正当な防衛
「なんで? なんでだってェ? ……キヒッ! 簡単なことだぜ? だってよォ~……アイツはオレ様のダチだったんだからなァ~!」
JJがナイフの腹を撫でる。その側面に燃えさかる街並みが映っていた――このナイフのかつての持ち主は、サラリーマン風の男性だったはず……果たして、無法者の権化のようなJJとはいったいどこで接点を持ったのだろうか。それとも、一見何の変哲もないサラリーマンが泥棒をはたらいたように、やはり人は見た目によらないということなのかもしれない。
もっとも、JJの言う「ダチ」が一般的な意味とは――悪質で皮肉なジョークのように――異なっている可能性も否定できない……事実、カヅトは無意識のうちに「舎弟」とか「下僕」とか、そんな意味へと補完していた。
「なァ~……? ボウズが殺したんだろォ? こいつが落ちてたトコによォ……燃えカスがあったんだよなァ! てめぇはやっぱり『境界線』を越えちまってんだよォ~~……どうしようもなく! てめぇは人殺しなんだよォ……!」
ゆっくりと言い聞かせるように、かすれた声を絞り出すJJ……まるで骸骨が呪詛を吐いているかのようだ。カヅトはブンブンと首を振った。
「ちがう……ちがうちがう、違う! 俺は、あいつに――あの泥棒に殺されそうになって、それで、仕方なく……!」
途端、ナイフを眺めていたJJがその動きを止めた。三白眼がカヅトの方へとジロリと向く。
「……ア~……てめぇ、まさか『自分が殺されそうだったなら、相手を殺しても許される』とか『正当防衛』とか……言うつもりじゃあねェだろうなァ……?」
「そ、そうだろ……? 殺されそうになったら……だって、そうじゃないと、自分が殺されるんだぞ!? そりゃ、殺すのは……やりすぎかもしれないけど……けど――」
「うっぜぇええええええええええッッッ!!」
JJ、またしても怒号! しかも今度は、周囲の空気が震えんばかりの大音声だ! カヅトは思わず剣を構え直してしまった! が……JJは直後にガックリとうなだれた……?
「……アア~……てめぇ、ホント……っていうか、世の中? の脳味噌お花畑人間? マジさァ……マジでェ……ア~……」
額に手を当てたまま、なにごとかブツブツと呟いているJJ。これは……攻撃してくれと言わんばかりに隙だらけ! だが、肝心のカヅトは……突拍子のないJJの仕草に完全に呑まれていた。せっかくのチャンスに気づきもしない!
やがてJJが顔を上げた。ガバッと天を仰ぐ――白目を剥いていた双眸!
「ア~ァ……まァ、いいか……喋るのもめんどくせェしな。わざわざ説明してやる義理もねェ……」
「は、はぁ……?」
相変わらず困惑気味のカヅトに対し、JJはゆるゆると首を振る。黒目がグルンと戻ってきた!
「どうせ……てめぇはここで死ぬんだしなァ!」
一直線に投げられたナイフ! カヅトはほとんど条件反射で蒼炎の剣を振るっていた……投げられたものは、ナイフだけではなかったのに。
剣を振るった、その刹那……カヅトは確かに視認した。
こちらに向かって飛んでくるナイフ――その後ろ、放物線を描いて落下する物体――
――赤色の四角いポリタンクを。
次回更新は9/7(土)予定!




