第二十四話 怪鳥
ゴーレムとの死闘を終え、新たな武装と魔法を手にしたロストは「前菜」の部屋にて銃の扱いと身体強化の猛特訓の末に何とか実戦レベルまで持って行けた。本音を言えばもう少し特訓をしたかったロストだが食料が尽きてしまったためにこれ以上の特訓を断念したのだ。
「さて・・・どんな奴が来るのか」
ロストの右腕にはこれからの主力武装となるリボルバーが握られていた。ボウガンは青年からの贈り物の袋の中に入っている。
「キュアアァァァ」
「魔獣ッ!」
1週間ぶりの魔獣との戦闘になるが、ロストは見事に反応して見せる。
「鳥型の魔獣か」
「キュアアァァ!!」
大きさは1.5m程と鳥としては相当に大型の鳥型魔獣が襲いかかってきた。
「“強化”」
ロストは一言呟いた瞬間体全体に力が漲る。
『強化』
ロストは無属性魔法の身体強化の呪文をこう名づけた。ロストはこれから戦闘に入る前に必ずこう呟くように決めた。
第一の理由として強化状態のロストは銃の射撃速度、命中精度共に強化をしていないロストと大きく差が出てしまった。身体強化状態では五感も相当強化されるらしく、ロストは空気の流れなども感じられるようになっていた。
第二の理由として反動の軽減や銃を構えるまでの時間短縮があった。身体強化を行うことにより、腕が反動に耐えられるようになったため命中精度が上がるだけでなく銃を腰から抜いてから構えるまでの速度が1秒内まで抑えられたのだ。
「キュアアアァァ!」
鳥が羽を飛ばしてきた。鳥の羽は尖っており一種の刃物のような形状をしていた。どうやらこの羽を投げ飛ばし相手を切り刻むという攻撃手段を使うようだった。だがロストはその場から動かなかった。
「遅すぎるぜ」
バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!
ロストは自分に飛んでくる無数の羽を前に焦る素振りを全く見せずに銃を構え、その全てを撃ち落とした。
「終わりだ」
「キュァァ!」
バンッ!
鳥は何が起こったのか分かる間もなく頭を撃ち抜かれて絶命した。
「この銃って武器、やっぱりすごいな」
ロストは自分の持っている銃を実戦で初めて使い改めてどれだけ強いかを実感した。
「俺のための武器って言われても信じ込んでしまいそうだ。魔法なんかよりこっちの方全然使いやすい」
ロストが使える魔法は約2mを超えた瞬間その効力を失い消失してしまう。ロストが使う魔法は腕に刃の形を形成し常に神力を注ぎ込み続けてやっと実体化できるというあまり実戦に向かない力技だ。しかし銃は引き金を引くだけで簡単に命を奪う攻撃を可能とする。
ロストは遠い昔に感じるここに来る前のナナの言葉を思い出していた。
「俺には一つだけ才能がある、ねぇ・・・こりゃ通常じゃ気づかないよなぁ。なんていったって射撃の才能だもんなぁ」
そう独り言を呟き苦笑する。
「まあ俺はこれで12魔騎士共をぶっ殺せるならいい。でもまだだ・・・あいつらに絶望を与えるためにこの程度の力じゃまだまだ足りないな。ここを登りきればその力を手に入れられる、そんな気持ちがするんだよな」
そう言って先ほど使った弾薬を排莢しリロードを行う。
「さて、攻略再開だ」
ロストは再び探索を再開する。その結果分かったのはどうやらこの階層は鳥類の魔獣が大量にいるのだ。
「今日からしばらく鶏肉祭りが出来るな」
そう呑気に考えながら飛びかかってくる鳥の魔獣を尽く撃ち落としていく。
「数が多いな」
しかしロストが撃っても撃っても際限なく出現しキリがない状態になっていた。
「しょうがない、あれ出すか」
ロストは一瞬で残っていた4発の弾丸を飛んできていた鳥型の魔獣全てに必中させて撃ち落とす。その後リボルバーを袋に入れると同時に新兵器を取り出す。
「広範囲を殲滅するならこいつか。力は身を持って体験済みだ」
袋から出てきたのはロストの身長より少し小さい1.6m程の大きさをした火炎放射器だった。
ロストはリボルバーの鍛錬だけではなくゴーレムが使っていた数多くの兵器も使いたいと思っていた。リボルバーやロストの片腕を吹き飛ばした魔銃は確かに強力だが一点しか攻撃が出来ない。しかし火炎放射器ならば広範囲に攻撃できるのではないか?そう思ったロストはこれからは多対一を強いられる場面も出てくることを予測し、火炎放射器の扱い方も鍛錬しておこうと思ったのだ。といっても火炎放射器の仕掛けは簡単だったので1時間もあればすぐに覚えたが。
「さぁ、焼き鳥祭りだ!」
ゴオオオオオ!
