結末の結末 【聖魔光闇様主催リレー小説 第四話】
この小説は、聖魔光闇先生のリレー小説第3弾となります。こちらのリレー小説の設定事項はこちらになります。
(※【第一話】よりコピー)
★全20話(一応(出来るだけこの間に完結したいと思っています))。
★一話1000文字以上。
★登場人物の制限なし。
★重複執筆可。
★ジャンル:ファンタジー。
★魔法等の概念の設定はお任せ。
★執筆予約制度再開(執筆著者様は、活動報告に掲示させていただきます)。
★執筆著者様は、執筆前にご連絡ください。
★執筆投稿後、必ず御一報ください。
★あらすじは、前話までの要約を明記。
★全ての物語を聖魔光闇がお気に入り登録します。
★後書きに、執筆著者様募集広告を添付。
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【結末の結末 第四話】 今ココ
【結末の結末 第五話】 http://ncode.syosetu.com/n9514bt/
現在、第六話の執筆者様を募集中です。
迫り来る鋭利な爪を必死にかわす。
しかし相手は魔王の六幹部の一人。ミューグレンが衛兵としてかなりの訓練を積んでいたとしても躱しきれるものではなかった。そしてついに人の動きでは絶対に避けられない致命的な攻撃がミューグレンをとらえる。
(避けられない! ネーネ! 防御魔法かなんかかけてくれ!!)
視界に一瞬映ったネーネに目で訴える。それを読んでいたのか、ネーネは絶妙のタイミングで詠唱を終えていた。
「牛よりも猫よりも鳥よりも音よりも速く舞え! <<ソニック>>!!」
「ぐええっ!」
ミューグレンの身体が淡い光に包まれ、人間の限界をあまり考えていない速度で動き出す。ミューグレンの喉からは蛙がつぶれたような声がもれた。人の動きでは絶対に避けられなかったはずのグレイストの攻撃は、ミューグレンが半強制的に人を超えた動きをすることでどうにか回避された。
「痛っ! あだだだだだっ!! おい! ネーネ! そこは防御魔法だろ!? 俺は防御魔法を頼んだつもりだったのに!」
「こんな急造パーティーでそんな細かいこと伝わるわけないじゃない! それにね。こういうときは守ったら負けなのよ。勝利ってのはねえ、前に前に前に出て掴むものなのよ!」
反動で身体中が悲鳴をあげているミューグレンの抗議を、ネーネは無駄に漢らしい台詞であしらった。
実際、ネーネの判断が正解だったかもしれない。今の攻撃は防御力を上げた程度でしのげる威力ではなかった。くらっていれば全身が悲鳴をあげる程度ではすまなかっただろう。直前に自分がいた場所にできた、深く深く、底が見えないほどに抉れた地面を横目に見つつ、ミューグレンは心の中でだけネーネに礼を言った。
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「何ぼーっとしてんだよ。これから封印が解けちまったグレイストと再戦しようってんだぜ。しっかりしろよな」
「ああ、悪い。この三人でそのグレイストと初めて戦ったときのことを、ちょっと思い出していたんだ」
エルドランの声に、ミューグレンは不意に浮かんだ回想から我にかえる。
再会したネーネから魔獣グレイスト復活の話を聞いたミューグレン達は、ネーネの案内でその場所へと向かっていた。
先頭を進むネーネの背中を、ミューグレンは記憶の中のネーネと重ね合わせる。
(自分の故郷をつぶされたのに、それは置いておいてグレイストを討伐しようとする。確かに正義感は強かったとは思うけど、こんなに冷静な判断をする奴だったか?)
自分自身が気が進まないためにそう感じるだけなのだろうか。言葉にしがたい違和感を感じる。
そんな違和感を振り払おうとして、ミューグレンは前を行くネーネの背中に唐突に人差し指を置き、つつーっと下に動かした。
「ひゃうっ!」
らしからぬ悲鳴が聞こえるのと同時に、ミューグレンは突如頭上に降ってきた小岩に声を出す間もなく押しつぶされた。
「……仲間にいきなり無詠唱魔法をかますのはどうかと思うんだ」
「そのくらいで済んだことを感謝しなさい変態! 次やったら即死魔法を叩きこむから!!」
(うん、本物だ。ごめん、ネーネ)
何を基準に判断したのかは脇に置きつつ、ミューグレンはやっぱり心の中でだけネーネに謝った。
「で、ここがグレイストが寝ぐらにしている洞窟か」
森の奥深くにぼっかりと口をあける、巨大な暗闇。
一同がそこに足を踏み入れた瞬間、凄まじい咆哮が洞窟の奥から響く。その衝撃に洞窟の壁面の一部がパラパラと崩れた。
「へへっ、奴さん、もう俺たちに気づいているのかもな」
「上等よ。行くわよ」
この威圧感。前に戦ったときと変わらない。いや、前以上か。
確かに自分たちは魔王すら倒した。以前とは比べものにならないほどにレベルアップしている。
(だけど、勝てるのか? 今の装備で、この三人だけで)
そして、何よりも。
(命をかけて、戦う意味なんて、あるのか?)
