第九話 ゴリラの皇帝
五人が入ると同時に、その暗いエリアのそこかしこで灯がともった。鬼火かと思ったら、そうではなくちゃんとスタンドが用意されていてそこかしこに設置されているようだ。
「広いな・・・うん?」
そしてしばらく進むと、扉はひとりでに閉まった。閉じ込められたと思い手をかけると・・・普通に開いた。
「なんだ、出られないって訳じゃないのね」
「いざという時は退却だな」
「・・・生存・・・できそう・・・」
「訳も分からず死ぬのは嫌だからな・・・」
「ええ、こんなところで死んでたまりますか」
それれ五人が感想を言って周りを見渡す。どうやら、ここは・・・
「ん〜、四角い部屋?」
「みたいだな。壁と壁がとても離れてるが・・・」
「まぁ、ボス戦(仮)だしな。そりゃあ、多くの人間が入れるようになっているんだろうよ」
と、そのとき、部屋の奥にひときわ大きな光がともった。それはまるで太陽のように明るく光り、少し薄暗かった部屋を完全に明るくした。
「・・・まわりの明かり必要だったのか?」
「本当、疑問ですわね」
と、そのとき光の中から手が飛び出す。その腕はとても大きく、そして黒い剛毛に覆われていた。
「ボスのお出ましってやつか」
「・・・注意・・・する・・・」
そして、その光からこぼれ落ちるかのように生まれて来たのは・・・全長5mは越す、大ゴリラだった。
「「「「ってゴリラかよ(なの)(なんですの)!!!!!!!!!」」」」
ユウカさんを除く四人の声が被った。というか、でかい。
「グォォォッォォォォォォォォォ!!!!」
その俺らの叫びに反応したのかゴリラはドンドンドンとテンポよくドラミングをする。そのドラミングの音が響くたびに本能の警告が走る。・・・すなわち、ここから逃げろ、と。
「はっ、これはあれだな。ゲームでよくある『威圧』とかそんな感じか」
「動き阻害効果がありそうだ」
「近すぎたらダメージを受けそうね」
そう漏らし合った時にようやく、相手の名前が視界右上に表示された。
『エンペラー・ゴリラ Lv.1』と。
「「「って、コングじゃねえの(か)!?!?!?!?」」」
俺と姉貴とクロトの叫びが響く。実に。その位ここは広いのだ。
「まぁ、いいぜ。さっさとやろうか。一撃目、行くぞ!!」
「テル・アテキ・アドント」
ユウカさんが短く呪文を唱えたとき、彼女の杖から炎の玉が飛び出し、エンペラー・ゴリラに当たる。すると、エンペラー・ゴリラはもがいたが、その表面には火傷らしい火傷も無かった。モンスターの頭上あたりに表示されてる特大のHPゲージは特に動いてないようにも思える。
「あれ、絶対キング・マンキーの十倍くらい強いだろ」
「Lv.1のクセに強すぎだろ」
思わず半眼になって愚痴り合うクロトと俺。このゲームは少々ゲームバランスがおかしいのではないのか?
そして、そのとき俺とクロトが隙を見せたとでも思ったのかエンペラー・ゴリラはこちらへ向かって突進してくる。狙いは・・・ユウカさん!!!
「アカ!一撃ずつぶち込むぞ!!」
「ええ!了解しましたわ!!強力な一撃をお見舞いして差し上げますわ!!!」
ユウカさんを守るように前に出るクロトとアカの二人はそれぞれの得物を構えて、近づいてきたエンペラー・ゴリラにそれぞれウェポンアーツを放つ!!
「ユウカには指一本触れさせねえ!!デッド・インパクト!!」
「この先は通しませんわ!!テンショウ・カラキリ!!」
クロトの大剣から凶悪な威力の剣風が、アカの刀からは鋭い剣風がそれぞれエンペラー・ゴリラを斬りつける。
「・・・グォォ!?」
それを受けて僅かながらも後退するエンペラー・ゴリラ。切られている所にはちゃんと切り傷が掘られていた。
「よしっ、十分の一くらい削れたな!!」
そう嬉々として言うクロトだが、そのHPゲージは少し様子がおかしかった。今まで見た事のあるそれとは少し異なっていたのだ。具体的に言うと、さっき削った十分の一くらいのうしろに黄色い同じ太さのバーがあることだが・・・
「クロトっ、そいつ多分HPが何周分かあるぞ!!」
「なっ!?」
そう聞いた瞬間クロトも再度HPゲージに視線をやって俺の言葉を確認する。その顔は先程までと違い少しだけ険しかった。
通常、プレイヤーのHPもモンスターのGPバーも、50%以上ある時は緑色で、25%以上の時は黄色、そして25%以下の時は赤で表示される。そして、コイツのHPバーは現在緑で、そのバーの後ろに黄色が表示されているという事は・・・
「・・・三周分・・・っていうのか?」
俺は若干引きつった笑みを浮かべながらそうエンペラー・ゴリラを見る。当然エンペラー・ゴリラは答えてくれない。
しかし、それも当然か、と思い直す。とてつもなく広い部屋、とても大きいドアに、とても大きいボス。どう見ても大人数で挑むべき相手だ。なら、そのHPが雑魚のそれの何百倍でも不思議ではない。そう考えると不思議と頭が冷却される。