そんな音を出しながら真っ赤な灼熱の炎が火炎放射器から発せられた。
「キュァァァァ!」
「ガァァーー!」
「クエエエ!!」
そんな断末魔を発しながら尽く消し炭になっていく。
「燃えろ!鳥共!」
多くの鳥が灼熱の炎に巻き込まれていく。
「火炎放射器を持ってきたのがいきなり功を奏したな。うん、これから使えるって思った物は全部持ってくとしよう」
新たな教訓を胸に炎を撒き散らしながら前進していくロストだった。
そのまましばらく前進しているといままでより一際巨大な鳥型の魔獣が居座っていた。怪鳥の周りには今までロストに突撃してきていた鳥が待機していた。
「お前がここの階層のボスみたいだな」
「キュルルルルル」
よく見てみると怪鳥の後ろに上へ登る階段が見えた。
「なるほど、ここを通りたければってやつだな?」
「キュアアア!!」
怪鳥が大声で鳴いた瞬間怪鳥の周りにいた鳥達が一斉に臨戦態勢に入った。
「「「「「「「キュアアアアア!!!!!!!」」」」」
「っ」
ロストは僅かだが引いてしまった。しかしその一瞬後にはすぐに獰猛な笑みを顔に浮かべながら臨戦態勢に入る。
「いいぜ、掛かってこい鳥共。纏めて焼き鳥にして食ってやるぞ!」
「キュアアア!!」
怪鳥が号令し、鳥型の魔獣が尽く突進を開始した。100を超える鳥が突進してくるのは圧巻だったがロストは怯むどころか逆に一歩前へ出た。
「燃えろ!!」
ロストは火炎放射器の炎の勢いを上げて灼熱の炎を撒き散らす。
「うおおおおぉぉぉ!!!」
「キュアアァァァァ・・・」
「キュルルルルゥゥゥ・・・」
やはりこの攻撃方法はとても有効なようで殆どの鳥が撃墜していく。しかしそれでも炎を突破してくる個体も僅かだが存在した。
「キュアア!!」
「うおっ!」
炎を突破してきた個体の攻撃を避ける。
非常に硬質な尖った嘴を持った鳥型の魔獣の突撃は一種の槍のような物で避けられた魔獣は奥の地面へ激突した。そして深々と嘴が地面に突き刺さっていた。
「あそこまで貫通力があるのか・・・油断した瞬間貫かれるな」
そのまま地面に刺さった嘴を抜こうとしていた鳥型の魔獣の頭を踏み潰す。それでもまだ鳥は突撃してくる。
「やっぱ数が多いな!もっと火力を上げるか」
火炎放射器の燃料は魔力のようで魔力を注げば注ぐほど広範囲で高火力の炎を吐き出した。
「らあああ!!」
「キュアアァァァ」
ゴオオオオオ!!
火炎放射器は向かってくる鳥を尽く焼き尽くす。突破してきた個体は蹴ったり潰したりし絶命させている。
そんな作業を30分程行っていた。向かってくる個体の数が目に見えて減っていた。
「もうそろそろ終わりか?」
「キュルルルルゥ」
「いよいよ親玉の登場って訳だな・・・」
「キュルルアアア!!」
「強化!」
身体強化を行う。本格的な死闘が開始された。
「キュァ!!」
怪鳥は先程焼き尽くした鳥型の魔獣達の親玉なのだ。当然手下の技が使えても不思議ではない。その事を証明するかのように怪鳥は自分の羽を多数飛ばしてきた。
「うおっ!」
ロストは回避する事は出来たが、飛ばしてきた羽が大きすぎるため撃ち落とすことが出来なかった。
「こんなに大きいのかよっ!」
ロストは一つ間違えれば体に風穴を空けるような鋭さを持った羽を相手に必死によける。
ロスト持ち前の自然回復力があるとはいえ欠損を元に戻すなんて馬鹿げた真似は出来ない。そのため体を貫かれた瞬間傷口は塞がっても内蔵までは修復できない。そのため一発も当たるわけにはいかなかった。
「てうわわわわ!」
「キュルァ!!」
ただでさえ数が多いのに怪鳥は更に飛ばす羽の量を増やしてきた。
「くっ!」
この怪鳥相手に火炎放射器は自殺行為だと判断を下したロストは右手に持つ火炎放射器を地面に捨てリボルバーに持ち替える。
「ここまで増やされちゃ避けきれない。撃ち落とすしかない」
ロストは覚悟を決めリボルバーによる迎撃に入る。
「懐に入れば羽は飛ばせない。どれだけ早く大鳥の懐に入るかが・・・」
一拍。深呼吸を一回行い集中力を跳ね上げる。
「鍵だ!!」
ロストは突撃を開始した。
「キュルアアアア!」
当然怪鳥にとって真っ直ぐ向かってくる獲物を相手に羽を飛ばさない理由がなかった。しかしロストの素早さは彼の自信のある行為の一つである。
獲物の速さも尋常ではない。このままでは1秒掛からない内に懐に入られてしまう。そう思った怪鳥はある一計を投じる。
「キュアアアアアアア!!」
ズザザザザザザザザザザザッ!!
