秋雨
「あめあめ、あめあめあめ」
今日も窓にはいっぱいの水滴が付いている。ここのところ続いている弱い雨のせいだ。
「東京じゃ、連続降水がひと月以上続いてるそうよ」
退屈そうに、まだ小さな妹がふてくされている。
「あめあめあめあめ」
返事なのか雨に対する八つ当たりなのか、妹はその言葉ばかり口にして、ごろん、と寝転んで向きを変えた。
室内の空気や洋服だけでなく、わたしも妹も、心まで湿っている気がした。
無理もない、こう天気が悪い日が続いていると、わたしもどんよりしてしまっていたのだから。
「あれ?」
わたしは、窓際にあるぬいぐるみ大のかたまりの異変に気付いた。妹が暇つぶしに作ったてるてる坊主が逆さまになっている。
「もう、これじゃ雨続くわけよ。ほら、てるてる坊主が逆さじゃない」
逆さまになったてるてる坊主は、意味が変わり雨を呼ぶ。
「それでいいの。もっといっぺんに、ざーっとふってくれたら、はれるとおもわない?」
なるほど、妹なりに考えあっての行動か。子供はたまに、大人が思いつかないような予想外な提案をする。わたしは感心した。
そもそも秋の雨はしとしとと降ることが多い。梅雨のように大雨にはなりにくい。妹はそれがじれったかったのだろう。
「トトロにジャンプでもしてもらったら?」
アニメ映画のワンシーンを、わたしは口にした。大きな動物が跳ねると、それまで降っていた雨がいっぺんに降り、雨が止むといった内容だ。
「もう、おねえちゃんったら。そんなこどもだましじゃなくて」
「子供じゃない。わたしもあなたも。それにてるてる坊主だって、わたしからしたら子供だましよ」
「わかってないですな。ロマンがあるかどうかのちがいですよ」
やれやれ、と小さな妹は大人ぶったような言葉を口にした。
「はいはい」
わたしはさほど気にも留めず、妹のこだわりを否定しない。
「でもね、雨止みそうにないからやっぱり逆効果じゃない?」
「ふむ! じっけんはしっぱいにおわったが、しっぱいは、おおきないっぽなのだよ!」
妹の機嫌はちょっと良くなったようで、楽しそうにてるてる坊主を正しい向きに直した。
妹とわたしは血がつながっていない。親の再婚の連れ子だ。こう言ってはあれだが、最初は他人だったのでほどよく気を使ってしまうのが距離感として幸いしている。それに年が離れているせいもあってか、あまり大きなケンカもなく仲良くやれている。
いや、この子といると楽しい。行儀も良いし年のわりにはしっかりしている。わたしは妹が出来たことを嬉しく思っている。
「ようちえんで、おとこのこたちとあいあいがさするのにもあきちゃったし」
前言撤回。妹はモテる。わたしはモテない。ここだけは正直悔しい。
「雨に飽きたのはわかるけど、晴れて欲しい予定でもあるの? あっ、わかった。デートだ!」
「ハズレかな? おとこのことはれのひデートもしたいけど、はんぶんぐらいハズレ」
神様、わたしもモテたいという不純な動機で、もし妹と血が繋がっていたらと望むのはいけない事ですか?
「……じゃあなんで晴れて欲しいのかな?」
大人になれ、わたし。
「うんとね、おねえちゃんのたんじょうびがくるでしょ? そのひにかぞくみんなでゆうえんちいくけど、たんじょうびのゆうえんちがあめだとかわいそうかなって。あめだとゆうえんちはやってるけど、やっぱりはれてほしいから! はれたひのかんらんしゃ、やまがみえてすてきなんだって!」
「――っ!!」
妹の思わぬ言葉に、わたしは嬉しくなり妹を抱きしめる。
「ちょっ、おねえちゃんくるしい」
「可愛いヤツめ! お姉ちゃんと遊園地デートだ!」
わたしは嬉しくなり、妹の頬をスリスリした。
誕生日が楽しみだ。
いや、この雨が止んだら今すぐ妹と公園デートしたい! この子はかけがえのない、わたしの大切な妹だ!
「わたし、デートはおとこのことするからそういうのは、いいや」
前言撤回。




