18
さて授業中から休み時間まで気が付けば注がれていれる右斜め前と左斜め後ろからの死線、もとい視線をかいくぐりながら迎えたお昼休みを、俺は屋上で一人菓子パンを食べながら過ごしている。
この学校は屋上を開放しているから他にもお食事中の生徒はいるけど、大体は学食か自分の教室で済ませる人ばかりなのでさほど人は多くない。ただひとつ困るのは、この屋上を使用する人はカップルが大半を占めているということ。つまり男子で一人な俺は完全に場違いなわけで、あいにく俺はそういった空気を感じて感じぬ振りできない小心者なわけで、物陰に隠れてコソコソ菓子パンをいただいているわけなのだ。
「なんか……みじめだ」
日陰でじめじめした空気がより一層みじめさを増す。
しかしここで挫けてクラスに戻ったならまた朝に繰り返しだ。
そうさ! 俺は同じ失敗を繰り返さないのさ!
自分を励ましながら何とか昼休み一人屋上で乗り切った俺は、五時間目のチャイムが鳴り終わる寸前に自分の席に舞い戻った。
「どこ行ってたんだよ? せっかく一緒に飯食ってやろうと思ったのに。……あ、あと、あの二人の探してたぜ」
相変わらずニヤニヤしやがって、憎たらしいあぁ憎たらしい。
「ちょいやっ」
「あでっ!」
五十五突目。残り四十五突。
でもやっぱり探されていたか……屋上に逃げたのは正解だったな。
「こらー席に着けー」
今朝と全く同じことを言って入って来たのはこれまた今朝と同じ成瀬先生だ。つまり五時間目は日本史か。
「おや?」
教科書を取り出そうとして机に突っ込んだ手が掴んだのは教科書ではなく、二つ折れになったノートの切れ端だった。
「しかも二枚……」
なぜだろう……なんだか嫌な予感がする。『二』という言葉には過剰に反応してしまうようになっている自分がいる。まさかな、昨日の今日だぜ? そう何回も同じことが起きるわけないじゃんか。
そう心の中で呟きながら紙を広げる。
そこにはこう書かれていた。
『本日の放課後、屋上でお待ちしております』
『今日の放課後、屋上で待つ』
一枚は教科書のような字で。
一枚はずいぶん達筆な字で。
……お腹、痛くなってきた。