01.あの娘の登場
早速評価をいただいていました。
とても嬉しいです。
四月下旬、桜の花弁が一つまた一つと舞い落ちて葉桜が目立ち始めた時期。
不安定だった気温も日が経つにつれてだんだんと安定していき過ごしやすい暖かな気温になってきた。
俺の高校生生活の二年目がスタートしてから早くも一ヶ月が経とうとしていた。
「これはやばいっ!」
このままだと朝のHRに間に合わない!
精神統一、力を足だけに集中するんだ。そしたら、きっと間に合うはずだ!
俺は、昨日の夜に何者かに殺される夢を見た。そのせいで目覚めは悪く、布団から出るのにも時間がかかった。
そして、気が付いたらOUTな時間帯になってしまっていたということだ。
正直なところアレが夢だったのか、現実だったのかハッキリしていない。
しかし、刺されたときの鋭い痛みは今でもハッキリと思い出すことができる。
いや、でも夢なのだろう、アレが現実だったら絶対にこんな風にピンピンしているわけないからな。
あの出血量は致死量だっただろうな、リアルだと確実に死んでいたな。
そんな考え事をしている間に俺のクラスの扉が見えてきた。
『キーンコーンカーンコーン』
あと5秒あれば教室に入れていたというのに無情にも無機質なチャイムが俺に死刑宣告してくれていた。
「失礼しマース……」
俺は遅刻してしまったが教室には入らねばならないので扉へと手をかけて横にスライドする。
声を小さくしたところで怒られることが回避できるわけではないが自然と小さくなってしまう。
無言ではいればいいだろって?
そんなことしたら担任から愛のハグ(強烈な卍固め)をもらってしまうではないか。
命は惜しいからな。
そこのところはしっかりしないと本当に意識を持っていかれてしまうからな、あの攻撃は。
少しだけ扉をあけて中の様子を窺う。
教卓にはいつもの仁王立ちしている先生の姿が見当たらなかった。
あれ?もしかして先生はまだ来ていない?これはラッキー!
教室にススッと入って自分の席に素早く座る。これで俺が遅刻した事は先生にはバレないだろう。
「錦田、ゴールデンウィークが近いからといって、あんまりのんびりしてると痛い目にあうぞ?」
右隣の席の『伊島康平』が呆れたように俺に注意してきた。
失礼な、ゴールデンウィークなんて小学生じゃないんだからそんなに楽しみなはずがない。
「ほんと、ゴールデンウィークに近くの水族館でクラゲ祭りするからってはしゃぎすぎだろ」
「イエスくらげ、ノータッチ! どんな不思議くらげがいるんだろう? わくわくするぜ!」
気を取り直して、ゴールデンウィークなんて小学生じゃないんだからはしゃいだり楽しみだったりすることはない。
「クラゲの何処に魅力があるのか俺にはサッパリだな。しかし、ありゃあ喰えるのか?」
「お前くらげの可愛さが分からないなんて生きてる価値なんてないな! この二酸化炭素生産野朗! 酸素の無駄遣い常習犯! 人類のゴミ! くらげを食べるなんて言語道断だ! 即刻、人類のために未来のためにそしてくらげさんたちのために死ね!」
「すまん……。そこまでクラゲを愛してるとは思っていなかった」
「分かればいい」
全く、なんで伊島はくらげの素晴らしさ可愛らしさが分からないのだろう。
あのふよふよと水の中を漂う可愛らしい姿やヒラヒラの美しさ、どれをとってもあの存在に勝つものなんて世界には数えるほどしかないだろう。
ああ、可愛らしいといえば、昨日の夢に出てきたあの女の子もかわいかったな。
俺の夢の中で作られた存在のせいか、俺の好みにドストライクだったりする。
あのくりくりした二重の瞳はきれいだったしサラサラと流れる髪の毛は絹糸のように美しかった。
あ、いや、夢の中とはいえ、その女の子に殺されたんだが。
会えるのであればなんでもない普通の日常で会ってみたい。
あんなにかわいい女の子に殺されてしまっては、一生女の子と一緒に生活なんてできないだろう。
あ、死んでるからそんな考えは杞憂か。
「ぐっどもーにんぐ諸君。私としたことが1分13.7秒も遅れてしまった。いやいや失敬失敬。そんな諸君らにいい知らせ、ぐっとにゅーすだ。今日から私達のクラスに新しい仲間が加わる事になった。よーし、じゃあ入ってきてもらおう」
教室に入ってきたのは昨日の夢に出てきた、あの女の子だった。
整っていてるがどこか幼い雰囲気を残す顔立ち。
目はパッチリの二重で吸い込まれそうな深い青色。
腰まで届く金色の髪は太陽の光を紡ぎだしたかのようにキラキラと輝いていた。
ニコニコと愛想のよさそうな笑顔を浮かべていた。あの時のように。
「おい錦田、あの娘めちゃくちゃかわいくねえか?」
伊島が興奮を抑えきれていない声で俺に耳打ちしてきた。
「あ…あぁ」
夢の中で出会った美少女であり、ましてや殺されていたりしていなかったら生返事じゃなくもっといい返事をしていただろう。
いや、むしろ伊島と同じく興奮していたはずだ。
突然の超絶美少女の登場にクラス内は騒然としていた。
しかし、今の俺の頭はこの状況を処理しきれていなかった。
「なんでだよ……!?」
ようやく搾り出せた言葉がこれだった。
「初めまして!今日からこのクラスのお世話になります、神崎飛鳥です!みんなよろしくね!」
丁寧に挨拶をした女の子、もとい神崎。
そして、何かを探すようにキョロキョロとクラス内を見回した。
三回ほど首を振ったとき、ある一点に視線が止まった。
言うまでもない、俺だ。
花が咲いたような笑顔で俺のもとへ駆け寄り、
「錦田友和くんだよね? 昨日の夜はごめんね? あたしのあんな姿見られてしまったから、つい……」
クラスの皆の視線が集まる。
嫉妬を抱いた視線(主に男子)や期待の篭った視線(主に女子)が俺にビシバシ突き刺さった。
「えっと、あのー……」
思わず手がでちゃった感覚で殺されても返答に困る。
「もう、あたしの体見られちゃったわけだからね?」
「ちょっと待て。そんな言い方すると誤解されるだろ!?」
「君、あたしのご主人様になってよ!」
俺はその日男友達と熱いO☆HA☆NA☆SHI☆をすることになった。
誤字脱字は教えてください。