第3話 初めてのクエスト
「・・・ん、あれ・・・?」
いつの間に寝てしまったのだろうとベッドの上で欠伸を一つしてから、部屋を見渡し、ようやく俺は気付いた。あれ、ここはどこだ?、と。
待て、待つんだ俺。寝る前の記憶を思い出してみやがれ、そうさゆっくりとだ。ゆっくりと。・・・そうそう、そうだ、そうだぞ。よおし、よっし、さて・・・俺の名前ってなんだっけ?
とか、冗談言ってる場合じゃないか。監禁されている場合だってあるしな。・・・その割には部屋の窓には開閉できないようにロックとか打ち付けられたりとかはしていないが・・・。
とか、巫山戯たりしていると視界の隅にウィンドウがあるのが見えた。ん?ウィンドウ?
「あぁ、そっか。俺はゲームになった世界にいるんだった」
そこで俺は昨日のチュートリアルのことなどを思い出した。
とりあえず、ウィンドウを見てみると、
『メールが届きました』
と表示してあった。そのウィンドウにタッチしてみると俺の目の前に『メールボックス』なるウィンドウが開く。届いたメールは一件。『僕からのプレゼントだ』。送り主は何とゲームマスター。
その送り主の名前を見た時点で俺はすぐさまそのメールを開く。
「『NEW LIFE GAME』へようこそ。このメールを通して君にプレゼントがある。この世界の通貨3000Gと今君が寝ている宿の宿泊券だ。この券を一枚使用するごとに一泊できる。それが、七枚だ。因に宿代は1000Gだ。この1000Gと宿泊券には三食分含まれている。有意義に使ってくれ。
金を稼ぐ方法だが、これはゲームであるので他のプレイヤーとの取引や、ダンジョンなどで手に入れたアイテムを売る、もしくはそのダンジョンの宝箱から拾う、NPCの抱える依頼を解決することで金銭を得る等がある。僕としてのオススメはギルドでのクエストを受けることだが、詳しいことはギルドの受付嬢にでも聞いてくれたまえ。では、自由にこの世界を楽しみたまえ」
そこまで読み終えてメールボックスを閉じると、チャリンという音が聞こえた。メインメニューを開いてみると左下の所に3000Gという表示がしてあった。・・・ふむ、お金を手に入れたらチャリンという音が鳴るのか、と納得しつつメインメニューを閉じた。
とりあえず、一週間の宿は確保できているがそれ以上の場合、金がないなら野宿だろうな、と思って金を稼ぎにクエストでも探しにいこうと部屋を出ようとすると・・・
「おっと、お客さん。朝ご飯が出来ていますよ」
ドアの前で男と会った。RPGでよくあるような服を来た恰幅の良い男がいた。どうやら、この宿の経営者らしい。従業員かも?まあ、どちらにせよNPCであるのには変わりないんだろうが。だが、俺が急にドアを開けて出た時に見た男の顔は驚愕の面持ちだった。・・・NPCがこんな反応するのか、と首を傾げた。
「では、一階の食堂へ行きましょうか」
と言った男の顔を見た時、今度は俺は驚愕した。男の頭の上には黄色いハテナマークが浮かんでいたのだった。これは、もしや・・・。
「ご主人、何かお悩み事でも?」
そう俺は言ってみた。すると、男は再び驚いた顔をして
「分かりますかね?」
と聞いて来た。恐らく、このハテナマークこそがクエストの兆候だろう。そして、続きを促してみると、男はため息をつきつつ言った。
「お客さんにこんな顔を見せてはいけないんですがね・・・。私の娘が風邪にかかってしまって・・・」
数十分後、俺は先程の宿がある町『カタール』のすぐ近くにある『カタールの森』というダンジョンに来ていた。なんでもこの森にある『カゼナオール』という薬草が風邪薬の材料らしい。じゃあ、町で買えば良いじゃねえかという意見もありそうだが、そんな上手く行かないもんだ。町の道具屋に行くとちょうど風邪薬が売り切れだったらしく、ここを紹介されたのだ。
ちなみに、カゼナオールはハートの形をしてあるらしく分かりやすいとのことだ。そして、俺は順調に森の奥へ進むと、そのカゼナオールがあった。
「・・・おっと、あったあった。」
