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ルリノの能力≪ジャンル≫

iPhoneからの更新なのでちょっと見映えが悪いかもしれませんmm

 抱きつかれ、体のバランスを崩す。本棚に後頭部をぶつけてしまった。視界に星が散る。グラグラと揺れる棚――仰向けに倒れたカヅトの顔面に、薄い箱が無数に降り注いだ。


「いってぇ……おい、大丈夫か? ルリn――」

 上体を起こしたカヅトはすぐに視線を逸らした。その眼前、へたり込んだルリノが蒼白な表情で硬直していたのだ――胸を隠すことも忘れて! だが、顔を背けた矢先、カヅトの視界には同じくらい衝撃的なものが映っていた。


 床一面に散らばった薄い箱たち――どれもゲームのパッケージだった。表面を飾っているのはキャラクターの立ち絵がほとんど。中には男性キャラのものもちらほら見えるが……女性キャラが大きく描かれているものが大半だ。いわゆる「萌え」を意識した絵柄が多いように感じられる。カヅトはそのいくつかを手に取った。

「『トキメキ☆メモリーズ・ラブ』『すきカノ!』『月下の恋人』……ルリノ、これって――」


「……――っ! もぁああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ~っ!!」

 ルリノ、突然の絶叫! ゲームをひったくり、そのままベッドへとダイヴ! 布団に包まって呻き出してしまう。

「もうやだぁあああああぁぁぁぁ~……物事には順序があるんだよぉ! こんな……こんなはずじゃなかったのにぃいいいいっ!」

 プルプルと震える布団のミノムシ。カヅトは蒼炎の剣を一旦収め、ゆっくりと立ち上がった。

「もしかしなくても、ルリノが夢中になってるゲームって……」

 やがて観念したのか、布団の震えがピタリと止まった。


「……そう……私の能力ジャンルは『ギャルゲー』だよ……」


 ギャルゲー――カヅトにはあまり馴染みのないジャンルだが、どういうものかくらいは知っている。登場キャラクターたちと擬似恋愛を楽しむゲーム……すなわち『恋愛シミュレーション』のことだ。ストーリーはテキスト形式で進むものがほとんどで、会話やイベントがいたるところに散りばめられている。主人公となったプレイヤーは、用意された選択肢によってどのように振る舞うかを決めることができる――その如何によって、キャラとの親密度が変化するのだ。主人公は男性の場合が多く、攻略対象となるヒロインが多く登場することから、俗に『ギャルゲー』と呼ばれている。


「幻滅した、よね……? 女の私がこんなゲームやってるなんて、おかしいもんね……」

「いや、それは個人の自由だと思うけど……ちょっと不思議な感じはする、かな」

 当たり障りのない言葉を選んだカヅトだったが、これは彼の本心だった。


 幼馴染として長年近くにいたカヅトだ。世間のルリノに対する評価はそれなりに耳に入ってくる――曰く、顔立ちは整っているし、プロポーションも悪くない、性格は真面目で成績も良好……らしい。断言できないのは、カヅトが自分の主観的な評価に自信を持てないからである。彼女の生い立ちを知っているせいか、この辺りの感覚がどうも麻痺してしまっているようだ。


 さておき。そんなわけであるから、ルリノはそこそこ……いや、かなりモテる。彼女はその手の話題を決して口にしないが、今までにも相当数の男子からアプローチを受けているはずなのである。かといって、誰かとお付き合いしているという噂も聞いたことがないので、同じ数の男子たちが散っていることになるが……。


 そんなルリノが、どうして『ギャルゲー』の虜に? なにが彼女を魅了したのだろうか? 擬似恋愛などではなく……本物の恋愛にいつだって手が届くというのに。


「私、ほとんどのゲームはひとりのキャラクターのハッピーエンドを見たら、そこでやめちゃうんだ……」

 ルリノがポツポツと語り始めた。カヅトは黙って先を促す。

「あのね、大抵のゲームには幼馴染ポジションのキャラがいるの。その子と主人公が恋に落ちると、プレイしてる私まで幸せな気持ちになっちゃう……! 今までずっと一緒だった二人が、それ以上にもっと特別な存在になれるって、すっごく素敵なことだと思うの!」

 かすかに熱を帯びるルリノの声。熱狂的なプレイヤーだということがありありと伝わってくる。だが、その熱もすぐに冷めてしまった。


「でも……ダメなの。それって結局、理想的な作り話なんだもん。ゲームの中の幼馴染は主人公のことを一番よく知ってる理解者で、心の支えになってあげられる存在。でも、現実の幼馴染は仲のいい異性の友達がせいぜい――ドキドキとかトキメキとかとは程遠い存在……。恋愛対象になんて、なれっこない――そんな真実に気づくのが怖くて……真 実 に 気 づ い た 自 分 に 気 づ く の が 怖 く て 、私は夢中でゲームをやり続けた……」


 ルリノはそこで一旦、言葉を区切った。聞き役に徹していたカヅトは、その内容を吟味し……そして、彼女の言わんとしていることに気がついた。たどり着いたその結論――勘違いではないかと思わず疑ってしまう。


「な、なんか……それじゃあまるでルリノは――……」

「うん……そうなの」

 布団から顔を覗かせたルリノ。潤んだ上目遣いがカヅトの姿を映す。


「私は……ずっと前からカヅくんのことが、好き……です……」


次は6/8(土)に更新予定!

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