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仕切り直し

「かっ!? カヅく――ッ!?」


 突然の銃声に次いで、屋根の下へと消えていったカヅトを目の当たりにし、ルリノは全速力で窓際へと駆け寄った。身を乗り出し、下を覗く……が、吹き上がる炎に押し返されてしまう! 火の手は着実にルリノ宅を侵略しているようだ! この家も、もう間もなく業火に飲み込まれるだろう……。


 ルリノは窓の縁を掴んだまま、絶句。そんな彼女の前に現れたのは、他でもない放火魔・No.5だ。

「……ンだぁ!? 声がしたから誰かいんのかと思ったら……チッ! あのボウズ、女といたのかよ!」

 露骨に苛立ちの表情を浮かべたNo.5――その舐めるような視線が、ルリノの肢体を上へ下へと這う。それに気づいているのかいないのか……ルリノは先ほどからピクリとも動かない。まるで蛇に睨まれた蛙の如し……いや、見てくれだけで言うならば、ライオンに睨まれた猫の如し!


 カチャ、カチャ……No.5が右手に掴んだピストルを弄ぶ。しかし、目線はルリノへと向けられたまま。その乾いた唇が意地悪そうな弧を描くのに、そう長い時間はかからなかった。

「ボウズにゃもったいねぇ女だな……キヒヒ! おい、オレ様の女になr――」

 おおよそ予想されたその台詞! だがしかし! 言い切る前にルリノは動き始めていた!


 ルリノはそっぽを向いた――かと思うと、一目散に廊下の方へと走り出したのだ! 窓の外でNo.5がなにか叫んでいたが、気に掛ける様子はまったく感じられない! 全力ダッシュ!


 廊下に出て、階段を飛び降り、向かった先は……バスルームだ! そして――パジャマのまま、バスタブへとダイヴ! どうしたルリノ!? ショックのあまり気でも触れたか!?


 頭から爪先までずぶ濡れになったルリノ――空色の髪が色を強めた。水を滴らせ、廊下を駆ける! 途中、階段から顔を覗かせたNo.5がいたが……もちろん意に介さない! 清々しいほどのシカトである!


 燃えさかる玄関ドア――身を焦がす灼熱に構わず、ルリノは玄関を押し開けた! 見ているだけでも熱い! 濡れたパジャマが多少なりとも炎から体を守ってくれるだろうが……それも気休めに過ぎないはずだ。とても常人のとる行動ではない……!


「な、なんだあの女……!? 頭イカレてんのかァ!?」

 思わず声を荒げたNo.5。火の海に飛び込んでいくルリノの姿を目の当たりにした今……その奇行に、わずかながら恐怖すら感じ始めていた。


 人間に限らず、ある程度の知性を備えた動物はその知性が故に、理解できない現象に対して恐怖を抱く。この恐怖を本能だと言う論もあるだろうが……どちらかといえば、これは理性的な恐怖の類いであるだろう。『理解できない』ということはすなわち、『理解しよう』とした知性が――理性が働いていることになる。恐怖の根幹が理性にあるのならば、それを本能と言うのは難しいはずだ。


 もっと直感的に、感情的に――本能的に表現するのであれば……本能で感じる恐怖は、激しい。


 もしこの時、No.5が感じ取ったのが『本能的な恐怖』であったならば――No.5が『本能的な恐怖』を感じ取れる人間だったならば、階段を上って部屋へと引き返し、この燃えさかる家から屋根伝いに脱出しただろう。


 だが、No.5は階段を上らなかった……かといって、下ったわけでもない。


 放火魔の男は階段を上ることも、下ることもしなかった――中腹辺りに留まったのである。それは最良の選択ではなかったが、最悪の選択でもなかった……もし下っていたら、その時点で彼は死んでいただろう。


 と、次の瞬間! 玄関を完全に包み込んだ猛火の中から、青色の炎が吹き出した! パックリと割れた火の海!

「チィッ!?」

 舌打ちするNo.5。階段を数段、バックステップで器用に上った。間髪入れず襲いかかる蒼炎! 先ほどまで立っていた段が焼かれて灰と化す! ずぶずぶと崩れ落ちる階段だった物体……恐ろしい火力だ!


「……キヒッ! そうこなくっちゃなァ? あれで死んだらおめぇ、ベリーイージーモードだぜェ!」

 No.5は両腕を広げ、凶悪な笑みを浮かべた。三白眼の見つめる先――玄関の向こう側、炎が払拭された空間に立っていたのは!

「俺にとってはベリーハードなバックアタックだったっての……!」

 他でもない……カヅトだ! 左腕にはルリノが抱き留められていた――パジャマはところどころ燃えてしまっているが。灼熱に身を投じたのだ、命があるだけでも僥倖だろう。


 右手に構えられた蒼炎の剣――その切っ先がNo.5に向けられる!

「仕切り直しだ、No.5!」


次回は8/10(土)に更新予定!

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