RPGのルール
中身は確認するまでもないだろう……そもそも、JJはどうしてこの住宅街全体に一斉に火を放つことができたのか。民家ならまだしも、コンクリートの敷かれた道路に火を付けることはできない。灯油か、ガソリンか……なにかしらの燃料が必要になってくるはずだ。しかし、だからといって街中にせっせとガソリンを撒いていたら、きっと住民に目撃されてしまったはずだ。宵闇など、姿を隠すのにはそうそう役立たないだろう……不審者として通報されるのが関の山である。
迅速に、かつ大量のガソリンを撒く必要がある……が、奇しくもJJにはそれが可能だった――可能になった。そして、カヅトも……『アイテムを異次元に収納する』ことができるゲーマーなら、可能なのである!
今、カヅトに対して放られたポリタンク――それは放火の名残……余剰の殺意だった。
ナイフを弾くために蒼炎の剣が振られることを読んで――それによって青い炎が放たれることを期待して――JJはカヅトが自滅するように仕向けたのである!
ところで……蒼炎はガソリンに『引火』するのだろうか? JJがその問いに対する答えを知っていたとは考えにくい。だが、家を一軒、そして人間を一人焼き払ったことなど、前の事例を鑑みるに……おそらく引火すると考えるのが妥当だ。もっとも、JJには「自滅してくれればラッキー、そうでなくとも足下の民家が炎上してダメージ」程度の打算的な考えしかなかったに違いない。
結論から言えば――引火しなかった。
蒼炎の剣はナイフを弾いただけで、炎を吹き出すことはなかったからだ。
「……え?」
ポリタンクはカヅトの足下、屋根の上を二転三転し、軒下へと落ちていった。もし蒼炎の剣へと引火していたら……おそらく、カヅトは今頃青い炎に全身を焼かれていただろう。命拾いしたのだ――が、カヅトは剣を振り下ろした体勢のまま、硬直していた。
炎が出なかった――否、「出せなかった」が正しい。
柄を握る手の中にあった、手応えのような……見えないが、確かな感触――今の今まであったそれが今、まったくと言っていいほど感じられない。まるで指先からこぼれ落ちていったかのように、吹き抜けていったかのように……あるのは、なんとも心許なく、頼りない感触だけ。
「チッ! めざとい野郎だぜェ……てめぇの炎に焼かれて死んでくれれば、いい見物だったろうによォ~」
悪態をつくJJ。カヅトが自らの意思で炎の如何を調節したと思い込んでいるらしい……だが、実際はそうではない。
現状を把握するのに、カヅトは数秒も要しなかった。まさに、目の前に……答えが示されていたからだ。それはRPGを好む者なら誰でも心得ていること……ごく基本的なRPGのルール。
カヅトの視界に展開した、透明のウィンドウ――
【MPが足りない!】
そう……『特殊な攻撃・魔法・呪文などはその使用回数に制限がある』というルールだ!
……一般的なRPGの場合、使用回数制限は『MP』で表されるのがメジャーである。HPが『体力』だとするなら、MPは『精神力』と言ったところだろうか……強力な魔法を行使するためには多くのMPを消費しなければならない。ポイントを取り戻すためには、回復用のアイテムを使用するか、宿などで休むのが定番だ。
要は、魔法を使うためには対価となるポイントが必要なのだ。自身のMPが魔法発動に必要なMP量を下回っている場合、その効力は発揮されない……今のカヅトが陥っているのは、まさにその状態!
あらゆるものを焼き払う青い炎――それが失われたのなら、カヅトの握っているそれはただの大剣にすぎない。いや、ただの大剣と化した今でも充分に――充分すぎるほどに戦闘能力はあるのだろうが、それは普通の世界で、普通の人間を相手取る時に限定した話……今は――今に限っては、違った。
こ こ は ベ リ ー ハ ー ド な リ ア ル で !
相 手 は 最 悪 の 狂 人 な の だ か ら !
次回更新は9/14(土)予定!