そして、屈んで取ろうとしたとき、背中に何かがぶつかる衝撃を受けた。
「うおっ!」
体育の授業で習った受け身の要領で受け身を取りつつ、後ろを振り返る。すると、そこには・・・
「おうおう、待ってたぜ。ある意味RPGの主役さんよ」
スライムがいた。視界右上に表示された文字をみるとそこには『スライム Lv.1』と書いてあった。次に左上に表示されている俺のHPを確認すると108/115だった。スライムの攻撃は7程度か。ククク・・・恐るるに足らんわ。とか調子に乗ろうとすると、後ろから再び体当たりを受けた。
ドンッ!再び7減ったまさか、と思って後ろを見ると『スライム Lv.1』が三体いた。
・・・待て、貴様ら。俺を殺す気か。
とりあえず、最初の一体に狙いを絞ることにした。
「ブロンズソード!」
俺の愛用の(使い始めたばかりだが)片手剣を召還し、俺の必殺技を使う。
「ストライク!」
一刀両断。スライムが真ん中からぶちゃりとつぶれて無数のポリゴンとなって消えた。
「もういっちょ、ストライク!」
振り返り様一撃を加え二匹を巻き込み倒す。さぁ、残すは一体。
「さぁっ、行くぜ、ストライク!」
勢い良く振り下ろしたブロンズソードにシステムのアシストが加わり攻撃力の上がった、一撃。その一撃はしかし、スライムを両断することは無かった。
「な、なにっ!?」
弾かれてしまい隙が出来た俺に、反撃とばかりに体当たりをするスライム。しかし、その一撃は先程のものよりも強い衝撃を備えていた。
「ぐ・・・ぬぅっ・・・」
右上のモンスター名を確認すると『ク・スライム Lv.1』。どうやらスライムの上位種のようだが・・・、とモンスター頭上に表示されているHPゲージを確認すると残りは3割程度。そして、俺のHPは91/115。力を振り絞り
「ストライク!」
剣を振り、命中する。ようやく、そのスライムもポリゴンとなって消えた。
その時、テッテレーという音が聞こえてレベルアップに気付いた。
ささっと、ステータス設定を開き防御力に1ポイント、HPに1ポイント、筋力に1ポイントを振り閉じる。と、そこでスキル設定と言うメニューが気になりそこをタッチする。すると、樹形図のような図が現れた。その樹形図の天辺には『名称呼出』というスキル名があった。その横には2つのスキルが繋がっていた。どうやら、スキルを解放していくうちにさらに使いやすいスキルを解放していく仕組みなのだろう。
さて、次に選べる2つのスキルの内のは『暗闇態勢』だった。スキルの説明によるとどうやら洞窟などの暗闇中の明るさに影響するスキルのようだ。アクティブスキルで、レベルもある。レベルがマックスになると暗闇が真昼並みに明るくなるのだそうだ。便利だな。
もう一つは、『ピンチヒール』と言ってHPが30%以下になった時確率で全HPの30%を回復してくれるらしい。死ぬ危険が遠のくスキルだ。
とりあえず、迷った俺はどちらのスキルにも1ポイントずつ振っておくことにした。振ったあとに悠々自適に宿へと帰っていった。
「すみません、娘の為に。お礼に、あと一週間の宿代と食事代を無料にしましょう」
と、クエストのクリア目標の『カゼナオール』を受け取った主人は言った。お金に換算するとなんと1000G×7=7000G。これが破格なのか普通なのかはまだ分からないが、一回しかクエストを受けたことのない俺には分からなかったが。だが、そんなことよりもショックな出来事が襲った。
ピロリンという音とともに『メールが届きました』という表示のあるウィンドウが出現。即座にタッチしメールボックスを開くと送り主は『NLG運営』と書いてあった。NLGは恐らくNEW LIFE GAMEの略だろう。なんのメールだと不思議に思って開けたメールに書かれた文字を見て俺は時間が止まったかのような錯覚を覚えた。
『ご家族の方を発見しました』
と、そのメールには書かれていた。
どうも、こんにちは。ようやくゲーム本編の始まりですね。
来週は<ガイア>列伝を更新します。よろしくお願いします。




