不信
頭を抱えるカヅトを見かねたのか、ルリノがおずおずと助言した。
「電話、してみたら……いいんじゃないかな?」
「あっ、そうか!」
どうしてそんな簡単なことに気づかなかったのだろう! カヅトはポケットに手を突っ込んで……すぐに絶望した。
「ケータイ……俺の部屋に置きっぱなしだった……」
「あぅ……じゃあ、私の使う?」
「……ルリノって、自分の両親のケー番覚えてる?」
「……お、覚えてない、かな……」
「そうか、俺もだ」
「あうぅ……」
カヅトはソファに、今度は深く腰を下ろした。テレビはすでに他のニュースを映している。ルリノはリビングの入口付近に立ったまま、まだ困惑している様子だ。
「あの、お父さんとお母さんの職場に連絡してみるとかは……」
「電話番号を知らん。調べりゃわかるかもしれんが……それこそ警察がもうやってるだろ」
「そっか……」
「それに……十中八九、あの焼死体は俺の両親だ」
「そんな、まだわかんないよ!」
「わかるんだよッ!!」
動揺に誘われ、つい怒鳴ってしまったカヅト。ルリノがビクッと肩を震わせる。お互いに取り乱しているのは明白だった。
「ど、どうしてそんなことがわかるの? 確かめてもないのに……」
「わかるんだよ……だってこれはゲームなんだぜ? ラヴィが仕込んだに決まって――……?」
カヅトはルリノの言葉に引っかかりを感じた。見れば、先ほどよりもルリノに距離を置かれているような気さえする。ニュースの内容と擦り合わせ……カヅトはひとつの考えに至った。
「ルリノ、おまえ……まさか俺が放火犯だって疑ってるのか!?」
ソファから立ち上がったカヅト。気圧されたルリノが一歩退く。
「そっ、そんなこと言ってないよ!」
「言ってなくても思ってただろ!」
カヅトは詰め寄った。なんとも自分勝手なことだが……カヅトは今の今まで、自分が疑われるなどとは露にも思っていなかったのである。カヅトはルリノを疑っているのだ。それなのにどうして自分は疑われないと考えてしまったのか……。
それはおそらく、カヅトがルリノに対し、心のどこかで「こいつはそんなことしない」と決めてかかっていたからだろう……ルリノがカヅトの優しさを評価したように。カヅトは自身を棚に上げていた。だから二の轍を踏んだのである。
迫るカヅトに対し、ルリノはオロオロと後退するしかない。
「お、思ってないよ! ホントだよ!」
「じゃあなんで俺から逃げてるんだよ!?」
「だ、だって今のカヅくん、なんか怖いもん……!」
カヅトは立ち止まる。すると廊下の先でルリノも止まる――頭を振った後、彼女は一歩だけ近づいた。それを認めて、カヅトは少しだけ頭が冷えた。深呼吸し、調子を整える。
「わりぃ……取り乱した。家が燃えたのはNo.5の――他のゲーマーの仕業だ……俺じゃない」
「……うん、わかった。でも、放火された家から夫婦の死体が見つかって、その息子は行方不明ってなったら……ごめんね? 世間はカヅくんが放火したんじゃないかって疑うと思うの……学校にも来てなかったし」
「そう、か……そうだな……。ルリノの言うとおりだ。俺にはアリバイがない……けど! 本当に俺じゃないんだ!」
「お、落ち着いて! 大丈夫……私はカヅくんを信じてるよ。けど、今からは慎重に行動した方がいいと思うの……No.5と接触してるんなら、カヅくんは今も狙われてるかもしれな――」
ピンポーン――……ピンポーン――……
会話はインターホンによって遮られた。
次回更新は5/4(土)予定!