第十三話 膨大な力
ここは第0院と呼ばれる特殊な場所。そこにナナ・ルカトは嫌な知らせを聞いていた。
「それは・・・本当なのか?」
「ええ。彼を魔法陣に入れた時に実は彼の居場所を分かるようにする魔法を体内に埋め込んでおいたんですけどね。その反応が消えちゃったんですよ」
「ということは?」
「端的に言えば死んだ、ですかねぇ」
この時ナナはこのローブの男を殴りたい衝動に駆られたが、殴ってもなんにもならないという事は分かっていたために、何もしなかった。
「それで・・・」
「あれ?何も言わないんですか?」
「・・・それで他の連中は?」
「無視ですか。まあいいですけどね。それで他の子供たちですよね?順調に今日一日を終えたらしいですよ?自分は担当していないのでなんとも言えないですけど、さすがはあなたの選んできた子供達だ。今日一日で信じられないほど強くなりましたよ。まぁ私達に比べればまだまだひよっこ・・・いえ、羽なしですねぇ」
「そうか・・・」
「まあ、安心してくださいよ。あの子達は必ず鴉になれる程の実力はありますよ?」
「・・・」
「では、私はこれで・・・」
「・・・」
そう言ってローブの男は部屋を後にする。
「・・・ロスト。お前は本当に・・・死んでしまったのか?」
そう呟くナナ。このすぐ後に流れた雫は誰にも見られなかった。
「さて、俺はお前の種族に落とされたようなものだしな。これほどまでの力を手に入れられたのはお前のおかげとも言えるんだが・・・でも相当苦しみぬいたんだ。これは個人的な八つ当たりになってしまうのだが・・・」
「グルル」
「相応の報いは受けてもらおうか?」
熊は完全にロストの事を餌だとしか見ていない。ロストも当然気付いている。
「しかし赤色の次は青色ときたか。殺気は十分に漲っているが今の俺にはそよ風だな・・・」
「グルルルルゥ」
ロストはこの熊を青色熊と名付ける。ネーミングセンスのなさは流石である。
「ガアアアアア!!」
青色熊は赤色熊と同じく、爪を伸ばして襲いかかってきた。しかしそのサイズが段違いである。赤色熊は30cm程に対して青色熊は見たところ60cm程。実に2倍の差である。
「長いなぁ。でも・・・」
「ガアアア!!」
熊はその爪を上から振り下ろし全てを押し潰そうとしてきた。恐らくここの暮らしで獲物の尽くをこの爪と剛力で押しつぶしてきたのだろう。
「遅いよなぁ」
「グルッ!?」
青色熊が爪を振り下ろした場所には何もない。ただ抉れた地面が残っているだけだった。
「ほら、すぐ背中を取られる」
「ガァ!?」
青色熊は驚愕したような叫び声を上げて後ろに手を振り回してくる。しかしロストはこの爪を驚くべき行動により回避する。
「ふぅ。あくびがでるぜ?」
振り回された爪の上に乗ったのだ。当然青色熊の振る腕の速度は青色熊の怪力により尋常ではない。しかしロストは神技に等しいバランス感覚と足に絶妙入れた力によって自然に立っているのだ。
「へぇ、こんなこともできるようになっちまったぜ。あの人は俺には才能が一つだけあるって言ってたけど・・・今の俺は何でもできそうな気がするなぁ・・・魔法はダメダメだけど」
そう自分で言って苦笑し爪の上に立ち続ける。
「そうだなぁ・・・ま、手始めにお前相手に俺の力、どこまで入るか試させてもらうぞ!!」
そう言って爪からバク宙をし飛び降りる。
「ガルァ!!」
当然青色熊は空中に浮いた状態のロストの隙を見逃す青色熊ではない。左右から両手を思いっきり振るい、そのまま押しつぶそうとする。
「おっと」
そしてロストは両足を空中で180度開脚し青色熊の振るわれた両手を止める。この時点でもはや人間ではありえない程の骨の頑丈さを持っていることが分かる。
「危なっ・・・」
言った言葉とは裏腹に顔は大層な笑顔である。
「さて、やるか」
顔を真剣な顔に戻し、180度開脚を閉じる。
「ふっ」
地面に着地したロストはそのまま青色熊の懐に潜り込む。
「それじゃ、試しの一発・・・」
そして拳を握り込みそれを・・・
「いってみようかぁ!!」
腹に思いっきり叩きつける。
バキボキィ!!
「グルァ!!」
「お?今骨の数本イったよな?」
そしてロストは拳を引き次はおもむろに体を一瞬引き・・・
「ふっ!!」
パァン!!
