第二十六話 河底
ロストは気配感じ一瞬で背後に振り向いた。そして背後に魔力を収束し口の前に構えている白狼を視認した瞬間体を収束された魔力の線上から逸らすことに全力をかけた。
そして極光がロストの体を貫いた。
「ふむぅ、流石に今のは避けられなんだか。残念じゃのう、チハ。折角遊び相手が見つかったばかりだというのにのう」
「クゥゥン」
チハはつまらなさそうにロストを眺めながらローブの人型にすり寄る。そして撫でてほしいのか頭をローブの人型に頭を擦り付ける。
「ほっほっほ、可愛い子よ。よしよし・・・」
「クゥゥン・・・」
バァンッ!!
人型がチハの頭を撫でているといきなり銃弾が二発飛来し、チハの体を貫いてきた。
「キャンッ!!」
「チハッ!!」
「ちっ・・・前足が一本だけか」
死骸かと思われていた。しかしそこにはしっかりと二本の足で立ち、リボルバーをしっかりと構えこちらに向けているロストがいた。
「出来ればそこの人型と犬っころの命を刈り取りたかったんだが・・・ゲフッ」
しかしロストは喋っている途中で吐血する。
「何故生きておる・・・魔力の収束玉は確実に主を貫いていたはず・・・」
「へっ・・・俺の本能と全力を舐めんな。全力があれば避けるなんていうのは可能なんだよ・・・流石にあんだけ時間がなかったら全て避けるとはいかなかったけどなぁ」
注視するとロストの左側の横腹が空洞になっているのが見えた。
「横腹の幾つかがないが止血出来れば十分だ・・・」
ロストは手に神力を籠め炎魔法を行使する。
「くッ・・・」
ロストの横腹から肉の焼ける音が聞こえ、煙が上がっていた。ロストは炎魔法を自分の横腹に当て、無理矢理な接合を行った。
「無理矢理な治癒方法だが血は止まったし、あとは自然治癒でなんとかなるのを待つしかないな」
「あの極光を避ける相手・・・か。ふっ・・・ふっふっふ・・・」
「行くぞ・・・」
「チハッ!全力で相手をしてやれ!お前の全力を出せる玩具だ!」
「グアアアアアア!!」
ロストは一瞬でトップスピードになり、チハは自分の全力を出しても壊れない玩具が現れたことに歓喜の咆哮を上げる。
「グルアァァ!!」
「ラァ!!」
ロストはチハが振るってきた触れるだけでも肉塊になりそうな爪をリボルバーで受け流す。
「セァ!」
リボルバーで爪をいなし、チハの顔面に蹴りを見舞う。
「グルルルゥ」
「全然効いてない・・・青色熊とかならいまので頭が粉砕してるレベルなんだけどなぁ」
「ラァ!!」
「おっと!」
頭に乗っている足をチハは不愉快気に左前脚で振り落とそうとする。
「お前の爪、馬鹿にならない威力だからなぁ。気を付けてくれよ」
「ルルルルル・・・」
もちろん敵に手を抜いてくれ、と言われても抜く敵がいないのは当たり前である。
そうしているとローブの人型が声を出した。
「チハ!遊ぶのは終わりだ!アレを使い早急に仕留めてしまえ!」
「ガルル・・・」
チハは人型の方へ顔を向け頷くような仕草を行う。
「おいおい、まだ何かあるのか?」
「ルルル・・・」
「何ッ!?」
チハは少し唸り声を残しながら虚空に溶けるように消えていった。
「ほっほっほ・・・驚いたかの?これがチハが我の最強の僕の証、透明化じゃ・・・。先程お主が狩ったチハとは強さが数段は違うぞい?」
「ちっ・・・厄介な敵が出てきたな」
「さて、視認は勿論、気配も感じ取れない、匂いを感じ取れる程の嗅覚もない。更にチハの隠密性は非常に高いぞい?切り抜けられるかの、この状況を」
「切り抜けないといけないだろう」
「そうか・・・では頑張ってくれたまえよ」
「言われなくてもっ!」
そういってロストは自分の本能のままに左側に飛ぶ。そして今いた場所の地面に亀裂が走る。
「今のは本当に偶然だな・・・いつまでも俺の直感に頼っていられないか。何か対策をしないと、だな」
そういってロストは全神経を集中させる。黒ローブの人型が何もしないとも言えないため人型の気配もチェックするのを忘れない。
「さて・・・まずは一番確率がありそうな音だが」
ロストは何か小さな物音でも聞き分けようと耳を立てる。
「・・・・・・」
シャッ!
