夢と夢と夢渡り
夢と夢と夢渡り
僕の夢は作家。それというより小説を書くのが一番の趣味なのだ。
ペンネームは叶迷、当て字だ。
年は今年で中学三年生の十五歳。初めての受験のある学年だ。
僕は周りに隠して小説の投稿をしている。けれどまた落選、もう五連敗になった。
落選通知の手紙をゴミ箱へ投げ入れてクワリと欠伸をする。
もう外は真っ暗な闇で星や月という名の船がポッカリと海のような空に浮かんでいた。
明日もキチンと学校があり、通常通りに授業がある。
僕はゴミ箱をため息混じりに眺めてから目を閉じた。
目をぱちりと開けた。けれど世界は歪んだようにボンヤリとしている。
さっき僕は眼を閉じて眠った気がするからここは夢の中だろうか。
古い紙やインクのにおい。それにカラカラという何かを転がすような音。
ひとまず、本屋や図書館そういう類の場所だろう。
不思議と見渡す限りに広がる本棚にあるのは僕が読んだ本ばかりだ。
けれど妙にどの本も古ぼけている。
「あれ・・・・、こんな本読んだっけ?」
ポツリと呟いて見覚えのない本を手に取る。
「物語を創る三つのコツ?」
うさんくさいことこの上ない。それにしたってせっかく手に取った本だ。
そう思い一ページめくって中を読む。
一、自分の思ったことを真っ直ぐに
二、周囲の目を気にせずに
三、本を大切に
それだけ真っ白い紙の上に並んでいる。
それにしてもピンとこないものばかりだ。それに作者名もない。
他のページをめくり驚いた。何も記されていない。
それどころかその白い紙は仄かに燐光を放っているように見える。
もう一度辺りを見回してみた。
もう一度見てみるとそれほど広い部屋ではないようだった。
本棚は天井に届くほど高く小さい頃に読んだ気に入りの絵本や、最近読んだ文庫。
それに厚さのある図鑑、愛用の辞書。全て読んだ事のある本だ。
それなのにどうして見たことも、ましては読んだ事もない本が存在するのだろう。
夢なんてものは所詮記憶と想像で構成されたものだ。
記憶の中にあの本の存在がないということは、この本の存在は僕の想像の産物という事になるのだろうか。それなら大した想像力だ。あまり認めたくないが。
もう一つ、疑問に思ったことがある。
どうしてココにある、今まで読んだ事のある本はどれも古ぼけているのだろう。
真新しいといえるのは例の「物語を創る三つのコツ」という名の本のみだ。
「ここは何処かなぁ・・・。」
薄暗い本棚しかない部屋に一人でいるのには忍耐がいる。
窓一つない閉鎖された空間。まだここにいたいと思う。
けれど何かやり残して来た気もしなくもない。
明日の時間割もそろえたし、窓もキチンと閉めた。
何を遣り残してきたのだろう・・・・・。
そう心うちで考えながら本棚を見て回ることにした。
他にも僕の想像の産物がないかと思ったのだ。
残念ながら他に知らない本は一冊もなかった。そうして初めにいた場所に場所に戻った。
また音がするカラカラカラカラ結局何の音だったのだろう。
パチリと目を開け周りを見回す。
少し経ってから机を上を見て僕は原稿を書いていた事を思い出した。
昨日からの徹夜で睡魔に負けた。
「締め切り前に昼寝なんて余裕だな?」
少しばかり怒気を混ぜ込んだ声音だ。
「平気、今日中には書き終わるから。それより夢の中で夢を見たよ。」
それにしても自分はいつから寝ていたのだろう。
さっき言われたとおり締め切り前日ある。
それなのに話が浮かばなかった。多分悩み続け結局寝たのだろう。
「落選がどうとかって寝言言ってたけど。」
「十五の時に小説が落選した夢を見たんだよ。だんだんおぼろげになってきた。」
「ふぅん。よくわからないけど、頼んだよ叶迷先生。」
夢で落選した小説は現実では大賞を受賞していた。
そして僕の落選歴も四連敗で止まった。
それから三年過ぎて今は十八歳になった。
あの本の謎は今解けた。いま机に広がっている原稿用紙の題名は「物語を創る三つのコツ」
それに三つのコツが白紙の真ん中に並んでいる。無性に笑えてきた。
結局は自分の想像の塊だったのだ。
またカラカラと音が聞こえてくる。
もう一度あの歪んだ世界へ行けるだろうか。
END
楽しんで、騙されてくれたら
嬉しい限りです。