三大将との面会 中編
「話と言いましても、さしたるほどのことはございません。
……まずは、殿下直々に足を運んで貴重な物資を届けてくださったこと、厚くお礼申し上げます」
この場で唯一の黒人系……ヨーゼフ大将がそう言いながら、スキンヘッドを撫であげる。
そうくるならば、俺の返答はこうだ。
「礼など言われるほどのことではない。
そもそも、あのアマテラスという給糧艦は前線でろくに楽しみもなく、心を渇ききらせていた兵士たちのために改装した艦。
別段、お前たちのために荷を運んできたわけではないぞ」
か、勘違いしないでよ! あんたのためにやったんじゃないんだからね!
……と、言い換えても可。
なお、ツンが100%。デレは一切ない。
「ほ、ほぉー……。
これはこれは……大変失礼致しました」
ピクピクと、コミックの登場人物みたいに額の血管をひくつかせながら愛想笑いするヨーゼフだ。こいつ、頭を剃ってるから血管の動きが分かりやすいな。
「まあ、何事においても挨拶というものは大事ですから。
はるばる本国からこの前線へお出ましくださったイラコ殿下に対し、我らが面会を申し出るのは当然のこと」
これはいかんと見たのか、赤髪オールバックの大将――エクムントが会話を引き継いだ。
甘いぞ! こっちは全方位余すことなく挑発する覚悟だ!
「ふうん……。
そう、はるばる本国から片道一ヶ月もかけてここまでやって来たわけだ。
この基地へドッキングするなり隣のマミヤ少尉へ面会の要請がきたそうだが、それはお前か?
それだけの時間をかけて前線まで来たこの俺に、たかが挨拶ごときより重要なことがあると、なぜ分からない?」
「ふうん……」を鼻から息抜くような発音で行うのが、ここのポイント。
そして、「私が断りました」と言わんばかりに誇らしげなマミヤちゃんである。
うん、俺の命令でそうしてるだけなんだし、副官の君までヘイト稼ぐ必要はないんだぞ?
「た、たかが……」
――ビキキ!
……と、血管の膨張音が聞こえそうなほど、内心で怒りを溜め込むエクムントだ。
何しろ、我らが銀河帝国軍の大将だからな。
大ざっぱに言ってしまうと、下に10万からの手下を抱える階級と言っていい。
これがどれほど途方もない地位か、士官教育を受けていない身だとちょっと想像つかないかもな。
うちは鉄の規律を誇る銀河帝国軍だから、絶対服従の者たちがそれだけ自分の下にいるわけだ。
これはもう、ほぼほぼ王の位と言って過言ではない。
普通の兵隊さんなら、拝謁できただけで一生の思い出! 握手なんかされたら、もうこの手は絶対に洗いません! というご身分である。
さぞかし、ちやほやされていることだろう。
それが、俺ごとき庶子に「たかが(お前たちへの)挨拶」と言われているのだ。
男というものは、面子を潰された時に最も激しい怒りを抱く。
さっきからの流れでこれは、ガソリンどころかニトログリセリンをぶっ込まれたに等しい状態だろう。
「……さっきから下手に出ていれば、よくぞそこまで調子に乗られましたな!」
その証拠に、ほら――キレた。
ただし、キレたのはヨーゼフでもエクムントでもない。
金髪をU字型に剥げさせた大将――ルッツである。
「おい、ルッツ……」
「仮にも殿下に……」
「いいや、言わせて頂こう!」
誰かが怒り出すと、冷静さを取り戻すのが人間というもの。
ちょっとクールダウンしたヨーゼフとエクムントが抑えようとするものの、ルッツは止まらない!
一度吐いた唾は飲み込めねえ! 今のルッツは、爆走機関車だ!
「そもそも、皇子といえど所詮は第四の……庶子!
帝国の未来を担うのは、第一皇子たるベルトルト殿下を置いて他になし!