迷いを捨てきれないまま、洞窟の奥へと進む。
「危ねえミューグレン! 上!!」
エルドランの叫び声に思考を切り替えるよりも速く身体が動く。
先ほどの切り裂くような咆哮が嘘のように音もなく頭上から降ってきた魔獣の攻撃を、ミューグレンは辛くもかわした。
しかし、魔獣の動きはそこで止まらない。着地から即座にミューグレンを追撃し、その巨体からは想像もできない速さでミューグレンを踏みつけ、動きを止めた。そして下手な刃物など束になってもかなわない自慢の爪を、ゆっくりとかまえる。
「くっ」
「この野郎っ!」
側面からのエルドランの斬撃を苦もなく避けると、魔獣は改めてミューグレン達と対峙した。
「グルル……」
猛り狂う獅子のような頭部。鋼のような筋肉と針のような剛毛に覆われた、見上げるような巨躯。
「魔獣、グレイスト……!」
「どうやら封印されていたせいで運動不足ってわけじゃなさそうだな。へへっ。俺たち、こんな奴によく勝てたよなあ……!」
軽口をたたくエルドランにも、その顔に余裕はない。運動不足どころか、より研ぎ澄まされていると思えるほどの動きだった。
あの構えられた爪を振り下ろされていたら、早々にやられていただろう。
(……ゆっくり?)
一瞬頭をよぎる、違和感。その違和感の正体を探るよりも先に、戦闘は再開された。
エルドランの迅さと強さを兼ね備えた剛剣、ネーネから教わった初等魔法を組み合わせたミューグレンの魔法剣、それらの間隙を埋めるネーネの詠唱、無詠唱を組み合わせた連続魔法。それらを全て器用に捌ききったグレイストは、エルドランの足を掴むと、片手でミューグレンに向かって投げつけてきた。
「くっ!」
最小限の動きで身を躱したはずだが、それでも大きな隙を作ってしまう。その機を逃さずグレイストは地を蹴り襲いかかってきた。
(避けられない! あの時と同じ! けど! あの時と同じなら!)
逆に好機。瞬時にそう考えたミューグレンはネーネに目で合図を送る。あの時と同じ超加速魔法をかけてくれれば、グレイストの背後をとることができる。
「……石よ、岩よ、大地よ! かの者に加護を! <<ジェントルプリズン>>!!」
「!?」
しかし、ネーネが唱えたのは防御魔法だった。グレイストの爪がミューグレンの腕を裂く。傷口から血が溢れ出す。防御魔法がかかっていたのにも関わらず、この威力。ミューグレンは戦慄……はしなかった。
記憶にある、初めて戦ったときに目にした、深く深く、底が見えないほどに抉れた地面が頭をよぎる。そして自分の腕。それなりに深く切り裂かれてはいるが、致命的なものではない。
(ぬるい。ぬる過ぎんだろ……なめてんのか)
故郷の村を潰されたにも関わらず、人々のためにと魔獣討伐を優先させたネーネ。
絶好のタイミングでの、まさかの防御魔法。
『こういうときは守ったら負けなのよ。勝利ってのはねえ、前に前に前に出て掴むものなのよ!』
ネーネの無駄に漢らしい台詞を思い出す。
"ゆっくり"と構えられた、グレイストの爪。
防御魔法の効果があったとはいえ、"ただ普通に切り裂くだけ"の攻撃。
『それが、魔獣グレイストが復活して人々を襲ってるのよ!』
仮にも魔王軍の幹部。かつては一つの国を滅ぼさんと侵略までした超上級魔獣。
(いくらもう魔王が存在しないとはいえ、手下にできるモンスターもまだまだいる。それが単体で人を襲う"だけ"とか、やることが小さ過ぎないか?)