サマーソルトキックを見舞う。そしてその瞬間青色熊の頭が弾け飛んだ。
「うおっ」
そしてロストも驚いた。まさかここまでの脚力になっているとは思わなかったのだ。
「すげぇな・・・まさかここまで体の力が強くなってるなんて・・・もうボウガンいらないんじゃないか?」
そう思って背中のボウガンを手に取る。
「・・・まあ持っておこう。もしかすると必要になるかもしれないしな。何よりこれは大事な物だ」
そして彼は今倒した青色熊をどうしたものかと考え込む。
「今思い出したけど、ここ森のど真ん中じゃないか。よくあんな悲鳴をあげまわってる間なんの魔獣も出てこなかったな・・・」
しかしロストは気付いていない。今のロストはこの魔神の食堂の魔獣達と同等のプレッシャーを放っているのに。この辺の魔獣はこのプレッシャーを相手に迂闊に突っ込んでいく程頭が悪いわけではない。
「まあそれよりこの熊・・・」
そしてロストはこの熊の有効な処理方法を思いついた。
「・・・食べれるのかな」
そう、食料として自分の胃袋に流し込むのである。
「えっと、まずは行動するために拠点を探さないと・・・」
そして彼は全長6mはあろうかという青色熊を片手で持ち上げた。
「洞窟とか洞穴、あればいいなぁ」
そして彼は片手に熊、もう片方にボウガンという狩猟者スタイルでこの広場を後にする。
そしてロストはこの場を眺め続けていた瞳に気付けなかった。
「やっと・・・やっと見つけたよ・・・私の騎士様・・・」
「おお!なんて運のいい!」
ロストは遂に自分の拠点になりそうな洞穴を発見する。
「さてさて、ではお邪魔します」
そう言って洞穴に入って中を見回す。
「おぉ~。丁度いいや!」
洞窟の中はおよそ10m程の奥行、横にも10m程と中々な広さを持った洞穴だった。
「まあ少しデコボコしてるところは・・・」
そう言ってロストは足から土魔法を行使しながら歩き回る。
「こういう使い方はできるんだよなぁ・・・戦闘には何一つ役に立たない魔法だけど」
ロストは自分の魔法はもはや生活用と割り切って戦闘は自分の肉体で行うと割り切った。しかし生活用だけとはいえ魔法はやはり便利である。
「はぁ~・・・まあ悔やんでもしょうがない。部屋を綺麗にできる、水が飲める、食べようとした物を焼ける。うん!素晴らしい!」
軽く強がりが入っているのは内緒である。
「さて・・・美味いのかなぁ、この青色熊。美味いといいな」
そう言って土魔法で平にした床にドッサリと座り込み青色熊を解体する手筈を整える。
「えっと・・・昔屋敷で本で読んだっけな。肉になるまでとかいう本。あれを読んだ後あまりにショッキングで殺される家畜が可哀想になって暫く飯食べられなくなったんだよな・・・確か手順は頭を落として・・・もうないか。じゃあ次は・・・っていうかあれは牛とか豚とか家畜のやつだよな?本当に熊にやっていいのか?でもあれしか解体の方法なんて知らないしやってみるか・・・」
そう言ってロストは悪戦苦闘しながらも頑張って解体する。初めての解体なためとても手間取ったり、ダメにした部分もそこそこあったがそれでもある程度の肉は確保できた。
「ハァ・・・こんなことならもっと屋敷の調理場に通ってコックの調理してるとこ見ておけばよかったかなぁ・・・」
結局上手く取り除けたのは青色熊の全長の十分の一程度である。それでも300gはあるだろう。
「それより・・・あの熊の死体・・・」
ロストが部屋の隅に視線を向ければそこにあったのは・・・見るも無残な青色熊の死体である。
「あのままじゃ確実に腐るよなぁ・・・ううん・・・あ、そうだ」
そこでロストは思いつく。
「燃やせるゴミは燃やさないとね」
ボウッ!
「いや~、高火力魔法ってこんなことにも使えるんだ。便利だな~」
そう、彼が今していることは焼却処理である。
「こうすると骨まで燃え尽きる。うん、魔法ってすばらしい!」
もはや魔法が使える主婦のようなセリフである。
「さて、熊も全部灰になったところでこれからどうするかを決めないとだな・・・って言っても帰る方法も知らないし、行動あるのみ、か」
そう言ってロストは床に寝転がる。
「ま、今日のところは一先ず寝ようかな」
そう言ってロストは今頃になって襲ってきた睡魔に抵抗することなく身を委ね、目を閉じた。
「早く、早く私を迎えに来て・・・私の騎士様・・・」
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