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有無の騎士  作者: 七咲衣
魔神の食堂編
12/79

第十二話 生まれ変わる時

大変長くしてしまい申し訳ありませんでした。

ここでうわぁってなったり不快に思った方はここで切ることを推奨します。

「・・・」


ロストは今現在気を失いながらも絶賛落下中である。あまりの痛みと恐怖で失神しているのだ。白目を剥きつつも落下し続ける。その時ロストは夢を見ていた。暖かい夢なんて大層なモノじゃない、とびっきりの悪夢を見ていた。




「お前みたいなゴミクズが頑張ったところで意味なんてある訳ないだろ?」


今のルーク・ランスロットが言ってくる。


「・・・」

「あなたと結婚の約束をしたなんて、今思い出しただけでも鳥肌が立つわ・・・」


夢の中のセレナ・アーサーが言ってくる。


「・・・」

「「「ゴミクズ、剣を振るのやめたのか?まぁお前みたいなクズは何しようと無意味だもんなぁ!」」」


夢の中のパラメデス家、ケイ家、ボールス家の同期が言ってくる。


「・・・」


それからも他の12魔騎士の同期の子供達が様々な罵詈雑言を向けてくるが、ロストはただ無言を貫く。


「君の兄だなんて・・・やめてくれ、吐きそうだ」

「あなたの姉なんて・・・うっうう・・・オエエエ」

「大丈夫か!?兄ちゃん、姉ちゃん!お前のせいだろ!このクズ!」

「大丈夫ですの!?兄様!姉様!あなたのせいよ!このクズ!」


夢の中で自分の兄や姉、弟や妹が言い放ってくる。


「・・・」


それでもルークは何も言わない。それでも体は震えていた。


「お前の中に俺の血が混じっているなんて・・・最大の恥だ」


夢の中で自分の父親がそう言ってくる。それでも何も言わない。しかし足元が震えていた。そして次の言葉で必死に堪えていたモノが決壊する。


「あなたを産んだから私は殺されたのよ」

「っ!!!!」


自分を愛してくれた母。いつも必死に父の虐待から庇ってくれた母。どれだけ苦しくても、大変でも、いつも太陽みたいな暖かい笑顔を向けてくれた母。そんな母親から最大の言葉が発された。ロストは夢の中で蹲り泣き声を上げる。


「母様・・・誰か、誰か助けて!優しくして!僕を×して!!」


それでも夢の中の人達は自分に冷たい視線、罵詈雑言を飛ばしてくるだけ。ここに自分を救ってくれる人なんていない。


「誰か・・・僕を、×してよぉ・・・」


目から涙が止まらない。止めどなく涙が溢れてくる。それでもこの悪夢は終わらない・・・はずだった。


「・・・あなたは誰?」


白色の光はそう言った。


「・・・君は誰?」


ロストもそう言った。


真っ暗な世界に一つの白色が混じる。







「・・・はっ!!!」


ロストは目を覚ます。


「何か夢を見てたけど・・・思い出せないなぁ・・・っつぅ」


脇腹に痛みが走る。


「ああ、噛みちぎられたんだっけ・・・」


そう思い出したように呟き直前の事を思い出す。


「そうだ、確か崖に追い詰められて、それで・・・狼と熊が・・・その成り行きで、落とされたのか・・・」


しかし体は見た感じ大変な事になっている。横腹はどうやらあの狼の噛み付きの腐食が更に進み軽く臓物も蝕んでいるようだ。右足も左足も変な方向に曲がっている。多分骨折したのだろう。


「動くのは・・・右手と左手くらいか・・・崖から落ちて生きているけどもはや死体同然だな、これじゃあ生き残れる可能性も皆無じゃないか」


そう自嘲気味に呟くロスト。そして辺りを見回すと・・・


「ここも魔神の食堂、なのかな。でもどう見てもさっきの森よりヤバイ雰囲気しかないじゃないか・・・」


辺りは一見静かだ。それでも先程あそこまでの超体験をしたせいか何か気配にとても敏感になっているようだ。辺りは静かだが間違いなくあの熊や狼なんかより濃密な殺気を纏っている生き物がうようよいる。


