第七話 探索開始
「セイヤッ!!」
気合い一閃とばかりにクロトが振るう大剣が、目の前のマンキーを4体まとめて斬りつける。それでHPが0となったのだろう、それらのマンキーたちは四散した。
「支援・・・します・・・デル・ケイトス・アテキ・レイ」
普段のおどおどとした様子からは想像できないほど正確な発音で魔法を発動させるユウカさん。その瞬間に俺たちの体から赤いエフェクトが飛び出したのを確認した。
支援魔法、攻撃補助。攻撃力と相手に与えるダメージを一定時間上昇させることのできる魔法。
魔法は、『魔法詠唱』スキルを取得し、かつ杖か札の武器を使用した時に使える使用条件の厳しいスキル・・・のようなものである。ただ、魔法の利点はあらゆる属性の敵にたいして対応でき、かつ味方を補助できるところにある。ただし、その代わりに魔法使用者は一定時間杖か札しか装備できないと言う制限がある。実のところ、杖や札は盾や剣のように武器とかとして使えない為、魔法使用者は防御力が落ちるのだが、そこで前衛の仕事がある。つまり、敵を通さなければ良いのだ。攻撃をして、補助や回復を受けつつ戦う。そんなパーティーができればよほど戦力差がないかぎりは対応できるはずである。
「スラッシュ!!」
そして、補助魔法により少しヘイトを集めたユウカさんに二体のマンキーが迫るが、その前に姉貴がスラッシュで二体を退かせる。だが、その後ろから続々とマンキーがやってくるためかなり面倒だ。
「インパクト・スライス!!」
横薙ぎ一閃、俺の片手剣による一撃はその迫っていたマンキーたちを葬る。なんども引かせてその度にこちらに向かってくるだけなのでHPの回復はないのだ。二三発ウェポンアーツをあてればHPを削り切るマンキーは普通なら手こずることは無いが、今回は数が多かった。その理由は・・・
「クソッ、やはりアイツの所為か!?」
俺の視線の先にいる、日本猿サイズのマンキーを二周り大きくし金色の毛を持つ『ボス・マンキー』と言う名のモンスターにあるんだろうと俺は当たりを付けた。そのモンスターは『ウホッ!!』とか『キーッ!!』と声を上げながらマンキーたちに指示してるように見えたからだ。
「クロト!」
「なんだ、レン?」
「ボス・マンキーを倒せばいいんだよな!」
「ああ、そうだ」
「だけど遠いな」
「ああ。ここには遠距離攻撃を使える奴がいないからな。・・・一応ユウカが使えないことも無いがその分補助が無くなるからとどめを刺す前に全滅するかもしれない」
「ということは近づいて斬るくらいしか・・・」
「道はないだろうな・・・」
「俺が行く」
最後に行くことを宣言するとクロトはわずかに逡巡して
「頼んだ」
と言った。
許可は貰ったからあとは突き進むのみ。それも文字通り。
「ミーティア・ピアーズ!!」
瞬間、俺はさっきいたところから5m程離れている場所にいた。先までいた場所と今いる場所の直線上の間にいる敵は全てダメージを負って。
そして、俺の目の前にはボス・マンキーがいた。
「ギィィィィ!?」
「砕けろっ、ストライク!!」
いきなり俺が目の前にあらわれ驚いたかの様な様子で慌てるボス・マンキーの頭に一撃を加える。頭への一撃は大ダメージになるのでそのままボス・マンキーは一撃で死に絶えて四散した。
その後、のこったマンキーたちを狩れるだけ狩り、俺と姉貴がレベルアップした所で、休憩を挟むこととなった。
「そういえば、クロト、ユウカさんとフレンドになってなかったろ?」
「そういえば、そうだな。頼む」
「おぅ」
心持ちリラックスして過ごしている俺らだったが警戒は怠っていない。『索敵』スキルをもっているクロトと俺はお互いに違う方向へアンテナをのばしながらそういう雑談を交わしていた。
そして、ユウカさんとフレンド登録を交わした俺は驚きに支配された。
「うぇぇぇぇ!?16ぅぅぅぅぅ!?」
俺よりレベルが高かった。ちなみに俺はさきほどようやく13レベルとなった所である。
「あー、まあ俺と一緒にダンジョン回ってたからな」
「・・・でも兄は・・・夜にこっそり・・・ダンジョン行ってる」
「バレてたのかよ・・・・」
「・・・お見通し」
そこでニコっとしたユウカさんに姉貴は「なにこの可愛い生き物」って言いたそうな顔をしていた。ただ、本当に可愛いので俺は敢えて姉貴を無視したが。
と、そのとき俺の脳裏に『モンスター接近中』の警告音声が流れた。『索敵』スキルによる効果である。
「クロトなんか来た」
「何体で何が来た?」
「んー」
『索敵』スキルを使用し、相手の情報を確認。これがもし俺より格上の敵ならば検索不能なのだが幸いにも一度戦ったことのあるやつなのですぐに検索結果が出た。
「キング・マンキー一名様」
「・・・まあ、経験値旨いからやっとくか」
そして、キング・マンキーが俺たちの元にあらわれるころには俺たちはすでに準備を終えていた。
「「インパクト・スライス!!」」
「デッド・インパクト!!」
「テル・アテキ・アドント」
片手剣から走る衝撃波×2と、大剣から走る衝撃波、そして炎の玉による攻撃を受けて、あっさりと沈黙するキング・マンキー。ほんのこの前死の危険に晒してくれた相手だったのにあっさり倒せるようになる位にはレベル上げは順調に進んでいた。
「・・・まあ、俺くらいのレベルになると微々たる量の経験値だが、これでもマンキーたちを倒すよりお得なんだよな・・・」
そう一人ごちるクロトに強くなり過ぎだろ、と俺は白目を向ける。
そんな一幕を繰り広げながら、先に進むと少女が一人で寝ていた。スヤスヤと。
「こんなところで寝るなんて結構度胸あるわね、この娘」
「まあ、姉貴も寝れるじゃねえか」
「クロトが強いし、あんたらが『索敵』スキルを持ってるからでしょう」
「・・・でも、この娘危険。・・・起こした方が・・・いいよ?」
「そうだな。幾ら強くてもダンジョンには危険が一杯だからな」
といったところでクロトはその娘をじっと見る。
「しっかし、よく寝てるなあ」
「・・・ん、起きて・・・」
今、ユウカさんが揺り動かして起こしてる彼女は、真っ白な肌を持ち、金髪でスラッと伸びた手足と張りのあるプロポーションをしていた。・・・しかし、なんか揺り動かして起こそうとしているユウカさんが小動物みたいだな。
「ん・・・、んん・・・」
その時彼女はそう声を漏らしてゆっくり起き上がり、・・・胸の所へ目が行きかけた俺と目が合った。
「・・・えーと、こんにちわ?」
「きゃあああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
彼女の悲鳴がダンジョン中に響き渡った。




