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……………………………………………………はっ!?
寝すぎた。
この部屋の暗さからいってもうどっぷり夜なんだろう。家の中にも、彼女の姿はなかった。
いや、もしかしたら今日体験したことはすべて夢だったのかもしれない。そういえば少し現実味がなかった気がするし。
「何だ、夢か」
ホッとしつつ少し残念なような……複雑。思春期全力疾走している男の子の心情なんて、もはや自分にすら分かんないものだ。
しかしよく寝たからかなぁ~不思議なくらい体の調子がいいや。それに気持ちが良いくらいお腹も空いている。
「よっしゃ~張り切って晩飯作りますか」
台所のほうに向かった俺の足が、急に、その前進をやめた。
正確には、「前進するのを止めろ!」と、脳から両足へと指令が下った。あそこからは危険な香りがプンプンしていた。
ちなみにこれは比喩表現でも何でもなく、本当に匂っていた。いや、「匂い」なんて生易しいもので表現することすらはばかられるような、でもそれ以外に表現することもできない。とにかくそんなものが台所に渦巻いていた。
そしてその匂いは、俺の眠っていた記憶、というか、自分で無理やり眠らせて置いた記憶を呼び覚ます。
「……あれは、現実だったのか……」
後ずさる俺の視界の端が何かをとらえた。振り向くとそこにはテーブルがあり、その上には紙切れが一枚、そしてそこには教科書のような字で書かれた文字があった。
『起こしたら悪いと思ったのでこのまま帰ります。鍵は大家の方に閉めてもらうよう頼んでおきますので。
追伸、お粥はまだお台所のお鍋の中にありますので、よろしければお召し上がりになって下さい』
俺は絶叫した。