「そういえば、お腹空いていたな・・・」


何故かロストは今とても落ち着いている。おかげでここに落ちる原因になった空腹感が今頃になって出てきた。そしてキョロキョロと辺りを見回すと・・・


「また木の実か・・・しかも今度も赤色」


赤色の木の実が再び実っていた。ロストは・・・


「まぁ、いいか。食べよ」


落下の衝撃なのか先ほどの恐怖体験が尾を引いているのかもはや感覚が麻痺していた。先程赤色の木の実が爆発したあの事も今のロストには関係がなかった。やはり6歳の少年にはこの場所はあまりに危険すぎた。どうやら完全にロストの精神はここで決定的に麻痺してしまったようだ。


「しかし、どうやって食べようかな・・・あ」


ロストは背中を探る。すると・・・


「あった。しかしよく無事だったな・・・」


なんと見た感じまだ矢を放つことができそうなボウガンが健在だった。矢もある。


「これであの木の実、狙おうかな。残り2発しかないけど・・・」


ピシュッ!


もはや狙いを付ける素振りを何一つ見せず、気のみの果梗を正確に射抜き落とす。そしてそのまま放った弓矢は奥の森の中に消えてしまった。


「はぁ、おいしいといいな。これが最後の晩餐になるかなぁ」


もはやロストはあまりに満身創痍だった。腐食はもはや劇的に進み、肺にまで達し、呼吸も困難、心臓も蝕まれかけ始めた。もはや体中が痺れ、神経などもさっきからブチブチと音をたてているが、腕はまだ生きている。


「ははは・・・我ながらよく生きてるよなぁ」


そう言いながら必死に這いずって赤色の木の実にたどり着いた。


「じゃあ、いただきます」


そう言って彼は赤色の実を食べる。そしてその瞬間に全身に力が入り、そして激痛が襲ってきた。


「え・・・?く・・・ぐ・・・」




「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



辺りにはロストの悲鳴が響き渡る。


「あああああああ、ああああ!!!ああああああああああああ!!!!!」


その場を転げまわる。しかし痛みは微塵も揺るがない。


「あああああああああああ!!!!」


ロストは知らない。彼が食べた赤い木の実は神の実と言われ、古来より神のみが食すと言われた果実だ。太古、まだこの実が人間界、獣界、魔界に存在していた頃に当然この実を食した者はいた。しかしその者はひとり残らず死んだ。しかしロストは死なない。この実は体の悪くなったところを全て直してしまう。この実を食した者はこの治癒能力に体がついていけず死んでいった。結局この実はあらゆる場所で食べたら死ぬ実と認識を受け、例外なく残らず捨て去られた。おそらくこの実はその捨てられた実が芽吹き木になり、また木に育ったのだろう。


「あああ!!あっああっあああ!!」


あまりの苦痛にロストは頭を叩き割る勢いで地面に叩きつける。それでも痛みは消えない。


「ああああ!!!!」


狂ったように悲鳴を上げるそしておもむろに最後の一本を自分の腹、首、眼球に突き刺した。常人なら即死するレベルの傷だ。しかしその傷すらもすぐに治癒してしまう。そして痛みは終わらない。まだ永遠と痛みを発し続ける。


「なんで!なんでなんでなんでなんだよぉ!!!終われよぉ!!ぐぎゃあああああ!!!」


あまりの痛みにもはや狂った声を上げ続ける。精神的に壊れたといってもやはりここが限度なのだろうか。


「だ、誰か・・・殺してくれ・・・」


そう願ってもここにいるのはロスト一人。魔獣達もいるにはいるがまったく出てこない。もうこのままにしたら自分は死ねるんじゃないのか?そう思いもはや死ぬのを待つと決め、静かに目を閉じる。


(もう、いい。疲れた。目を閉じて寝よう)


