第二十七話 最上階
クライマックスに入りました。
暗闇の中に仄かな明かりがある。明かりの正体は壁に埋まっている鉱石だ。
この鉱石が仄かな明かりを放つことにより完璧な暗闇にならずにすんでいる。しかしそれでも十分暗い。その暗闇の中に一つの人影が高速移動する。
「グルァ!!」
そんな影に暗闇から異形の化物が現れる。その化物はもはや魔獣の形をしていなかった。魔獣は必ず元となる動物がいる。
しかし暗闇から現れた魔獣は背中から触手を4本生やし、足が3本、手は1本あり、もはや元が何の動物か分からないような状態になっている。しかしその異形が放つプレッシャーは尋常ではない。並の人間ならこの異形を目にしただけで倒れるであろう。
しかしその異形の化物に襲い掛かられた人影はさして動じるでもなく冷静に片手を異形に向け、指を一本だけ動かした。
バンッ!ボッ!
「グギャアアァァ!!」
異形の化物は蒼色の炎に身を焼かれやがて塵になった。そして人影は冷静に今使用した兵器に弾を込める。
「ふむ・・・やはり俺の魔法は相当火力が高いようだ。この最終フロアでもしっかり通用してるようだしな」
そして再び移動を開始する人影。名をロストといい、訳あってこんな死地にいる。
「しかし困ったなぁ。こんな変な化物じゃ食べる気も起きねぇな・・・早くちゃんとした形の魔獣出てこねぇかな。こんなんじゃ俺、飢え死にするんだが」
ロストは今現在、魔神の食堂最上層に位置している。
「多分ここが最後の階層だろうな。さて、ここの親玉はどんなやつやら・・・」
再び高速移動を開始し、このフロア探索に取り掛かるロスト。
「あ、忘れるところだった」
一旦立ち止まり、腰の道具袋から弾丸を幾つか取り出すロスト。そして・・・
「ふっ」
辺り一帯を淡い青色の光が照らし始める。
「よし、魔弾完成」
ロストは主食を突破し、次の階層のボスを倒した時に自分の火力不足を実感しはじめた。そこで魔法を使おうかと思ったロスト。しかしロストの魔法は威力や持続時間は相当あるのだが、2mを超えた辺りで一気に威力を消失し、消えてしまうのだ。
どうしたものかと悩んでいたときにロストへ無属性魔法を教えた青年が再び現れる。そこでロストは青年に新しい無属性魔法の【固定化】という魔法を会得することに成功する。
【固定化】とは、その名の通り物や状態をそのまま固定してしまう魔法だった。一見すればそんなに強そうには見えないかもしれないがこの魔法の真骨頂は物や状態だけでなく、現象すらも固定してしまうところだった。しかし、固定しただけでは特に意味もなかった。
そこでロストは青年にもう一つの魔法、【付加】も教えてもらった。
【付加】は単純な能力で、物体に何かを取り込ませたり、物をくっつけたりするときに使う魔法だった。
しかしロストはそこで弾丸に固定化させた魔法を、弾丸に付加させるとどうなるか、と思い至る。
そして実験した結果、できたのがこの魔弾である。魔法の威力は神力を使っているため、通常魔法とは比較にならないほどの威力を有している。それが音速並の速度で飛来し、発動する。もはや兵器も同然の物をロストは平然と使用していた。
「他の属性も大丈夫かな・・・火は今作ったし、水、氷、風、雷、土、毒、麻痺、睡眠・・・」
道具袋から様々な種類の弾丸を確認する。
「よし、大丈夫だな。探索再開だ」
そのまま探索を再開するロスト。
「グギャァァ」
「またまともな形をしていない魔獣が出てきやがった。なんでだ?」
ロストは今までは動物の形をしていた魔獣が急に異形の化物になった理由を考える。
「おかしいな。このフロアの一つ下の階層ではちゃんと魔獣は動物の形をしてたのに・・・」
そう考察しながらも体は異形の化物に反撃する。
「ギャアア!」
相変わらず触手や羽など意味不明につけている魔獣はロストに触手を伸ばそうとする。しかしロストは極めて冷静に対処する。
「ふん」
バンッ!
「ギャァ・・・ァ?」
異形の化物は最初の攻撃をひらりと躱され、すぐに別の攻撃を行おうとした瞬間に地面に倒れ伏した。
「ァ・・・」
「ふむ。このフロアの魔獣にもこの麻痺弾は瞬間性を発揮するようだな。これが分かるだけで大分安心できる」
「ァ・・・・ァ・・」
地面で苦しそうに痙攣を起こす魔獣をロストは見下ろし別の弾丸を銃へ込める。
「さて、と・・・」
バンッ!
