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絶対に死にたくない銀河皇帝庶子が戦艦を与えられたので給糧艦に改装したら、前線へ出ずっぱりにさせられた件。  作者: 英 慈尊
2章 惑星レクの騒乱

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モリーたちとのお茶会 4

「わ、私ですか!?」


 飛び上がらんばかりに――というか実際に少し腰を浮かせ、その拍子に軍帽まで浮かせながら、マミヤちゃんが驚く。


「ええ、そうですよ?

 あたしたちは、マミヤちゃんを推すことに決めましたもの」


 とうに根回しは済んでいるということだろう。

 モリー婆ちゃんと俺たちの間に列席している経済界の重鎮たちは、皆、沈黙でもってこれを肯定する。

 ばかりか、さっきメイドさんたちが用意していたドリンクやお菓子に手を出し始める状態。

 状況は整った。後は、モリー婆ちゃんとマミヤちゃんの間で話すべきことだ……という態度だ。

 一体(ボリボリ)どうなって(ボリボリ)しまうんだ(ボリボリ)。

 うん、ポテチはやっぱり、王道をゆくうすしお味だぜ!


「えっと……」


「その前に、さっきのお話の続きをしましょう。

 どうして、給糧艦アマテラスに端を発するイラコちゃんの行動が、莫大な利益を生み出すのか。

 それはひとえに、この銀河帝国が侵略的な軍事国家だからであり、前線こそが、経済的な末端部と言えるからです」


 軍帽と黒髪を整えながら言い淀んだマミヤちゃんへ、モリー婆ちゃんが鮮やかに語る。

 ああ、ちょっと言いたいことが分かってきた。


「つまり、通常の経済活動に置き換えると、前線の兵士たちが末端の消費者に相当するということか?

 スーパーマーケットや、コンビニエンスストアで買い物するお客さんみたいな?」


「ええ、まさにその通り。

 しかも、この末端客は、さらに経済圏を押し広げる。

 何しろ、彼らが向かった先は、新たな銀河帝国の版図となるわけですから。

 そこでは、実に様々な物資が必要となります」


 俺とモリー婆ちゃんのやり取りで、冷静さを取り戻したのだろう。

 マミヤちゃんが、緊張しながらも口を開いた。


「……戦争経済ですか。

 それも、単に死の商品――武器などを売って儲けるわけではない。

 最前線と、その先にある敵地さえも、物流網の一部とみなして経済活動を行う」


「そう、まさにその通りです!」


 紅茶を一口すすったモリー婆ちゃんが、マミヤちゃんを人差し指で指す。


「これまで、銀河帝国内での経済活動は、例えばこの惑星レクのような……前線へと兵隊さんたちを送り出す物資の集積地までで完了していた。

 真に物資を必要とするのは、さらにその先――送られた兵隊さんたちが戦い、やがては帝国の一部となる戦場だというのに、です。

 それでは、いけませんね。

 ……古い格言ですが、利は川下にありと言います。

 川上が、メーカー。

 川下は、消費者。

 真の利益は消費者――最前線の兵隊さんのすぐそばにこそあるというのに、あたしたちはこれまで、その途中で引き上げてしまっていたのです」


「実際に、前線の兵士たちはアマテラスがもたらす新鮮な食品や甘味……それからタバコに飢えていて、イラコ殿下はその需要を掘り起こすことに成功した。

 モリーさんたちは、それを嚆矢(こうし)として、さらに利益を上げていきたいのですね?

 例えば……対ヨーギル王国で」


 マミヤちゃんの言葉で、ピクリと眉を動かしたのが、バルタザールやレオンを始めとする食にまつわる大企業の代表者たち……。

 シレーネさんいわく、兵站破綻寸前のヨーギル王国に商品を持ち込んだなら、とてつもない利益を得られるだろう立ち位置の人間たちだ。


「そうですね。

 皇帝陛下は内々の有力貴族にしか発表していませんが、先日、イラコちゃんがお兄さんをコテンパンにした件で、対ジンバニアの外交路線は固まったと見てよいでしょう?

 貴族家の一部が婚姻外交路線に異を唱えていて、第二皇子殿下がその旗頭となっていることは、掴んでいますから」


「イラコとディート(ねえ)がバカだったから、面倒なことになった。

 さっさとペーター(にい)に勝たせておけば、ややこしい事態にはならなかった」


 モリー婆ちゃんの言葉に、なんか急に不機嫌な顔となってつぶやくエステである。

 なんか……うん……なんか……コワイ!