違和感の正体。ミューグレンの中で、ある解答が浮かび上がる。
「……なあ、グレイスト。実はあんまりヤル気ないだろ? ネーネも。……教えてくれよ。これは何の茶番だ?」
「は? おいおい。こんな時に何言ってんだ。ミューグレン」
「コイツがその気だったら、俺はもう二回はやられていた。それが無事でいられているってことは、グレイストには俺たちを本気で殺す気なんてないってことだよ。そんで、今の間の抜けた防御魔法。故郷を潰されたってのに妙にアッサリした振る舞い。多分だけど、ネーネも一枚かんでる。ずっと引っかかっていたけど今のぬるいやり取りでピンときたよ。恐らく、村の人たちは避難なり何なりして無事なんだろうな」
「な……」
唖然とするエルドラン。バツの悪そうな表情を浮かべるネーネ。
「フム……そう言う其方も、本気で私を倒そうという覇気はなかったように見受けられるが?」
「うおっ! まだ誰かいんのか!? どこだ?」
唐突に挟まれる、渋みあふれる低音声に、妙に貴族的な口調。その声の出所を探ると、その先には……グレイストの姿があった。
「しゃ、しゃべった!?」
「おい。ミューグレン。これもお見通しだったのか!?」
「いやいやいや。これは想定外だ……」
「ちょっとスムアリアの宝物庫からこれを拝借してね。知性ある者とならどんな生物とでも会話ができる……秘宝『バベル』って言うの」
煉瓦色の珠のようなものを懐から取り出し、手品の種明かしをするネーネ。
「ねえ。こんなアイテムが存在して、そしてそれを使えばグレイストと会話ができる。これって、どう言うことだと思う?」
ネーネはミューグレンとエルドランに試すような視線を送りながら、問いかけた。
「ど、どういうことだよ?」
「話なんて通じるわけがない化け物だと、俺たちが物心ついた頃からずっと教えられてきた魔王やその手下達は、"対話可能"な相手だったってこと……か?」
「正解よ。さっすがリーダー」
何のサービスか、ウインクを寄越すネーネ。
「あ~……とりあえず、俺たちは色々と試されていたっぽいってのは理解できたんだが、それでも分からんことがある。……何のために、こんなことをしたんだ?」
知恵熱に呻きながら、エルドランは素朴な疑問を口にする。
「そんなの、本人に聞くしかないだろ」
「本人?」
「ああ、俺たちが知っている奴で、こんな回りくどいことをするのは一人しかいないだろ」
どこにいるかは分からない。だが、必ずこの場にいる。そう確信しながらミューグレンは呼びかけた。
「出てこいよ。暗殺集団ダークライのはみ出し者。……バング!」
「はいよ~」
気の抜けた声と共に、グレイストの背後から音もなく姿を現す人影。
現れたのは、人畜無害そうな、男にも女にも見える、中性的な顔立ち・体格・声。ひょんなことから旅を共にし、力を合わせて魔王を倒すまでに至った後でも、ミューグレンにはその性別も含めて何者か正確には把握できていない元・暗殺者、バングだった。
「やあ、久しぶりだね。ミューグレンにエルドラン。君たちも苦労しているみたいだ。ちょっと痩せたんじゃない?」
「昔話に花を咲かせたいのはやまやまなんだけどな、グレイストの封印を解いたのもお前なんだろ? 何が目的なのか説明しろ」
「はあ。やれやれ。人類を救った英雄の割には情緒がないねえ。わかったよ~。説明するよ」
「相変わらず人をくった話し方をする奴だな」
エルドランは思わず苦笑いを浮かべる。確かに。一緒に旅をしていた頃とこの辺は変わらないな、とミューグレンも思った。
「一言で言うと、これは"お誘い"だよ」
お茶会か何かのように、バングは言う。
「……『バベル』の存在については一例に過ぎない。ミューグレン、エルドラン。……この世界は、僕たちに何かを隠していると思わないかい?」
「隠している……?」
「そうさ。グレイストに対して全力を出せなかった、ということは君自身も何かに疑問を感じていたはずだ」
ミューグレンとエルドランに対し、バングは手を差し出す。傍らに立ち、それを見守るネーネとグレイスト。
「共に世界の嘘を暴きに行こう。……そして築こう。その世界から拒否された、僕たちの居場所を」
(第五話に続く)
前話での、主人公が割り切れなかった部分を広げてみました。ちょっと独りよがりな展開になってしまったかもしれませんが、どうかご容赦を。
前書きでも書かせていただきましたが、当リレー小説では次にバトンを受け取って下さる方を募集中です。
書いていただけるという方は、聖魔光闇さん(http://mypage.syosetu.com/107085/)までご連絡を!