ベリーハードへの誘い
いわゆる小説と呼ぶには抵抗のある表現方法をする場合がありますが、それも表現方法の一つだと考えてもらえれば幸いです。
カヅトは高校二年生にして、さっそく人生に飽きていた。
飽きていた、というか、失望や落胆と言った方が的確かもしれない。やる気とか熱意とか、そういう類のものは、カヅトの中からすっぽりと抜け落ちていた。
高校生活なかだるみ? ……誰かの目にはそう映るかもしれない。
しかしその実、彼を蝕んでいる事態はもっと深刻なのだ。
平日の昼下がりだというのに、今もカヅトは自宅でゲームに興じていた。学校に行かなかったわけではない。一旦登校するふりをして、コンビニで漫画を読んで時間を潰し、共働きの両親が出払った頃を見計らって帰宅し、今に至る。
カヅトの見つめる先……テレビ画面には、つい先日発売されたばかりの家庭用ゲーム『ファイナル†ファンタジアン17』が映し出されている。巷で大人気のRPGだ。幅広い難易度が選べることや、やり込み要素が多いことで根強いファンも多いナンバリングタイトルである。
ゲーム内、主人公が大剣を振り上げる。対するは、いかにも禍々しい漆黒のドラゴンだ。牙を向き、天に向かって咆哮する! 魔法使いの放った真っ赤な炎が、主人公の剣を包み込む! 振り下ろされる大剣! 一閃! ドラゴンの体が真っ二つに裂ける!
「GYAAAAAAAAA!!」
「……っしゃ! 倒した……」
薄暗い自室でカヅトはひとりほくそ笑んだ。BGMが切り替わり、流れるは勝利のファンファーレ。主人公とその仲間たちは思い思いのキメポーズをとっていた。バトル画面からフィールド画面に移り、イベントが進んでいく……。
「……ちと回復使いすぎたな……どっか村寄って……うん……」
イベントムービーを眺めながらブツブツと独り言を呟くカヅト。ゲームに没頭している時の彼の癖だ。
……
『あんたがユーノ姫だな?』
『あ、貴方たちは、いったい……?』
『詳しい話は後だ。とりあえずここを出るぞ!』
……
主人公に腕を引かれ、ヒロインが仲間に加わった。高画質で再生されるムービーを眺めながら、カヅトは充実感に浸った。
「やっぱ、リアルなんてクソゲーだな……」
吐き捨てたその言葉は、カヅトの偽らざる本心だった。
と、ムービーの末尾に1つのウインドウが……?
【人生をベリーハードモードに切り替えますか?……はい/いいえ】