・・・そう、さっきクロトとアカの攻撃で緑ゲージの十分の一は削れたのだ。つまり、こいつをこのメンバーで倒す事は別に不可能じゃない。気になるのは敵の防御力だが、そこはおそらくガードでもすれば防げるくらいだろう。
このふざけたゲーム世界を作り出した輩は『ゲームマスター』を名乗ったのだ。幾ら何でも攻撃一発喰らうだけで即死するような攻撃を組み込んでいるはずが無い。・・・少なくともこんな序盤に。
しかも、だ。今回戦うのはプレイヤーの中でもトップ層を飛び抜けて突き放す二人がいる。レベルの差は大きい。たとえ、5しか離れなくとも、勝率はガラリと変わってしまう。そして、この二人は正直に言うと、この世界における平均レベルの何倍ものレベルである。正直、平均レベルのプレイヤーたちが何百人とこの二人に押し寄せてこようと、逆に帰り討ちにされるやもしれない。
つまり、ゲームマスターはこの状況を予想できなかったのかもしれない。平均レベルの何倍ものレベルをもつ人間が出てしまう事を。つまり、この戦い勝てるかもしれない。
「はっ、どの位強いかなんて気にしないぜ!これに勝って俺らはこの世界における希望の種を広めようじゃねえか!このボスに勝つ事で俺らは一歩、クリアに近づくはずだ!勝とうじゃねえか!!」
「希望・・ですか・・・。良い言葉ですわね!わたくし、俄然やる気が出てきましたわ!」
前線の二人は俺の話を聞いてそう言った。・・・やる気だ。
「んじゃ、さっさと終わらすぜ!!!」
そう言った瞬間、クロトの姿は消える・・・いや、その姿は空中にあった。一気に飛び上がったため消えたように見えたのだ。そして、そのままエンペラー・ゴリラの肩にのり、再度ジャンプ。遥か上空へ。
「フォーリング・インパクト!!!」
そして、上空でウェポンアーツを発動させる・・・、高度が高ければ高い程威力が増すウェポンアーツを。
「リーゼ・クルーシ・テンゼン・クレイシア・ロシキテナンテ・アクベリ・マシノリート・レルテ・アテキ・アドント」
続いてユウカさんが長い詠唱をする。これは・・・長さ的に中威力の魔法だろう。
魔法には、低威力魔法、中威力魔法、高威力魔法の三つがあり、威力が高ければ高い程与えるダメージも高くなるのだ。
そして、ユウカさんの頭上に魔法人が形成されそこからレーザーが飛び出しエンペラー・ゴリラの腕を直撃する。
「行きますわよ、テンショウ・クウハ!!!」
腕を攻撃されて、怒るゴリラに、いつの間にそこにいたのか刀を携えたアカがいて目に見えない速度で刀を抜き放つ。瞬間、エンペラー・ゴリラはまるでアッパーを喰らったかのように仰け反った。
「くぅぅぅぅらぁぁぁぁええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
そこへ、落下中だったクロトが眉間に一発加える。グングンと減るHP。いつの間にか緑色を切ろうとしていた。
「行くよ、レン!」
「おう、姉貴!!」
そして、地面に倒れ臥そうとするエンペラー・ゴリラの前に俺と姉貴が立ちはだかる。
「喰らえ、ジャイアント・キラー!!!」
「くたばりなさい、ハイインパクト!!」
そのゴリラの胸元へ俺のはなつ黒い剣風と姉貴の剣が吸い込まれる。その瞬間HPは緑色を削り切って、黄色へと突入を果たした。
「グオォォォォッォォォォォォォォォ!!!」
その瞬間、エンペラー・ゴリラは雄叫びを上げる。あまりに近くにいた、俺と姉貴は吹き飛ばされる。そして、何を思ったかエンペラー・ゴリラはその場で跳躍する。
そして、かなりの高度を上げた後、一気に落下を始めたとき、すでに俺は走り出していた。
先程、俺と姉貴が吹き飛ばされたとき、アカはガードを成功していたのだが、成功していたが故に吹き飛ばされておらず、その近くにエンペラー・ゴリラは着地しようとしているのだった。
「ちっ、見誤ったか!!」
そう、緑色ゲージから黄色ゲージへの切り替え、そういった、HPが一定量減ったりしたタイミングでボスモンスターが何かしらの特殊なアクションを起こすのは当たり前な事である。
それをすっかり失念していた俺は容赦なく一撃を加えてしまったのだ。普通なら様子見で遠くから攻撃を与えるべきだというのに。
「アイアン・ガード!!!」
間一髪、間に合った俺はアカを後ろへ投げ飛ばした後に、初心者御用達の鉄の盾『アイアン・ガード』を構える。そして、
エンペラー・ゴリラの着地の衝撃が俺を襲い、俺は吹き飛ばされてそのHPは・・・・
先週は更新できませんでした!!最近色々忙しくって・・・。そろそろ受験も近いので、更新速度は遅くなるとおもいますが、一ヶ月一回の更新はやる予定です(最低でも)。今後ともよろしくお願いします!