何もかもを投げ出す気分で倒れこむ。必死に痛みに堪えながら目を閉じた。そして思い浮かんだ。





強くなりなさい。





「!!」


ロストは飛び起きまた転げまわる。しかし先ほどの諦めは何一つない。それどころかいまや生きようとしているのか目を頑なに閉じようとしない。


「僕は・・・は、死ねない!こんなところで・・・死んでなるものか!!思い出せぇ!!あの家を!!!俺を尽く殴り、蹴りつけた12魔騎士を!!そして母様の言葉ぉ!!決めたんだろ!!ロストぉ!!あの家を、12魔騎士を必ず潰すって!!ならこんなところで・・・」


彼は再び決意する。必ず力を手に入れて12魔騎士に復讐すると。


「こんなところで、死ねないよなぁ!!」


ロストは確認する。目が見えてることを、首と腹の傷が塞がっていることを。そして直感で理解した。


「これ、傷を治し続けてるんだな・・・なら!!」


彼は懐から短剣を取り出す。


「これで、どうだぁ!!」


ロストはひたすらに腹に短剣を突き刺し始めた。


「く、いってえ、けど!!生き残る。絶対に生き残ってやる!!!」


そして短剣で突き刺した傷は瞬時に治癒されていく。


「おもしれぇ!!俺の体が持つか、先にバテるか!!」


ロストはこんな状況なのに笑みを浮かべる。名前を奪われた時から一度も浮かべたことがない程の笑顔。しかしそれはおもしろいから笑うという人間の笑顔じゃない。狂戦士バーサーカーが永遠に戦い続ける好敵手を見つけた時の笑顔だった。


「死ねるか、こんなところで死ねるかよぉ!!」


再び腹を刺し続ける。心臓、脳天、眼球。思いついた一瞬で絶命するような人間の急所を連続で刺し続ける。それでも治癒が上回る。



そんな状況が10分続いた。それでも治癒という名の戦いは終わらない。


そんな状況が1時間続いた。それでも治癒という名の戦いは終わらない。


そんな状況が12時間続いた。それでも治癒という名の戦いは終わらない。




そして1日が過ぎた頃・・・・



「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」


ロストは荒い息を吐きながら倒れ込んでいた。


「やっと・・・痛みが・・ハァ・・引いた」


ロストは生き残った。短剣は痛みが引いた瞬間にパキリと折れた。まるでロストを守り続けたように痛みがある時は一つも折れる様子を見せずにロストの体を刺し続けられた。


「はぁ・・・はぁ・・・母さん、ありがとう・・・」


もはやロストは丁寧な言葉遣いなど痛みと共に忘れてしまった。この性格こそロストの本性の片鱗なのだろう。今までよりずっとしっくりくると実感していた。


「しかし・・・」


ロストは自分の体を改めて眺める。今のロストは1日前のロストとは似ても似つかない姿をしていた。1日前は身長が精々120cm程だった。しかし今は大きく伸び今や170cm程だろうか。肉付きも虐待を受け続けたせいですぐに折れそうな枝のような体をしていたが今はその治癒能力のおかげか筋肉質な体つきになっていた。


「あの虐待で受けた傷も纏めて治癒されたのか。・・・はっあの虐待の数々のおかげもあって生き残ったなんて・・・とんだ皮肉だ」


そしてロストは知らないが神の実を食し、生き残った者はその者のもっとも力を振るえる時期に体が整えられる。それがこの急成長の原因でもある。そして・・・


「?なんだろう、この体の中に異物がある感じ・・・」


ロストは体の中に少し違和感を覚えていた。治癒の力の残りだろうか?そう思いつつも痛みは何もない。不思議に思いながらもそれを操作できそうなので少し操作してみることにする。


「ええっと・・・これを・・・こう?」


バチッ!


「うわっ!」


彼の手から光が飛ぶ。


「な、なんだ?もしかして魔力・・・?」


神の実を食し、耐え切ったものに送られる贈り物。それは魔力であって魔力ではない力、神力だ。神の実は育った土地の状態により変質する特性がある。この場所は魔神の食堂と言われる場所だ。当然魔力がとても濃い。そのため魔力に特化した実となった。


