしら」
「初めまして、クロエと言います」
少女はふわりと花が咲き誇るように咲った。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
ふぅ~・・・長かったですね、食堂編。投稿したのを見ると食堂編がスタートしたのが8月1日、完結が11月1日。約3ヶ月です。大分間延びした感がありますがいかがだったでしょうか?一応これでこの作品の4分の1、起承転結で言うところの起の部分が終わった事になります。まだもう少し食堂編になりますが食堂編の戦闘はあと一度だけの予定です。誰が相手かはまだ内緒です。予想するのも楽しんで頂ければ嬉しいです。食堂編での感想を教えて頂ければ嬉しいです。
さて、今回で遂にヒロイン登場ですね。しかし登場まで長かったw遅くなってしまい申し訳ありませんでした。次回からいよいよ主人公最強タグが実現されると思い、作者もワクワクしています。もちろんヒロインのクロエも戦えます。それもとびっきりのチート能力を所持しています。早くロストとの背中合わせ、やらせたいですね。次の章の内容も既に決めてるのであとは話を作っていくだけですね。これからも頑張りたいと思いますので応援していただければとても嬉しいです。
魔神の食堂編作成秘話が聞きたいという方は11月1日に活動報告を久しぶりに活用しようと思いますので興味がある方は読んでコメントを下さると嬉しいです。
次回の投稿は11月7日0時です