VSディート 6
ごくごく当たり前の事実を述べるが、戦いとは常に相対的なものであって、絶対的なものではない。
俺たちは生身の人間だからな。まず、格ゲーのキャラクターみたいに、常に万全のポテンシャルを発揮するということが不可能である。
例えば靴下に穴が空いてしまっていたりなど、しょうもないことでテンションは下がってパフォーマンスに影響を及ぼすし、その他にも胃腸の調子や睡眠の質など、本来備わっているはずの能力を増減させる要素はいくらでもあった。
しかも、しかもである。
そういった内的ともいえる要因を取り除いたところで、今度は外的な要因がいくらでも勝敗に影響した。
顕著なところでいくと、フィールド。
小柄なウシワカマルが大柄なムサシボウを散々に翻弄したというゴジョーブリッジの決闘など、その代表例だ。
ウシワカマルは自身の肉体と場の特性を最大限に活用し、真っ向勝負では分が悪かろう勝負を制したのである。
このように、戦いというのはありとあらゆる要素を関連させあい、その時その場における相対的な勝敗を決する行為であった。
が、俺とディートはこれまで、自分たちの力量以外の要素を極力排除してきたのである。
シールド艦クシナダのオタククルーたちとよく遊ぶ乱闘ゲームで例えるなら、ステージギミックもランダムアイテムも何もなしなプレーンステージでの試合に近い。
帝都星テインゲルにほど近いクリーンな宙域で、邪魔する者は何もない一対一の模擬戦闘を延々と行うのが、小生意気な妹との喧嘩なのであった。
だが、今回は違う。
障害物となるスペースジャンクや隕石などは存在しないが、代わりに、鬱陶しい敵――ペーター兄さんとテセスによるタッグチームが存在する。
ヘタクソなりに粒子散弾銃やガトリングによる攻撃を放ってくる二機のカスタム・ドンナー……。
その気になれば瞬殺することたやすいが、それをやると俺たちが勝ってしまうため、そうするわけにはいかない存在……。
考えてもみれば、ディートとの千日手を越え、勝敗を決するところまで至るのに、これを利用しない手はない。
卑怯卑劣など弱者の戯言。要は勝ちゃあいいんだよ、勝ちゃあよお!
以上の点を踏まえ、ペーターお兄ちゃんという最強の矛を手にした俺が述べるべき言葉は、ただ一つ。
「ディート……お前、ガスパーニ伯爵を盾にするなんて!
――この卑怯者があっ!
てめえには、皇女の誇りはねえのかよ!? 誇りはよお!」
『ペーター兄様を破砕槌代わりにしているあんたが言うんじゃないわよ!
何が第二皇子ブレイクよ! バッカじゃない!?』
ディートが乗った赤いM2――ベレンジャーが盾としたフルアームズ・ドンナーに、ペーター兄さんのミラン・ドンナーをガッキョンとぶつけながら言い合う。
当然、機体表面は電磁シールドに覆われているため、それだけで大破するということはない。
ただ、激突の勢いを防ぎきるまでは至らなかったらしく、両機とも、表面装甲の一部がへこみ、剥がれ落ちていた。
その事実に、恐怖を覚えたのだろう。
『離せ! 離すんだイラコ!
僕はお前の鈍器じゃない!』
『い、嫌だ!?
せっかく拾った命なのに、これでは死んでしまう!
し、シールドが持ちこたえられない!?』
ドンナーから、兄さんとテセスの悲鳴じみた通信が響き渡る。
機体同士がゼロ距離で接触しているため、接触回線が開いているのだ。
そんな二人に、俺から言えることはただ一つ。
「オーバーだなあ、特にガスパーニ伯爵。
このくらいじゃ壊れたりしないから、ダイジョーブダイジョーブ」
『そうよ!
大体、あんたが乗ってるのは増加装甲も施されてるじゃない?
よしんば死ぬのだとしても、さっきからガッシンガッシン叩きつけられてるペーター兄様の方が先に死ぬから、安心なさい』
お、ディート! お前にしては、なかなかイイことを言うなあ!
イイこと言うついでに、柔術の要領で完全に機体の動きを制御し、さっきからこん棒代わりに打ち付けているミラン・ドンナーの一撃を素直に喰らってくれるとありがたい。
だって……お前がやはり各関節部を極めて盾代わりにしているテセスが、かわいそうじゃないか?
『くそっ!? なぜだ!?
