第三話 無の確定
「まずは私から行くね」
「ああ」
そしてセレナが前に出た瞬間に場が静かになる。物音一つしない程に。
「祭祀様」
「・・はっ、失礼いたしました。では石版に手を置いてください」
「はい」
そして彼女が手を置いた瞬間辺り一帯に光が舞う。
「・・・・」
「どうでした?」
セレナが問う。それでも祭祀はボーッとしている。祭祀は呆れてしまっているのだ。この・・・
異常な才能に。
オオオオオッ!!
そして観客達は雄叫びをあげる。知識が殆ど無い者でも分かるのだ。セレナは相当に強い、と。
「祭祀よ。結果はどうだった?」
ロードが誰もが聞きたかったことを聞く。
「結果は」
「結果は?」
この場全員が固唾をのんで耳を傾ける。
「属性は全属性、剣の才能、魔法の才能も伝説級」
「恐らく歴代最高かと思われます」
「ほう!歴代最強とな!はっはっは!ワシの才能すらも超えよったか!よきかなよきかな」
聖堂に爆発的な歓声が響き渡る。一様にすごい、すごいと。ロード・アーサーは間違いなくこの国最強の魔騎士だろう。それすら凌ぐという報せが入ったのだ。お祭り騒ぎになるのは仕様がないことなのかもしれない。
「皆さん、少しお静かに。まだ終わっていませんよ」
セレナがそう呼びかける。そして観客達は先ほどまでの態度に少し恥じつつも静かになる。そして観客達は予想を立てる。今代の最強はセレナか、それとも・・・
「最後は僕か」
ランスロットの名を次ぐルークか・・・
「ではこちらに手を・・・」
「はい」
そしてルークが歩を祭壇に向かって進める。そして祭壇にたどり着き、石版に手を置く。そしてその結果・・・
「え?」
誰もが予想しなかった。この国最強の名を受け継ぐ子には、何も反応しなかったのだ。まるで
何も持っていないかのように・・・
「そ、そんな!」
そして彼は今と同じようにもう一度石版に手を置いてみる。それでも結果はなにも変わらない、何も起きない。
観客達だけでなく12魔騎士の子供達も呆然とする。こんなことはこれまでの歴史上ありえなかった。そして何よりもあの、ランスロットの名を受け継ぐ者が何もないのだ。
そしてその日から彼の家での扱いがガラっと変わった。変わってしまった。
2ヶ月後・・・
「おい、見ろよ。無能が剣を振ってるぜ」
「あはは、馬っ鹿じゃねぇの?お前なにも才能ないんだぜ?無能のルークが!」
「おいおい、ルーク様はこんな無能じゃねぇだろ?俺達より年下なのに全然才能溢れる素晴らしいお方だ。あんなゴミと一緒にしたら申し訳ないぜ」
「そうだったな。今の発言は忘れてくれ、ゴミ屑くん」
「「「ぎゃはははは!」」」
「・・・」
ルークはただ無言で剣を振り下ろし続ける。才能がないと分かってしまった以上意味がないということは自分でも分かっている。しかし、それでもやるしかないのだ。魔法の才能もない、剣の才能もない。じゃあ自分には何があるっていうんだ?そんな疑問を彼は自分に問い続ける。答えなんて分からないのに・・・
「そうだ!俺達で剣の稽古しようぜ!なんて言ったって俺達は12魔騎士!魔騎士たるもの剣の稽古を怠っちゃだめでしょ!」
「お、いいなぁ!丁度いい練習台もあるんだ、やろうぜ!」
「おっけー!おい、ゴミ屑!お前を俺達の練習台に任命してやる!よかったな!なんせ俺達パラメデス家、ケイ家、ボールス家の3人を相手にできるんだ。光栄に思えよ~?」
そして剣の稽古と言う名の集団リンチが始まる。
「・・・」
ルークは剣を構える。できれば一矢報いたい。そんな思いを込めて剣を手に取り構えを取った。しかし才能があり、自分と同時期に訓練をし始めたとはいえ相手はプロフェッショナルの騎士に教わっている。対して自分はただ素振りをしているだけ。そして相手には才能があり、自分には何もない。そんな相手に敵うどころか一矢報いることなどできるはずもなく・・・
バキッ!ドコッ!
「カハッ!」
「やっぱこいついい練習台だわ!」
「いいねぇ、いいねぇ。俺次魔法の訓練したいんだけどいいかな」
「いいぜいいぜ。俺達離れてるからやってみてくれよ」
「おっけ~。離れてろよ」
そして2人が離れ1人が魔法の詠唱に入る。
「我、求めるは火・・・火球!」
ボウッ!
「ウッ」
ジュゥゥゥ
肉の焦げる音がする。当然だろう。下級とは言え火の魔法だ。それがたとえ初歩の魔法だとしても殺すための魔法だ。一般人ならこれでも十分に殺せる。そんなものを防御なしで受けたのだ。大火傷では済まないかもしれない・・・
「くっせぇなぁ。お前。なんでそんな臭いするんだよ。豚だからか?」
「豚なら肉を柔らかくするためにもっと叩かないとなぁ!」
「そうだな。ならもういっちょ剣の特訓いこうか!」
「「おう!」」
バキッ、ドカッ!ボキッ!
「グアッ!」
「おらおら!」
「ハァ!」
「そらぁ!」
彼らが振るっているのは訓練用の剣だ。だがしかし、刃引きをしてあるとはいえ、鉄の塊を振り下ろしているのだ。そんなものを振るわれては骨の一本や二本折れるのは当然の成り行きである・・・
「そろそろ疲れたなぁ、帰ろうぜ」
「さんせ~」
そう言って3人組は帰っていった。あとに残ったのは夕日に照らされた芝生に蹲る憐れな少年ただ一人。
サクサクサクッ
芝生を踏みしめる音が聞こえる。誰か来たようだ・・・
「惨めだなぁ。おい」
顔を上げるとそこにいたのはルークの弟、いや、現在のルーク・ランスロットだ。
「あんた、生まれた時は期待されてたんだってなぁ。なのに今俺の目の前にいる俺の兄貴はなんだ?俺ははっきり言って不愉快だよ。お前みたいなクズの弟、なんてのはな!」
ガキッ!
「あう!」
顎を蹴り飛ばされ、頭を踏み躙られる。
「ハァ・・・なんで俺の兄貴はこんな出来損ないなのかなぁ・・・それに比べて、この俺、ルーク・ランスロットはどうだ?成績優秀、剣と魔法の才能ももはや異常レベルなんて言われている。それに比べて過去のルークは見事に失墜、弟に名前を奪われる始末だ。なぁ、自分の名前を奪われるってどんな感じなんだよ?」
「クッ・・・」
「あはは!一歳年下の五歳児に泣かされてやんの!お前本当に兄貴かよ!」
さらに踏み躙られ、見下される。
「まぁいいや。俺が来たのは伝言だ。父上が呼んでたぜ。早く行けよクズ」
そう言って彼は去っていく。
そしてルークは、彼はランスロット家の当主の待つ部屋へ向かい足を引き摺りながらも歩いていく。
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