 こういう時、フィクションの主人公ならば何か冴えた行動で機嫌を直すのだろうが、生憎と俺は、頭のてっぺんからつま先に至るまでごくごく常識的な現実を生きる人間だ。

 というわけで、常識的な対応策を取った。

 すなわち……あえて刺激するような愚は犯さず、スルーすることにしたのである。

 時には、沈黙こそがベストな選択肢と化すのだ。


「シレーネちゃんと婚約する交渉が上手くいけば、対ジンバニア王立連合の戦いは大きな転換点を迎えます。

 まず、シレーネちゃんの故国であるヨーギル王国が、一気に最前線かつ橋頭堡へと転じる。

 それも、軍人さんたちがこしらえるようなものではありません。

 元々から大勢の民間人が暮らしていて、しかも、物資的に貧しい前哨地帯です。

 当然、これをよく機能させるには、ここにいる皆さんの……そして、後からここへ加わるだろう友人たちの協力が、必要不可欠です」


 モリー婆ちゃんが両手を広げた先……左右に連なった大企業の経営者たちが、揃ってうなずく。


「ここにいる皆さんは、最も早く……そして、強力にその事業へ投資される方々というわけですね?

 まず、お金以上に大事なもの――身内のお婆様方を、最下流であるアマテラスに乗せている」


 マミヤちゃんもまた、黒髪を揺らしながらうなずいてみせた。

 確かに、モリー婆ちゃんが思い描いた空想通りとなったなら、帝国はヨーギル王国という一種の植民地帯から、莫大な額の金を吸い上げることになるだろう。

 甘い汁を国だけに吸わせず、自分たちもご相伴にあずかろうとするのは、ごくごく当然のこと。


 もちろん、国策であり、いかに超巨大企業の長たちであろうと、普通は簡単にくちばしを挟める事柄ではない。

 が、今回は自分たちの母やら親族やらが、アマテラスのクルー(時給制のパート)として、道を切り開いているわけだからな。

 加えて、実際的な実務で、かなりのところを彼らのノウハウに頼れるとなれば、決断の早い親父殿は、喜んでこの面子に陣頭指揮を執らせるはずだ。


 いや、違うか。

 モリー婆ちゃんは、その指揮をマミヤちゃんに執らせようとしているんだった。


「その通り。

 そして、どのような物資を……あるいはお金や人員を投入するにしても、最下流である現地を知らないのでは、お話になりません。

 よって、最下流の中心部となるであろうアマテラスにおいて、主計を束ねるマミヤちゃんこそが、あたしたちの代表となるにふさわしい。

 ――マミヤちゃん」


 そこで、モリー婆ちゃんが口元に浮かべていた笑みを初めて消した。

 そうすると、姿を現すのは……なんとも呼べぬ奇怪な(あやかし)

 この銀河帝国の裏に巣食い、力を振るっている大妖怪だ。


「今、決断なさい。

 判断遅き者は、それだけで大漁を逃します。

 メケーロさんには悪いけど、決断できないならば――去りなさい」


 モリー婆ちゃんの口から出た言葉は、厳しい。

 しかし、そうでありながらも、優しいものであると分かる。

 最初から期待をしていないならば、軍内にきっとあるだろう伝手でもなんでも使って、マミヤちゃんを異動させればいいのだ。

 あるいは、異動とまではいかずとも、息のかかったより経験豊富なものを俺につけるか。


 だから、あとはマミヤちゃんが決断するだけ。

 とはいえ、これは重い……重い決断だ。

 何しろ、扱う金額と物資のタカが違う。

 というか、モリー婆ちゃんたちの目論見を考えれば、銀河帝国の経済そのものに影響を及ぼす役割だった。


 そうだな……歴史的な事例でいくと、東インド会社とか満州国とかの経営をぶん投げられるに近しい。

 なんなら、シレーネさんの母国であるヨーギル王国の未来すら担うことになる。

 背中に国家を背負ってる! ……って、第一皇子(ベルトルト)第三皇子(ヴォルフ)の魅せ筋じゃないんだから。


 なので、もしマミヤちゃんが断って、別の部署へ異動になったり、あるいはここにいる面子の傘下――さすがに放り出すわけにはいくまい――で働くことになったとしても、俺が口を挟むわけにはいかない。

 いかない、が、しかし。

 個人的な要望を漏らすことくらいは、いいだろう。

 すなわち……。


「……マミヤ少尉のお茶が飲めなくなるのは、嫌だな」


「やります」


 俺の言葉を聞いたマミヤちゃんが、真っ直ぐに背筋を伸ばして答える。

 ただ、緊張感でそうしているわけではない。

 理知的な翡翠の瞳に、もう迷いはなかった。


「そう言ってくれると、思っていましたよ」


 モリー婆ちゃんはそう言うと、いつものチャーミングな笑顔に戻ったのである。

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― 新着の感想 ―
おはようございます。 例のツナギの似合うイイ♂️男の台詞風に言うなら「女は度胸!何でも試してみるのさ」ってことですねモリーさんww そんな人生の岐路となる決断を「やってやろうじゃねぇかこの野郎!(某…
あーあ…才能に反してやることが少なくて宙ぶらりんだった所にこれ以上ない芯棒が突き込まれちゃった 余計なことに気を取られなくなった分イラコ君の苦労が加速する…まあいいかイラコ君だし!
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