そのタイゴンも、リアクター出力ではドンナーと大差ないはず!
だというのに、どうして引き剥がせない!?
なぜ、思うまま武器代わりにされているんだ!?』
各関節部がロックされたかのように動作不良を起こし、ただただ、俺のタイゴンが振るうままに巨大な鈍器と化しているミラン・ドンナーから、ペーター兄さんの悲鳴が響き渡る。
「そこはほら?
単なるマシーンではなく、人型機動兵器ですから。
関節に上手く力を込めてやると、人間がそうなるのと同じく、麻痺したみたいに動けなくなるんですよ」
今、俺がタイゴンで披露しているのは、いわゆる骨子術の技術体系に含まれる技。
掴んだドンナーの足首を巧みに捻り上げることによって、その力を機体全体に浸透。
結果、パワーでは大差ないこの機体が、少ない力によってドンナーを完全な行動不能状態へ陥らせているのだ。
その上で、巨大ロボットとしてのパワーを存分に振るい、ドンナーそのものをこん棒としてぶん回しているのである。
この技……名付けて……。
「言わば……第二皇子クラッシャー!」
『お前、僕にどんな恨みがあるんだ!?
第一皇子兄さんや第三皇子みたいに、嫌味を言ったりした覚えはないぞ!?』
「あなたに恨みはない……。
強いて言うなら、近くにいたのが悪かったということだ」
あと、金髪サラサラヘアーなのが気にくわない。
てなわけで、若干の私怨も込めて、ペーター兄さんが搭乗したドンナーをガッシンガッシンと叩きつけまくる。
面!
突き!
下段!
小手!
胴!
面!
隙を少なくするため、振り抜くのではなく叩くことに重点を置いた喧嘩剣道……そのことごとくを、ベレンジャーはフルアームズ・ドンナーという大盾でもって防ぎ続けた。
俺と違い関節技などの心得があるわけではないため、ベレンジャーによる盾の扱い方は、高出力にモノを言わせたもの。
だが、エステが開発した新型リアクターのパワーは、粒子狙撃銃による射撃戦以外でも存分に発揮されており、ちょっとした衝撃で砕けそうなほど華奢に見えるベレンジャーの細身が、武骨なドンナーを背中から完全に抑え込み、自由自在に盾としている。
「イヤー!」
――ドッカン!
『ウワー!?』
「イヤー!」
――バッガン!
『いやあああああっ!?』
こうまでディートの機体に近づけた機会は、これまでない。
ここが勝負どころと見て、遮二無二に第二皇子ブレードを振るいまくる。
ちなみにだが、ドッガンバッガンやってる合間に接触回線から響き渡ってきているのは、ペーター兄さんやテセスの悲鳴だ。
とりわけ、女みたいに情けない声で鳴いているのがテセスであった。
そのような攻防を、幾度続けただろうか?
突如、俺の脳裏に電球が灯るようなひらめきが走る!
これは――新技を思いついた!
「流し第二皇子斬り!」
流れる水のように流麗なフェイント混じりで放たれる斬撃(打撃)は、完全に入った。
……やっぱり盾となったフルアームズ・ドンナーに。
「ちいい……!
だが、まだ兄さんたちの機体はやれる!」
『そうよ!
たかがメインカメラと両腕と両足が脱落して、コックピットブロックの装甲が歪んでるだけよ!』
いつの間にかダルマ状態と化している武器と盾を振り回しながら、息巻く俺とディート。
ちなみに、テセス機のアーマー部分は、試作品ゆえに装着の甘い箇所があったのか、途中で脱落しました。
「今度こそいくぞ!
うおおおおおっ!」
『来なさい!』
中の人たちもグッタリとして何も言えなくなった得物を振り回し、再度の攻撃を加えようとする。
――ビィーッ!
……が、そこで試合終了を告げるチープな電子音が強制的に鳴り響いた。
『――そこまで!
ペーター機とテセス機に撃墜判定が出たため、イラコ&ディートチームの勝利とする!』
同時にジャッジを告げるのが、ベルトルト。
「……あ」
『……あ』
そこで、ディートと共に気付く。
攻防に夢中で、いつの間にか武器も盾もすっかり壊れてしまっていたという事実に。
そして、その武器と盾は、俺たちが負けなきゃいけなかった相手チームの機体であるということに……。
「『……あああああっ!?』」
ここに――決着!
俺は、シレーネさんと婚姻外交する権利を手に入れてしまったのである。




