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危機的な理由と致命的な理由

 さて、ルリノの活躍によりひとまずの危機をやりすごしたカヅトだったが……意外にも「屋根から降りる」というだけのことに手こずることとなった。

 なにせ街は今、火の海である。

 付け足すのであれば、ルリノがJJの鎮圧に成功したその時、カヅトの足下の民家はまさに炎上中だった。隣の屋根に飛び移った途端(もちろんルリノたちのいる方ではなく、逆方向の屋根だ)、その家は火の中へ溶けるようにして崩れ落ちた。あと少し遅かったら……カヅトは想像してみてゾッとした。


 結局、カヅトもルリノもJJも屋根の上をさんざん迂回し、まだ火の手の及んでいない家屋を伝って道路へと降りたのだった。

「はふぅ……やっと合流できたね」

「ここもいつ炎に呑まれるかわからないな……とりあえず隣町まで避難しよう」

 汗を拭うルリノに対し、カヅトは辺りを見渡しつつ提案した。消防車のサイレンと思しき音がようやく聞こえてきたが、間に合わないだろう……というか、もはや間に合うとかそういうレベルの話ではなくなっている。「火事から街を守る」という段階はとっくに過ぎ去っていて、今は「被害拡大を防ぐ」ための消火活動になるだろう。


「消火活動を手伝う」という選択肢は、カヅトになかった。

 それはなにも「他人の家を守ってやる義理はない」なんて利己的な考えや、「自分一人の力添えでどうこうなる規模の問題じゃない」なんて非協力的なスタンスがためではない。そういう考えがためではないが、そういう考えが全くなかったわけではない。だが、主たる要因ではないことは確かだ。


 カヅトが真っ先に火事現場を離れようと思った理由は、2つ。


 1つ目……放火犯であるJJを連れているから。

 これが最もシンプルで、ある意味クリティカルな理由だった。JJの身柄をどうするかは相談しなければわからないが……ルリノがわざわざ一緒に避難してきたということは、今後も――少なくとも直近は連れだって行動するつもりなのだろう。


「ルリノ……それ、なんで付いてきてるの?」

「あー? てめぇ、オレ様のこと『それ』っつったか? お? ぶっ殺すぞ?」

「ぶっ殺すとか言っちゃダメだよ? 嫌いになっちゃうよ?」

「チッ……わかったわかった」

 ルリノのフォローによって、あっという間に勢いを失うJJ。『恋愛シミュレーション』のジャンル……その効果か。まだ詳らかに説明してもらったわけではないので、カヅトはルリノの能力について多くの疑問を抱えたままだった。が、今はその一つ一つを確認している場合ではないだろう。ひとまず後回しにすることにした。


 実はこの「ルリノのジャンルについての説明を後回しにした」ことが、後の展開に大きな影響を与えた――かどうかは定かではないが、しかし。

 もしここで、あえて説明を要求していたら――それによって、火事場で立ち往生している時間が増えていたら――すべての未来が違う様相を呈していた可能性だってある。


 すべての未来――すべてのプレイヤーの未来が、である。

 そして未来とは、この『リアル』というベリーハードなゲームにおいて……『エンディング』と置き換えられる。


 些細な選択の違いによって未来が変わるなどと言うことは、そんなものすべての事象に対して言えることだ――と看破されればそれまでなのだが……あるいは、平行世界だとか多世界解釈だとか事後選択モデルといった未来派SFでもなければ、未来が変わったかどうかなど判断できない――と達観されればそれまでなのだが……。


 しかし、すべてのプレイヤーの未来が、”まったく別の姿に”変わるのであれば……ここでのカヅトの選択は、それこそ”まったく”間違っていた。なにがどうであれ、例え炎に身を焼かれようと、ルリノのジャンル『恋愛シミュレーション』について真っ先に説明を要求するべきだったのである。


 あくまでも『変わったかもしれない”可能性”』の話だが……説明を要求したからといって、即座にすべての未来が変わったわけでは、決してない。せいぜい、起こり得る可能性が0%から1%ほどに増えた程度のこと。


 それでも、ゼロではない。確率の話である。0%の可能性とは、絶対に起こり得ないことなのだから。


 ただし。

 まったく別の姿に変わった未来が……果たして、幸せだとか幸福だとか裕福だとか満ち足りているかと問われれば、当然ながらそれは断定できない。

 幸せだとか幸福だとか裕福だとか満ち足りているといった感情・感想は、人それぞれなのだから。


「この人は、私がお願いしたから。だから付いてきてくれるの。あっ、安全だから。もう安全だから大丈夫だよ?」

「……そうか」

 だからカヅトは、そう答えるだけに留めた。留めてしまった。

 なによりも、早くここから離れたいという気持ちがそうさせたのだ……消防車のサイレンを聞いた時、その気持ちはさらに加速した。

 消防車が来たと言うことは、じきに救急車も到着するだろう……そして、パトカーも。


 1つ目が危機的クリティカルな理由だったとすると……2つ目は致命的な理由だった。


 忘れてはならない――カヅトは今、指名手配中である。ルリノのジャンルによってなんとかやり過ごしたものの、刑事・イサカは明らかにカヅトを追っていた。カヅトのことを、自宅に放火し、姿をくらました人物だと思っている。今、警察の厄介になるのは得策ではないと判断した。


 カヅトがその事実を知る由はなかったが……まったくなかったが、ルリノの能力からイサカは既に解放されており、また、彼の上司であるアラシベに情報が伝播している。こうしている間にも刻一刻と刑事たちが接近していることは事実だった。


 だから、そういう点から見れば「火事場から早く離れる」という選択は正しかった……半分くらいは。


 ただ、 早 す ぎ て も ダ メ だっただけで……だから既に走り出したカヅトたちの判断は、半分くらいは間違っていた。



次回更新は10/12(土)予定!

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