「グァッ!」
しかし音などなくあっさりと背中を切り裂かれてしまう。なんとか頭だけは一瞬だけ姿を現したチハの気配を感じ取り、頭を前方に出し直撃を避ける。
「っつう・・・」
瞬時に神力を練り上げ背中に光魔法を行使し、治癒させる。
「本当に音がねぇな・・・くそっ」
「ほっほっほ・・・そう簡単に気配を読まれるならこんな場所にいはせんよ」
「ちっ・・・次は・・・視認か。次は動きながらでいくか」
ロストは一気に主食の間を走りながら周囲を警戒し、少しでもチハの気配を読もうと走り回る。
「とりあえず部屋中駆け回ってみるか」
ロストは部屋をぐるりと一周する要領で部屋中を走り回る。
しかしある程度走り回ったところで再び一瞬だけ気配が現れる。
「くぅ!そう何度もやられっぱなしで終わる訳には・・・いかねぇんだよ!」
「ルァ!!」
バンッ!
苦し紛れの一発。気配が現た方向になんとか銃口を向け、一発だけ発砲を可能とした。
ガキンッ!
「グルァ!」
しかしその苦し紛れの一発もチハの爪にあっさりと弾き返される。
「くそっ、まあまた爪の一撃を食らうのは阻止できたか・・・」
「ルルゥ」
チハは再び悔し気な唸り声を残し虚空に溶けるように消える。
「ふぅ・・・」
ロストは一旦深呼吸を行い心を落ち着かせるように努める。
「さて・・・次は何で気配を探るべきかな・・・」
若干やけくそ気味に呟く。
「すぅ・・・はぁー・・・」
ロストは一度深呼吸を行う。そして目を開かず閉じたままその場から動かない。
「自ら光を閉ざし暗闇を享受する、か。愚策だな」
「うるせぇ。もうこれ以外方法がなさそうなんでな。心眼ってやつ?」
「貴様程度に心眼など出来るものか。心眼を可能とするには一定の極地に到らねば到底不可能だ。最初から光が見えない失明状態で産まれてきたという事があれば稀にだが到る者もおるがな」
「出来なきゃどうせ食われて殺されるだけだ。なら足掻きはするべきだろ?」
そうは言うがロストは内心冷や汗が止まらなかった。
いつあの爪が来るのか。
どこからあの牙が降りかかってくるのか。
今見えるのは何もない、ただの暗闇。
どれくらい経ったのか。1秒か、10秒か、1分か、5分か、1時間か、10時間か、1日か。もしかすると0.1秒も経っていないのかもしれない。
「・・・・・・」
ロストの背後の空間から爪が音もなく現れる。そんなものがロストに見えるはずもない。
「・・・・・」
「・・・・・」
ロストはその場を動かずに静止し続ける。
爪はロストの命を確実に刈り取れる場所に合わせる。
しかしロストには何も見えはしていなかった。しかしその時ロストの視界には一つの湖の景色が思い浮かんでいた。
ロストにとってはこんな所へ来たこともないし、見たこともない。しかし何故か前から知っているような感じがしていた。
(綺麗な湖だな・・・夜でしかも満月だ。湖にとても綺麗な満月が映ってる)
そして爪が振り下ろされた。
バンッ!バンッ!バンッ!
ガキィンッ!!!