今まで獲物に避けられないために広範囲に放っていた羽を一気に一点のみに狙いを絞ったのだ。当然一箇所に絞られた無数の羽にとっては真っ直ぐ近づいてくるロストなどただの的以外の何者でもない。
獲った。
そう確信した怪鳥だったがその確信が油断となってしまった。
バンッ!バンッ!バンッ!ガキンッ!ガキンッ!ガキンッ!ガキンッ!ガキンッ!ガキンッ!ガキンッ!
「入った」
怪鳥は何が起こったのか分からなかった。気がついたら獲物が自分の懐に入っていたのだ。
「残りの弾丸だ、持っていけ!」
バンッ!バンッ!バンッ!
「キュアアァァァ!!」
怪鳥の顔面に3発の弾丸が放たれ怪鳥の眼球の一つが潰された。
「ああ・・・流石に怖かった、こんな思いはもう二度としたくないな。さて、ここから接近戦だぜ」
ロストはリボルバーの弾丸を交換しながら構える。
ロストは今何をしたのか、それは理論上は可能だが誰もが馬鹿らしいと思う事。
簡単な事である。ロストは自分に向かって一気に飛ばされた羽の先に向かい3発撃った。相手の羽は超硬の羽のようなので銃弾を弾いた。その弾かれた銃弾に別の銃弾を当て跳弾させ別の羽に向かわせてまた弾かれ、今度は別の銃弾が跳弾しその羽を逸らし、別の銃弾に弾かれた銃弾が更に最初に弾かれた銃弾が当たり、また跳弾するというとんでもない神業を今やって見せたのである。しかも弾かれた羽もまた別の羽に当たり、軌道をずらすというおまけもついた。
こんな鍛錬をロストは一回もやった事がなかった。しかしこの窮地で新たな技を会得した。
「キュアアアァァ!!」
何をされたのかは分からなかったが獲物を仕留め損ねたと理解し怒る。
「さぁ、続きやろうぜ化物」
「キュアアァァ!!」
怪鳥にも接近戦が無いわけではない。すぐに自慢の足の爪を使う。
「キュアアァ!」
ザンッ!!
下の岩の床がいとも簡単に切り裂かれる。石の破片なんて一つも飛び出していない。綺麗に切断されていた、豆腐を包丁で切るように。
「綺麗に切断されてる・・・つまりとんでもなく切れ味がいいって事か」
「キュアアアァァ!!」
「いいぜ、相手してやる!」
「キュアアアァァ!」
怪鳥は足を武器として使うためか低空に飛行し始めた。そして爪を振るう。縦に、右から、左から。
その尽くをロストは避ける。石すらも綺麗に切断する代物だ、ここで右腕すらも失ってしまったら洒落にならない。
「キュアアァ!」
「っ・・・」
常に頭は冷静に相手の足の軌道を読む事に専念する。
そして軌道を読み続けた事が仇となってしまった。
「っ!!!!」
ロストは地面に足を取られ、体制を崩してしまった。この辺りには岩なんて何一つ無かったはず。こんな所で何に躓いた!そう思い足元を一瞬目視して正体が分かった。
最初に切り裂かれていた地面であった。
そしていまこそ好機と思ったのか怪鳥は羽を一気に広げ真下に無数の羽を一気に飛ばした。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
今回でロストの超人っぷりが改めて披露できたと思っております。跳弾ってかっこいいって思いません?実はこの話、完成させるのに結構掛かっちゃってました。怪鳥までの流れはすんなり書けたのですが怪鳥との戦い方で結構悩んでました。自分はラノベを結構持ってる自信がありまして、集めてるラノベの内の一つの最新刊をこの話を完成させた日に読んでまして、その中の主人公の特技の一つで銃弾を弾く特技があったんですよ。そこでこれを利用出来ないか、そう思い羽を弾くシーンを書いた訳です。まぁここまで言ってしまうと作者が何を読んでいたのかラノベ好きな人にはすぐに察知されてしまうと思いますがw
誤字脱字がありましたらお手数ですが報告よろしくお願いします。
たくさんの感想ありがとうございます!感想には基本返信を心がけています。感想が作者の励みであり、執筆の原動力になります。感想お待ちしています!
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