パキッ・・・
一発の弾丸に貫かれた魔獣は死に絶える訳でもなく、その場で氷漬けになる。
「氷結弾も大分有効だよな。一瞬で氷漬けにできる訳だし」
そしてロストは氷漬けになった魔獣を見下ろしながらその魔獣を足で一気に踏み潰す。
バキッ!
「多分これでもちゃんと一撃必殺だろう」
そう呟き再び銃へ新しい弾丸を込めるロスト。
「そろそろボス部屋が見えていいころだと思うが・・・」
そう呟き、辺りを見渡すロストの背後に一つの気配が出現する。しかしその気配がある場所には何もいないどころか音もしなかった。そしてその気配はロストに向かい忍び寄り、ロストの命を奪おうとする。
「・・・・【止水】」
ロストが唯一言呟いた瞬間ロストの目が碧色から蒼色に変色していた。そして自分の手首を真後ろに向けて銃の引き金を一気に3度引く。
バンッ!バンッ!バンッ!
「ギュァ!?」
魔獣は見えていないはずの獲物からいきなり攻撃が行われ驚愕する。
「甘いな。俺がその程度の隠密を見破れない訳ないだろ。その程度の隠密を見破れないようなら俺はとっくに魔獣の餌になってるぜ」
そしてロストは再び何もない空間に発砲を再開する。
バンッ!バンッ!バンッ!
「ギュゥゥ!!」
「流石に普通の弾丸じゃ仕留められないようだな。しかし魔弾なら効くだろう?」
そしてロストは銃を小脇に抱えながら1秒かからない時間で再装填を行う。
「死ね」
バンッ!バンッ!
「ギュァァァ!!!」
何もない空間からカメレオンの形をした魔獣が姿を現す。
「お、やっとちゃんとした魔獣だ。お前俺の飯決定だわ」
そしてここでロストは一気にカタを付ける。
「【強化】」
ロストの視界は一瞬でスローモーションに変わる。
そして銃の照準をきっちりとカメレオンの頭につけ、引き金を一度だけ引く。
バンッ!
バチィ!!
「ガ・・・・」
そんな短い悲鳴を上げてカメレオンは地に伏せる。
「やはり相手の体を傷つけずに殺す時は脳を電気で焼くに限る」
ロストが撃った弾丸は雷の魔弾。仮に人間に当たれば一瞬で黒焦げになること間違いなしの電圧を誇る弾丸だ。この弾丸もロストが自作した弾丸の一種である。
「さて、と。こいつはどうやって食うかなぁ・・・」
そう平和的な事を呟きながら、ロストは移動を開始する。
「やはり魔弾は強い。十分やっていける・・・あと俺が望む事と言えば新しい銃が欲しいな。銃を作ったとか言ってたあいつが現れたら言ってみるか。いや、絶対に作らせよう。そんな手段を使ってもな」
そんな事を黒い笑みを浮かべながら銃をしまい、移動しているとロストは遂に目当ての扉を発見する。
「・・・見つけた。見つけたぞ・・・最後の部屋」
ロストは暫くそこに立ち尽くしていた。そして立ち尽くしていたところ、いきなり扉が開き始めた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
そんな音を響かせながら扉が開いていく。
「なるほど・・・俺を誘ってる訳か。どんな奴かは知らないが・・・その誘い、受けてやる」
そう言い残し手に持っていたカメレオンを道具袋に押し込み、開いた扉の奥へ歩を進める。
「これで最後なんだろう?さて、どこまで強いのか・・・」
そして銃を道具袋から取り出しいつでも戦えるようにする。
「まぁいいか」
そして歩をゆっくりと進めていく。
「俺の道に立ち塞がって邪魔をするというのなら・・・・」
「処刑してやる」
そう言い残し、ロストは扉の奥へ消えていった。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
さて、遂に魔神の食堂編最上階に入りましたね。ここから今まで出てきた青年の正体や自分なりに出した伏線を回収しようと思っています。まぁ伏線って言えるような大した物ではないのですがw
そして次回か次々回には今まで言葉だけで登場していた彼女が登場します。楽しみにしてくだされば幸いです。
それと気になっているのですが、【止水】←と→‘止水’ どちらが読みやすいのでしょうか?感想欄で教えて下さると、今後の技の出現シーンの時の参考になりますのでできるだけ答えて下さると嬉しく思います。
たくさんの感想ありがとうございます!感想には基本返信を心がけています。感想が作者の励みであり、執筆の原動力になります。感想お待ちしています!