何を慮る必要があろうか!」
おうおう、予想以上のヒートアップぶりだ。
言わんでいいことまで言っちゃっているルッツである。
まあ、そんなもん予想はついてたけど。
第一皇子である金髪角刈りマッチョメン――ベルトルトは、それこそ少年時代から全力で軍部に食い込み、人脈というか派閥を作り上げてきた。
で、あるならば、このポイント203を預かる三大将がその一員であったとしても、なんら驚くことではないのだ。
「大体がですな!
はるばる補給をしに来たと誇らしげに言っているが、やっていることは単なる菓子と……あろうことか、タバコの配布ではないか!
どちらも、この最前線においては必要なき代物よ!」
――ダアンッ!
と、俺たちを隔てる長テーブルに拳なんぞ叩きつけながら力説するルッツである。
いいぞ! その調子でもっと言ってくれ!
「現皇帝フリードリヒ陛下が帝国を興されて以来、我が軍は鉄の規律でまとめ上げられてきた!
そこに、鞭はあれど飴はない!
我ら下々の者は、皇帝陛下が振るわれる鞭の緩急によって士気を上げ、今日の大帝国を築き上げたのだ!
まして、タバコなど……。
酸素一つですら人の手で作り上げねばならない宇宙の戦争において、いたずらにこれを浪費するなど愚の骨頂!
しかも、健康に対する害まである!
それをわざわざ持ち込むなど、清をアヘン漬けにした英国のごとき行為よ!」
しん……とした静寂が応接室に立ち込めた。
クールダウンした黒人大将と赤毛大将が浮かべているのは、「あーあ、言っちまいやがった」という表情。
対して、俺が浮かべているのは――無表情。
口元を軽く結んでの無表情である。
いかにも、「何か思うところありますよ」という感じの顔だ。
実際、思うところはある。
ルッツ……よく言ってくれた!
その通り! 栄光ある銀河帝国軍で必要なのは、皇帝陛下に対する忠誠と奉仕の精神のみ!
お菓子に逃げる軟弱な兵など、必要ないんだぜ!
まして、タバコなど言語道断!
ヤニカス死すべきなんだぜ!
……まあ、銀河皇帝である親父殿は、どっちも有益だとおっしゃってたけど。
の、わりに、自分ではアマテラスみたいな艦……は大げさにしても、菓子類やタバコの支給すらしてないんだよな。
なんでだろ? まあいいか。
今は、せっかくルッツが生み出してくれた流れに、全力で乗るべき場面だ。
「なるほど……。
俺が心血を注いだ給糧艦アマテラスによってもたらされる菓子類やタバコは、少なくともこのポイント203においては不要であると?
そう捉えてよいのだな?」
取るぜ! 言質!
その決意と共に、三人の大将を見回す。
もうヨーゼフとエクムントは諦めモード。「ルッツ、こうなりゃとことん言ってやれ」という姿勢だ。
「いかに――」
それを察したルッツが、ついに答えようとしたが……。
「――お腹減った。
おやつが食べたい」
一切空気読まずにそれをぶっ潰したのが、俺の膝に座ってテディベアを抱いている我が妹エステだったのである。
「――は?」
完璧に間を潰すタイミングでの、一ミリも空気読まない発言にルッツが目を丸くした。
「そもそも、皇子と皇女を迎えていながらお茶の一つも出されていない。
これは、今すぐティータイムにすべき、そうすべき」
そんな彼のことは一切気にせず、銀髪のツインテールを揺らしながらエステがのたまう。
「いや、エステ殿下……それは」
「茶は隣室で控えている秘書に用意させていたのですが、その……ですな」
俺と違い庶子ではなく、親父殿から猫かわいがりされている末の皇女に、ヨーゼフとエクムントがたじたじとなる。
「それに、今、彼らも申しましたが、我が銀河帝国軍は鉄の規律でまとめられた軍隊。
茶やコーヒー程度ならともかく、皇女殿下にお喜び頂ける嗜好品となると、備えは……」
ブチギレ金剛と化していたルッツも、エステに対してはちょっと猫撫で声となっての対応だ。
「ご安心ください、エステ殿下。
全てご用意が整っています」
隣に座っている我が副官――マミヤちゃんが、長い黒髪を払いつつドヤ顔で宣言したのは、その時であった。




