第十四話 新天地
ここは魔神の食堂と言われる化物ばかりが集まる森。その更に深淵の森。ここはまず日が差すことはない。辺りをカーテンのように覆っている大木が日の光を遮って朝、昼、夜の感覚をなくしてしまう。ここは常時深夜なのだ。その暗黒の森を高速で駆け回る影が一つ。
「う~ん、大分この辺りでは迷わなくなってきたぞ。今日は少し新天地に足を運んでみるのも悪くはないかな!」
ロストだ。ロストがこの魔神の食堂の深淵に落とされてから1週間程度が経過していた。そしてロストはこの辺りを散策し尽くしたため今日はまだ行ったことのない場所へ行ってみたくなったのだ。
「さすがに青色熊はもう狩り飽きたし食べ飽きたな。調味料なんてあるわけもないし・・・」
ロストは青色熊なら今や5秒以内に狩れるようになっていた。どうやらこの辺はこの青色熊の縄張りらしく、出てくるのは青色熊、その子供程度しか出てこなかった。
「今日は向こうに行ってみるか!」
そしてロストは新たな新天地に向けて移動し始めた。
「うっは~、少し移動しただけなのにここまで雰囲気が変わるのか」
今ロストがいるのは周りの木々がところどころ紫色に変色し、辺り一帯に紫色の霧のようなものが漂っている。
「この悪臭、息のしづらさ・・・これ、毒だな」
このエリアは常に毒霧や毒物などが辺り一帯に撒き散らされている。いわば猛毒地帯だ。しかしロストは今更こんな毒霧や猛毒に負けるほど軟弱な力を手に入れてはいない。
「しかしなんともないって事は俺に耐性が出来たって考えていいのかもな。なら遠慮する事はないや、探索しよ。ここにはどんなのいるかなぁ」
ロストの内心は新しい食べ物、果物や木の実があればいいなぁ、というものだった。しかしここは通常生物ではこの毒森の入口に差し掛かる時点でここの空気を吸った瞬間に肺がやられることはまず間違いない。故にこの環境で生き残るのはここで生きることに特化した生き物かこの環境に適応した生き物だけだ。そのため辺り一帯の木はどれもこれも腐ってボロボロ、殆どの木が死んでしまっているのだ。木の実なんてものが出来る訳もなく・・・
「何もないなぁ・・・」
こうなるのは当然の結果である。
「何かあると思ってたんだけどなぁ。ハァ・・・」
期待していただけにショックは中々に大きい。
「せめてここに出てくる魔獣の姿でも見てみようかな。探すか」
結局ここで魔獣を探して戦ってみることにしたロストであった。
「さ~て、何が出てくるかな~っと!」
いきなり背後に気配を感じてすぐさま右に回避する。
「シャーッ!!!」
「今度は蛇ときたか。しかし・・・」
ロストは今背後に現れた蛇をマジマジと眺める。
「でかすぎないか?」
「シャーッ!!」
ロストに襲いかかってきた蛇は見たところ20mはある。ロストなんてすぐに飲み込まれてしまうだろう。色はあまりに鮮やかであまりに毒々しい赤色、黄色、紫色の斑模様だ。
「うへぇ、気持ち悪っ」
ロストは蛇の見た目と配色に生理的嫌悪を覚えた。いくら強くなったとはいえ人としての感性はある。そのためロストは鳥肌が立っていた。
「気持ち悪いから」
「シャーッ」
ロストは一瞬で蛇の頭の後ろに回り込み、蛇の頭を両手で抱きつくように抱え込む。
「速攻で倒させてもらうぜ?」
そしてロストは両腕に思いっきりの力を込めてそのまま蛇の首の骨を捻って捩じ切ってしまおうとする。しかしそう簡単にやられてくれる程ここで生き延びている魔獣は優しくない。
「ふっ!」
「シャーッ!!!」
ロストは両腕に一気に力を込め捩じ切ろうとした瞬間に蛇は頭から尻尾まで全身をくまなく覆う針を出現させたのだ。
「何っ!?」
当然首に抱きついているロストにも容赦なく針が襲いかかってくる。
「ぐっ!」
「シャーッ!」
そして蛇は先程のお返しとばかりに今度はロストの体を全身を使い締め付けてこようとする。
「やっべ、いくら俺でも今はっ!」
ロストは先程の針はロストの驚異的な反射神経によりすんでのところで手を離し、蛇の体を蹴りつけて離脱していた。しかしいくら未来予知に近い反射神経だとしても未来予知ではないため当然回避行動に刹那の間の遅れは生じる。そのため胴体を蹴りつけて離脱した時にはもうほんの5、6本の針は刺さってしまっていた。針は非常に細かったようでダメージはそれ程でもない。しかし相手はこの猛毒地帯で生き延びている魔獣。その相手の針に数本だろうが触れてしまったのだ。当然針には猛毒が付着している。その毒針に触れてしまったのだ。当然体に毒は回る。
