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かりん党  作者: 相上音
前編 告白
10/44

10

 我が家の間取りは、玄関からまっすぐ廊下が続いていて、右側にはトイレ、洗面所、台所という順で並び、左側は居間になっている。廊下の突き当たりには部屋があり、両親がそこを使っていた。そこを左に折れると右側と正面にまた部屋がある。右側にあるのが、妹が使っていた部屋で、突き当たりにあるが、俺が使っている部屋。つまり我が家を上から見るとアルファベットの『L』の字になっている。

 平屋なので二階はないが、妹が小学校にあがる頃、それまでは今ある部屋を兄妹二人で使っていたのだが、それでは妹が何かと不便だろうからと新たに俺の部屋を増築することとなった。その際ついでに屋根の上にバルコニーを作り、俺の部屋からそのバルコニーに行くための階段を設けた。おかげで俺のプライバシーなど一切なく、ある人は洗濯物を干しに、またある人は星を見るために、またある人は酒盛りをするために、昼夜問わず皆各々の目的とタイミングで勝手に俺の部屋に入り、階段を上っていく。別に入るなとは言わないし、階段は俺の部屋にあるのだからあの場所は俺のものだ――なんて独占欲に駆られるようなこともないが、そう当然のごとく遠慮も断りも気遣いもなしにづかづかと入られたんじゃたまったもんじゃなかった。でもまぁ、バルコニー自体は嫌いじゃない。

 これが今の我が家だが、少し前とは色々変わっている。元々必要最低限のもの以外は排除したがる母が実権を握っていたので、家の中はいつだって寒々とはしていたが、今のそれは比較にならない。なんたって四人もいた人間が今は一人しかいないのだ。この変化は予想以上に顕著に表れる。部屋も、俺の部屋以外の部屋には何もない、居間も丸いテーブルとテレビ、テレビ台が置いてあるくらいで電話機すらない。いつだって誰かしら家にいて、その人肌で温められていた空気も、今は誰にも温められることなく俺の体にまとわりつく。

 寂しくない、と言えば嘘になるかも知れなくもない。言いたくはない。ただ、慣れていないと言うのは本当だ。これから慣れるのか慣れないのかで、認めるかどうかを判断しようと思う

 ……なんてね! 男子高校生の一人暮らし……つまりはやりたい放題さ!

 ――なんてことはもちろん、ない。俺はいたって健全かつ常識的な生活を送っている。家も、自分で言うのもあれだが、整理整頓清潔清楚にしていないと落ち着かない母上の血を色濃く受け継いでいるためか、かなりきれいにしている。毎日掃除も欠かさない。男子としては少し珍しい、というか若干引かれる性癖なので普段は披露するのは気が引けるが、このシチュエーションならむしろ好都合。突然の美少女にもの来訪にもあわてることなく紳士的な対応すら出来てしまう余裕すらある始末だ。

 まぁあくまでそれくらいという例えなわけで、実際の俺には紳士的おもてなしの知識など皆無であり、またもしそんなものがあったとしても今のこの状況で発揮するのは至難の業ではなかろうか。

 「とりあえず、どこか適当なところに座って下さい」

 さっきから控え目に部屋を見渡している彼女に声をかけた。あんまり見られるとなんだか恥ずかしいからね。

 「あ、すいません」

 と、彼女はそのまま床に正座、そんな姿を見たら俺までそうしなくちゃいけない気がして、テーブルをはさんで彼女の正面に正座して座ることにした。

 すると、そんな俺の姿を見て彼女があわてて言った。

 「そんな、かしこまること無いですよ」

 「いやいや、そーゆうわけにも……」

 ……ホント、なんで自分の家でかしこまってんだ俺? てゆーかそれ普通俺のセリフでしょ。

 いやもしかしたら今のは彼女のボケだったのか? つっこむところだったのか? しかし、見る限りではボケた様子はないみたいだ。ふぅ、よかった。

 ……落ち着かねー。

 この様子だと今日はだいぶ疲労を貯蓄してしまいそうな気がする。つい昨日の貯蓄分の返済がまだだいぶ残ってるってのに。まるで悪徳金貸しに引っ掛かってしまったようじゃないか。

 「あの……」

 「ふぇ?」

 やべっ、考え事してたら間抜けな返事しちゃった。でも彼女はそんなの気にしていないみたいだった。というか、なんか泣きそうじゃね?

 「昨日は、本当にごめんなさい」

 そう言って頭を下げた彼女を、俺はそっと優しく包み……込めるほどの度胸は残念ながらございませんでした。

 「いやいやいやいや、君は何も悪くないよ、俺が勝手にしたことだし」

 何をしたか、なんてことはあえて言う必要はない。それは向こうだって知っていることだし、何より情けなくて言いたくない。

 「結果はそうかもしれませんが、そもそもの原因を作ったのは私です。私に責任があります」

 「いやいやいやいや、そんなことありませんって」

 「あります!」

 参った、意外と頑固だなこの子。一体どうしたものやら。

 しかしその時、彼女が急に頭をあげたので、まさに文字通りビクッとしてしまった。

 「ですから、今日はそのお詫びをさせて下さい」

 その目はまっすぐこちらを見ている。その話し方には、激しさはないものの、有無を言わさぬ迫力……的なものがあるような気がした。

 「お、お詫びって?」

 まさか……そんな、待て待て待てまだ心の準備が……いやいやいや何考えてるんだ俺、そんなわけあるかっ――と思う半面そんなこともあるかもしれないなんて期待をぬぐい去れません。自分、高校生ですから。

 「お友達に聞いたのですが、一人暮らしをなさっているんですよね? まだ高校生なのにすごいと思います。しかしまだ傷の癒えない体ではいろいろと不便があると思いましたので、せめて食事でもお作りしようかと」

 「あ、食事ですか」

 ……は? 別にがっかりなんかしてねーよ? バッチリ予想通りだよ? てゆーか、なんで俺が一人暮らししてるの知ってるんだ? そもそもなんで俺の家の場所が分かったんだ? これはしっかり問いたださなくては。

 「あの――」

 「やっぱり御迷惑でしたか……」

 「いやいやいやいやそんなこと全くこれっぽっちもありませんよ!いや~うれしいなぁ~」

 もう完全にあっちのペースだなこりゃ。まぁせっかくこんな美少女が俺のためなんかに食事を作ってくれるって言ってるんだから、ごちそうになっても罰は当たらないだろ。むしろごちそうにならない方が罰に当たりそうな気がする。

 「それじゃ、お願いします」

 「はい! それではお台所をお借りしますね」

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