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『プレイヤー・カヅト、アナタは願っていたはずです。ゲームの世界に生きられたら、と。それはどんなに素晴らしいことかと。現実のことなど……どうでもよかったのではありませんか?』



    リ ア ル


     現 実


    な ん て


     退 屈


  な こ と な ど


   ! ! ! !



 ぞわ……! カヅトの背筋が粟立つ。そう、そのとおり……ラヴィの言うとおりなのだ。カヅトは現実リアルが嫌いだった――


 なにせ、報われないのである。『現実リアルは報われない』……それが、カヅトが人生に対して抱いた感想だった。いつからなのか、はっきりとは覚えていない。ただ、いつからかその考えは頭の隅に居座って動かなくなった。


 なにせ、報われないのである。誰かの努力を、造作もなくヒョイと飛び越えていく天才がいる。彼らの後ろ姿を仰ぎ見ながら、カヅトは虚しさを覚える。努力せずに横たわるだけの凡人がいる。彼らの怠惰を見下ろしながら、カヅトはやるせなさを覚える。両者はいったい、どこで違ってしまったのだろうか。努力しなければ壁は越えられないが……越える必要が、はたしてあるのだろうか……?


 なにせ、報われないのである。カヅトが努力したところで、報われるとは限らない。失敗すればひどい仕打ちがあるくせに、成功したって「そこそこ」止まり。上を見れば切りがなく、そこに辿り着く方法は見当もつかない。「所詮」とか「程々」とか、そんなそこそこでまあまあな言葉の中に、カヅトの存在は封殺されてしまう。世界にはなんの影響もない……無害にして無益。それが凡人の存在であり、カヅトの存在だった。


 だが……だがしかし! ゲームの中だけは違った! 敵やイベントという明確な「越えるべき壁」があり、なによりも壁の先には報酬があった。経験値は努力の証だ。武器を装備すれば確かな強さを得ることができる――すべてが明確で、すべてが報われる世界がゲームの中にはあった!


 ゲームに出会い、カヅトはたしかに報われた。たしかな充実を感じた。さらなる充実を求めていた。だが、だからと言って……。

「俺のリアルが、ゲームになったって言うのか……?」

『さすがは適合者ゲーマー、飲み込みが早くて助かります。プレイヤーであるアナタには、さまざまなイベントが待ち受けていることでしょう』

「お、おい、冗談だろ……? あんな鬼畜イベントがもっと用意されてるってのか!?」

『それはもう、ベリーハードモードですから』

「ふざけんなッ! 命がいくつあっても足りねぇよ!」

『しかし、現に今、アナタは生きています』

「それは――……」


 青い炎がカヅトの脳裏に蘇る。指先でシルクハットを弄ぶラヴィが小さくため息をついた。ヤレヤレ。

『このゲームはベリーハードモードであって、クリアできないクソゲーではありません……。襲い来る敵に打ち勝つための能力がゲーマーには与えられます』

「それって、まさか……!」



『そう。プレイヤー・カヅト、アナタに与えられた能力のジャンルは――RPG!』



 ババッ! ラヴィがシルクハットを掲げる。ステッキでトントン、ハットの中から現れたのは蒼炎の剣! 自由落下――ザンッ! カヅトの目の前に突き立った! イッツァマジック!


「……具体的には?」

『RPGをこよなく愛するゲーマーに、ワタクシの口からわざわざ説明するのは野暮というもの……違いますか?』

「わかった、面倒なんだな?」

『………………』

 ニッコリ。笑顔で応えるラヴィ。面倒らしい。


『このベリーハードモードをクリアしたゲーマーには、報酬が用意されています』

「報酬……? なにが貰えるんだ?」

 カヅトは懐疑の視線を向ける。ラヴィは気にする素振りも見せない。シルクハットを宙へ投げ、指をパチン! ハットは霧散! 光の粒となって暗闇に煌めく……白の兎は妖艶に微笑んだ。



  つ

    よ


      く


       て


        ニ

     ム。

    |   ュ

     ゲ ー




「つよくて、ニューゲーム……」

『はい、つよくてニューゲーム』

 それは、ゲームのエンディングなどによく見られる、おまけ的な要素である。ゲームをクリアした際のアイテムやステータスを引き継いだまま、もう一度最初からストーリーを開始できる――つよくてニューゲームとは、そういうことだ……ゲーム内では。

「………………」

『………………』

「あの、ちょっと、よくわからないんだけど……」

『つよくてニューゲームは、つよくてニューゲームでございます』

 あ、ダメっぽい。これは教えてくれないパターンだ。

 カヅトは逡巡する……ラヴィの言うことは、どこまで信じていいのだろう? つよくてニューゲーム? わけがわからない、理解が追いつかない。だいいち、この状況が偽りではないとどうして言い切れる? 目的や理由はさっぱり分からないが……誰かが仕組んだドッキリという可能性は?


『さて、肝心のクリア条件ですが……シンプルですのでご安心ください。自分以外のゲーマーをすべて【GAME OVER】にしてください!』

 カヅトの悩みも露知らず、ラヴィは朗らかな笑顔で続けた。カヅト、若干置いてけぼりである。

『アナタを含め、13名のゲーマーがベリーハードモードをプレイ中です。各ゲーマーにはそれぞれ好みに合ったジャンルの能力が与えられています』

「そうだ……あの放火魔! あいつもゲーマーって言ってた……それにイカれたバニー女って、あっ……」

 口走ってからカヅトは察した。ラヴィは微笑みを絶やさない。それはもう天使のような笑みで、

『No.5には後でペナルティを与えておきましょう』

 ニコニコ! 女ってコワイ! 慄きながらも、カヅトはひとつ情報を手に入れた。どうやらあの男はプレイヤーNo.5らしい。ただそれだけだが……。


次は3月3日(日)に更新したい(願望

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