「くぅ、痺れ毒かっ!自分の毒耐性を過信しすぎたかっ!?」
確かにロストの体の毒耐性はあまりに驚異的で化物クラスだろう。しかしここで生き延びている魔獣も当然化物クラスだ。そしてここはその化物の巣窟の更に毒エリア。ここの蛇の毒の方がロストの体より、毒が強いというのも頷けるレベルだ。これは人間に例えるなら一流と二流だ。二流でも十分に強いが、やはり一流には敵わない。
「動け!動け!動っけええぇ!!」
必死に麻痺毒に対抗しようと体の中で神力を回し続ける。あまりにも膨大な量を回し続ける。自分に近づけば蛇に何もかもを貫く水の槍などで殺せるかもしれない。しかし、今のロストは麻痺毒のせいでうまく魔法用の神力を練られない。そのため体の中で神力をただ回す。少しでもこの毒が早く解けるようにただ回す。
「シャーッ!」
蛇はもう目前でその巨大な口を大きく開き、丸呑みにしようとしている。
「う、うおおおおお!!!」
そして今体の中で神力を必死に回し続けた事が功を奏し、蛇に丸呑みされるほんの刹那の間に体の自由を取り戻した。
「せああああああ!!」
「・・・っ!!!」
ロストは体の自由を取り戻した瞬間に絶対何者にも破られない殻を想像した。どうやらその選択は正解だったようで蛇はに何者にも穿てない殻に噛み付いたのだ。
バキンッ!
「ふぅ・・・今のは死ぬかと思った」
正に九死に一生を得たロストだった。
「ていうか最初に頭を捩じ切ろうとするんじゃなくて風の刃を作って首を落とせばよかった・・・」
全くもって正論である。
「シャ・・・シャーッ」
今や蛇の口の中の牙は悲惨な事になっているのだろうボロボロと欠けた牙が口から漏れてきている。
「さて、もう油断も自分の力の過信もしないぞ。もうこんな事は一回限りで十分だ」
そう疲れたような顔で言い放ち、腕に30cm程の風の刃を形成する。
「今度こそは負けねぇ。いくぜっ!」
そしてロストは反撃に出た。
「ふっ!」
「シャーッ!」
牙という頼りの武器が折れたせいか、今は積極的に針を出した尻尾を鞭のようにし振るってきた。しかしロストは驚異的な動体視力を持ち合わせている。いくら毒が強くても、蛇の攻撃はそこまで強くないらしくロストにとっては全てゆっくり向かってきているように見えていた。
「遅い、青色熊の振るう爪なんかよりも遥かに遅いぜ!」
「シャーッ!」
ロストが言い放った言葉の意味が分かったのかそれともいつまで経っても尻尾に獲物がかすりもしない事に腹を立てたのかは分からないが蛇は更に尻尾の振るう速度を引き上げた。
「確かにさっきよりは段違いの速さになった。それでも俺には」
ゾンッ!
何か分厚い肉を切ったような音が辺りに響き渡った。そしてロストの足元には色鮮やかな斑模様の尻尾が落ちていた。
「止まって見えるぜ?」
「シャーッ!!」
蛇はもはや自分の武器を殆ど無くしてしまった。このままではやられると分かったのか今度は一気に後退し逃げようとする。
「逃がすかよ!」
しかしロストの化物としか言い様のない身体能力から逃げられる訳もなく・・・
「ふっ!」
ズンッ
ロストの腕についた風の刃はしっかりと蛇の頭を切り落とした。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
今回もロストは新たな地に足を踏み入れました。どうやら今回の地点は猛毒地帯。見るも気持ち悪い毒々しい生き物がうようよ生息している地帯です。
そしてここで今回出てきたロストの反射神経の簡単な補足説明をしたいと思います。
まず今回ロストは驚異的な反射神経と作中で表しましたがどれくらいかといいますともはや未来予知にほぼ相違ないレベルです。しかしそれでも反射神経は反射神経。真の未来予知ではないのでいきなりの攻撃には当然一瞬遅れを取ります。それでも十分に凄いのですがねw 分かりやすい例としてあの大衆映画の蜘蛛男1に出てくるとても反射神経の早いあの蜘蛛を想像して頂ければ分かりやすいかと。
誤字脱字がありましたらお手数ですが報告よろしくお願いします。
応援、感想、アドバイス、お待ちしています。
長々と長文失礼しました。