「なっ!?」
「ガッ!?」
人型とチハは揃って同じような反応を行う。
「一点射撃・・・あのこのリボルバーの本来の持ち主の使った技だったが俺にも出来たな。これからはこれも使っていくとしよう。あの犬っころの爪もへし折れたし、一点に集中させればやっぱ威力は段違いになるな」
広間に一つの声が響き渡った。
「しかし・・・これは心眼っていうべきか?いや、違うか。実際何も見えてなかったし・・・これは新技だな。水を操る一族に生まれたからこそ出来た技っていうのが皮肉をきかせてるが」
「お主・・・その瞳・・・」
「ん?悪いが自分の顔は見れないな」
今までのロストは神の実を食したとは言え外見に大きな変化は身長が大きく伸びた、精神面の変化があっただけであり、元々のロストの銀髪碧目は変わっていなかった。しかし今のロストの瞳は碧色の目ではなかった。
「なんと・・・なんと蒼い、そして河底のように暗い。まるで地底湖のように静謐な瞳・・・」
「ああ、そんな瞳の色になってるのか・・・」
「『明鏡止水』、か」
「じゃあこの状態は【止水】、とでも名付けようかな。うん、しっくりくる」
「ルルルルル・・・」
チハは自慢の爪をへし折られたが冷静に虚空に溶けるように消える。
「また消えるのか」
「今のは所詮偶然じゃ。チハの隠密は完璧じゃ・・・・」
「いや、もう効かないだろうな。だって・・・」
ロストはいきなりリボルバーを自分の左方向へ向ける。そして・・・
バンッ!バンッ!
「キャンッ!!」
虚空から突然チハが出現する。白銀の毛を赤く染めながら。
「な・・・何故」
人型はあまりの驚きに声がうまく出せなかった。
「何故、か。なんか分かるんだよ。何もないはずの場所なのにそこだけ波紋が広がってるんだよ。まるで地底湖に石を落としたように、な」
「・・・心眼」
人型は呻くように声を発する。
「いや、心眼じゃないだろう。見えてないんだし。俺が見えてるのは湖だ」
「・・・」
「さて、と」
ロストは歩きながらリボルバーの弾丸を排莢し、弾を込めなおす。
「遊びは終わりだ、犬っころ」
「ガァ!」
チハは再び虚空へ消える。しかしチハの状態は爪がへし折られ、前足が一つ使えず、体には2発の鉛玉が入っている。
「ハァ・・・そこだ」
ロストは首を少しも動かさず、腕だけを動かし射撃する。
バンッ!バンッ!
「キャンッ!」
ドサッ
虚空からチハが再び出現する。しかし両目を潰した状態で。
「今の2発でお前の両目を潰した。もう何も見えないだろう」
「フゥゥゥ・・・・」
それでもチハは敵意を収めず一矢報いようと立ち上がる。
「へぇ、犬のくせにいい気合だ」
「フゥゥ・・・」
「も、もうよせ!チハ!そいつにはもう敵わん!!」
「あんた、魔獣想いなんだな」
人型の声には悲痛さが込められていた。それはこの人型がこの魔獣を心底大事にしていたという証拠。
「でも悪いな。こいつの命、刈り取るぞ」
バンッ!
一発の銃弾が躊躇いなく1匹の命を奪った。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
今回に出てきた【止水】は、作者が漫画の中でも特に大好きな作品のとあるキャラの能力をアイディアにし、思い浮かべました。分かる人、いるのかなぁ。
ヒントとしては能力名は一文字違います。あとは金髪ロングのお嬢様キャラの冷たい方から引っ張ってきました。 ・・・これもう答えになってるんじゃないか・・・
とにもかくにも次回をお楽しみにしてくださいましたら嬉しいです。
たくさんの感想ありがとうございます!感想には基本返信を心がけています。感想が作者の励みであり、執筆の原動力になります。感想お待ちしています!
負けたくーない~、あきらめない~ 本音で勝負~