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 程なくして運ばれてきたのは、できたてのミートソーススパゲッティだ。即席とは言え、一品では様にならないと考えたのだろう。小皿にはサラダが盛られていた。家庭的!

「いただきます」

「はーい、おあがりなさい……って言うほどのものでもないか。あーぁ、カヅくんが食べてくれるってわかってたら、もっとちゃんと準備したんだけどなぁ……」

「いや、十分すごいって。俺、料理なんかカップ麺くらいしか作れないぞ?」

「えぇ〜? それは料理って言うのかなぁ……」

 おそらく言わない。


 美味しそうに湯気を上げるスパゲッティ……カヅトの腹の虫が急かすように呻いた。フォークに絡ませ、口元へと運ぶ――が、そこまでだった。中途半端に口を開いたまま、カヅトは手を止めた。いや……止まってしまった。果たして、このまま素直に口に運んでしまっていいものだろうか……毒が盛られているという可能性は……ないだろうか? そんな疑いがカヅトの手を止めたのだ。


 懐疑は瞬く間に膨れ上がり、邪推へと変貌する。ルリノが料理を作る過程を、カヅトは監視していたわけではない……毒を盛るチャンスはいくらでもあったはずだ。もしかしたら、大胆にもカヅトの目の前で毒物を混入していたかもしれない……!


「……どしたの、カヅくん? 食べないの?」

 不思議そうに首を傾げるルリノ……これは催促だろうか? カヅトに確実に食べさせるための念押しのようにも受け取れる……。

 カヅトはゴクリと唾を飲み込んだ。見られている――ルリノに、じっと、フォークの先――口に運ぶ瞬間を……!


「あっ……そっか」

 なにかに気づいたルリノ。テーブルに身を乗り出し、そして――カヅトのフォークにかぶりついた!


「んなっ!?」

 思わず腕を引いたカヅト。ルリノの小さな口からフォークが引き抜かれる、が……もちろんそこにスパゲッティは残っていなかった。咀嚼され、飲み込まれるスパゲッティ――ルリノの細い喉がコクンと鳴る音が、カヅトの耳にもたしかに聞こえた。


「心配しなくても、毒なんか入れてないよ?」

 ルリノのその言葉に、カヅトの心臓は飛び跳ねた! 見透かされていた……そうわかった途端、込み上げてきたのは罪悪感――


 ま た 疑 っ て し ま っ た 。


 だが、カヅトにも言い分がある。繰り返しになるが……このゲームでは、あらゆる手段が許されるのだ。No.5の放火魔がそうしたように――ルリノがカヅトを手に掛けることはないと、どうして言い切れるだろうか? 疑わしきは疑う――それがこのゲームの鉄則だと、カヅトはこれまでの経験から感じ取っていた。

 だが……それもまた、脆いものだった。


 できるならば、カヅトは目を覆ってしまいたかった。困ったように微笑んだルリノ――小さく首を傾げたと同時に、その頬を涙が伝ったのだ。

「……あ、あれ? お、おかしいね、私っ……なんで泣い、て……っる……」

 嗚咽に言葉が散らされた。ルリノは必死で笑顔を作ろうとしているが、そのたびに涙が溢れてくる。拭えど拭えど、涙の筋は数を増すばかり……。


 幼馴染のそんな姿を前にして、それでもカヅトはただ見ていることしかできない。もういっそ、手を伸ばしてしまおうか……? そんな考えすら浮かんだ。「ごめん」と頭を下げた瞬間、ルリノの能力ジャンルで殺されたとして……そこに後悔はあるのだろうか? その後悔は、今感じている心苦しさよりも深いのだろうか? だが、【GAME OVER】ならいざ知らず……死ぬのは怖い。死にたくない――その最も根源的な本能によって、カヅトは椅子に座って静止を続けていた。


「……ごめんね、私、先にお風呂入ってくるね……」

 言うが早いか、足早に廊下へと消えていくルリノ。足音が遠ざかり、どこかの扉が閉まる音を聞いて……カヅトはようやく本能の束縛から解放された。


 ずいぶん時間が経ってから、カヅトはスパゲッティを口へと運んだ――悩んでいたわけでも、疑っていたわけでもない。強いて言うなら、なにも考えていなかった。食べ終わる頃になって「そういえばこれ、間接キスだな」と、下世話なことをフォーク越しに思った。

 もちろん毒は入っていなかった。それでも、サラダには口をつけなかった。



次は4/20(土)に更新することにしておく(予定

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