「やった・・・俺、魔力を手に入れたんだ・・・ふ、ふふふ」


ロストは歓喜する。今まで手に入れたことがなく、扱ったこともない力を手に入れられた事に歓喜する。


「ふふふ!!使いたい!魔法を俺も使ってみたい!」


ロストは魔法に関しては知識しか知らない。まず魔法を扱う上での大前提として魔法には属性がある。火、水、氷、風、雷、土、毒、麻痺、睡眠、空間、闇、光の12属性。これらの属性のエキスパートが12魔騎士なのだ。ランスロット家が最も得意で扱えるのが・・・


「水属性・・・」


彼は少し悩んだ。自分を散々痛めつけた家の得意魔法。それを扱うかどうかを。


「何を迷っている、使えるなら使うべきだ」


そう自分に言い聞かせ魔法を行使する。


「我、求めるは・・・!」


そしてこれも魔法の大前提の一つ、魔法には詠唱を必要とする・・・のだがロストは詠唱を唱え始めた瞬間に早くも水の球が浮かんでいた。


「これって・・・」


再び自分の考えが正しいかを確認する。しかし今度は無詠唱・・・で。


「・・・」


ロストがイメージしたのは水の槍。とても鋭利で貫けない物はない槍を想像する。そして実際に槍は完成する。


「やっぱり!やった!無詠唱で魔法が使えるぞ!!」


そして彼は早速その槍を手頃なとても硬そうな岩に向けて槍を投げる。


「ふっふっふ~!楽しくなってきた~!!」


ヒュン!・・・パシャッ


「・・・え?」


確かに槍は完成した。しかし投げて2m進まない内に元の水に戻ってしまった。


「う・・・嘘」


ロストは諦めずに再び水の槍を作り、次は更に神力を込めて強度を上げる。魔法は魔力を込めれば込めるほど威力と強度が上がる。つまり魔力を込めれば込める程強力になり、頑丈になるのだ。


「今度こそ!」


そして新たに作った槍で石に向かい投げる。結局また2m進まない内にまたただの水に戻ってしまった。


「・・・ダメかぁ。いや、まだ他の属性の魔法がある!」


そしてロストは諦めず他の属性魔法を試し続けた。それでも結局魔法は上手くいかず全てが肝心な所で霧散してしまう。


「ダメかぁ・・・」


結局分かった事はロストは魔法に関して決定的に向いていないという事だけだった。


「これから食料調達、どうしよう・・・」


魔法が使えればまだ魔獣を狩って食べる、という手段がとれた。しかし肝心の魔法が意味を成さないのだ。もはやロストに残った武器と言えば・・・


「やっぱりこれか・・・」


そうしてボウガンを構える。


「でも必要な放つ物がないんだよなぁ・・・」


そう、ボウガンは弓矢がないとただの鈍器にしかならない。しかし今ロストの持つ弓矢は0。最初の一本は狼の目潰しに。二本目は木の実を落とした時に使い、木の実を落としたはいいがその向こうの森の中に消えてしまった。そして最後の一本はさっきの全身治癒の時に剣と同じく折れて使い物にならなくなった。


「・・・いや、待てよ?今の俺なら・・・」


そしておもむろに岩に近づきその岩をロストは殴りつけた。


バキィ!!


「ほ、本当に出来るとは・・・」


ロストが殴りつけた岩は粉々に粉砕されていた。当然驚いたのはロスト本人である。


「まぁこれは希望が持てそう、かなぁ」


なんとか希望が見えたような気がしたロストだった。そしてそんなロストに後ろから迫ってきていた影があった。


「?」


そしてロストが振り向くとそこにいたのは・・・


「・・・俺ってお前の種族に何か縁があるのかな」

「グルアア!!」


見た目は違うが熊だった。


最後まで読んでくださってありがとうございます。

前書きにも書きましたが長くしてしまい申し訳ありませんでした。それともこれくらいでも大丈夫ですかね?そこはまだ分かりませんので感想ついでに教えていただければ幸いです。

さて、今回で主人公が生まれ変わりました。これから主人公最強タグを実現開始にする時です!しかしヒロイン登場はまだ先になるかと思われます。期待された方、大変申し訳ありません。現在誠意制作中・・・

誤字脱字がありましたらお手数ですが報告よろしくお願いします。

応援、感想、アドバイス、お待ちしています

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