2つの焼死体
食事を終え、再びリビングへと戻ってきた。窓の外、すっかり宵闇に包まれた住宅街――その静けさが、今のカヅトには妙に不気味に感じられる。なにか見たい番組があったわけではないが、テレビをつけた。ちょうどニュースが始まる時間だ。静寂が少しだけ遠ざかる。
ソファに浅く腰掛けたカヅト。しばらくの間、流れるニュースをぼんやりと眺めていた、が――
「……ん? これって……」
見覚えのある景色が映っていた。いや、見覚えがあるもなにも……テレビに映し出されているのは、カヅトのいる住宅街の風景なのだから!
――今日昼過ぎ頃、幽岐市の住宅街で不審火がありました。駆けつけた近隣住民と消防隊によって消火活動がおこなわれましたが、出火した民家1棟が全焼する被害となりました。警察が出火原因を調べたところ、放火の可能性が強いと見られています――
ニュースキャスターが淡々と読み上げる。テロップ付きで映し出されたのは、かつてカヅトの家だった建物――真っ黒に焦げた骨組みだけで、今は見る影もない。夕方頃の映像なので、鎮火直後に撮影されたのだろう。まだ所々で煙が上がっている。
カヅトは顔をしかめた。住む場所がなくなった……これもラヴィの言う「ベリーハードの仕様」なのだろうか。慣れ親しんだ家だ、愛着がなかったわけではない……カヅトの胸中に、じわじわと感傷が湧き上がってくる。それと同時に、放火犯であるNo.5への憤りも渦巻く。
だが、そんな情動も、続く報道にすぐに吹き飛ばされてしまった!
――焼け跡からは2体の焼死体が発見されました。現在、警察が身元の確認を急いでいるところですが、遺体の状態などから、この家に住んでいた夫婦ではないかと考えられています。また、その夫婦の子1名の行方がわかっておらず、事情を知るものとして捜索中です――
「焼死体……2名……!?」
カヅトは思わずテレビに駆け寄った。この家に住んでいた夫婦――それはつまり、カヅトの両親ということになる。しかし、それではおかしい。カヅトの両親は共働きで、今日の昼も仕事に出て行っていたはず……家にいるわけがないのだ。
気配を感じ、慌てて振り返ったカヅト。リビングの入り口に、桜色のパジャマに装いを変えたルリノが立っていた。首にはバスタオルが掛けられており、空色の髪先はまだ少し湿っている――風呂上がりだ。しかし、頬は上気するどころか青ざめていた。
「こ、これって……カヅくんの家、だよね? 焼死体って、まさか、それって……カヅくんのお父さんとお母さん――」
「ちがう……そんなわけない! だってあの時、家には俺しかいなかったはずで……!」
自分で言って、カヅトは気づいた。あの時……家にいたのはカヅト1人ではなかった。泥棒に侵入されていたではないか! 他に誰もいなかったとどうして断言できようか……カヅトは自室に引き籠もってゲームに執心していたと言うのに!
それだけではない。泥棒と命をかけた鬼ごっこをしている時――そのわずかな時間に、両親が帰宅したという可能性は? 極めて低い確率だが……ゼロとは言えない。
考えてみれば、泥棒に侵入されることも、放火されることも、またその放火魔に追われることも――それらは現実において、遭遇する確率がゼロとは言えない不幸である。ゼロではないだけで、これらが一度に起こる可能性は限りなくゼロに近いかも知れないが……。
だが、カヅトのリアルはゲームと化した……ベリーハードモードによって、それらの不幸に遭遇する確率が 意 図 的 に 、 そ れ も 大 幅 に つ り 上 げ ら れ て い る と し た ら ?
どこかで兎が笑った気がした。
次は4/27(土)に更新予定!