三大将との面会 前編
まったく自慢にならない身の上話であるが、俺は他人に叱られた経験というものが、極端に少ない。
……いや、少ないというか、あるかな? 怒られたこと。
そんな通常あり得ないことで頭を悩ませてしまう理由は簡単。
俺が、銀河一の独裁国家における独裁者の息子だからである。
正確にはその庶子であるが、それでも、周囲からすれば超偉い人であることは変わらない。
ゆえに、マンツーマンで俺に指導する教師たちも、鍛えてくれた軍人も、士官教育を施してくれた退役将軍も、だーれもなーんにも俺を叱らないのであった。
褒めることで伸ばそうと腐心しているのは明らかだったので、正直悪いことしたなと思っている。
そんなわけで、臣下たちから叱ってもらう機会には恵まれず……。
唯一、それが可能である肉親たちとは、日系メイドとの間に生まれた庶子という理由から壁があり、エステ以外ほとんど交流がなかった。
だから、スライドドアをくぐって三人の将軍から出迎えられた時、俺はこう思ったのである。
(先生から呼び出し受けて職員室に来る学生っていうのは、こういう気分なのかしらん)
……と。
それほどまでに、俺たちを出迎える三大将の様子は――不機嫌。
圧倒的――不機嫌であった。
無論、イイ大人であるわけだから、末席とはいえ皇族相手に態度でそれを見せることはない。
しかし、三人共がいっそ不気味なまでの無表情っぷり。
これは顔面の筋肉が加齢により衰えているのではなく、むしろ、爆発しそうになっているのを前頭前野フル活用で抑えているからだと見て取れた。
「イラコ殿下のお出ましです!」
沈静化を図っている怒りの炎へガソリン大量投下するのは――マミヤちゃん。
漆黒の軍帽付き改造軍服にフリル付きミニスカート&白ニーソックス+編み上げブーツ。
色んな意味での戦意高揚狙いな恰好をした年端もいかない黒髪ロングの美少女が、ふんすふんすと鼻息荒く、後ろ手になりながらこう宣言しているのである。
歴戦の大将たちからすれば、舐めんなよクソ小娘が案件であった。
マミヤちゃん……ベルトルトあたりのお付きをやってるならともかく、俺みたいな微妙な立場の皇子に付き従う副官がそれやるのは、NGだ。
しかし、今日この時に限っては……ナイスである!
「これはこれは、イラコ殿下……ご機嫌麗しゅう」
まず最初に口を開いたのが、スキンヘッドの黒人系マッチョミドル――ヨーゼフ・ピータック大将。
「殿下とようやくお会いできること……このエクムント・シュティークリッツ、喜びの念に堪えませぬ」
続いたのが、朝焼けのように鮮やかな赤髪をオールバックにした初老の男――エクムント・シュティークリッツ大将。
「ええ、ようやくですな。
本当に、ようやくですとも」
最後にそう言ったのが、ちょっとだらしないお腹とU字型に禿げた金髪が特徴的な初老――ルッツ・シュリューター大将だ。
長テーブルを挟む形でそれぞれが応接用の椅子から立ち上がり、ビシリと背を伸ばしながらの敬礼姿である。
「イラコ・ジーゲルだ」
「ん……。
エステ・ジーゲル」
それに対し、俺の方は返礼で。
エステの奴はテディベア抱えたまま、ツインテールにした銀髪を少しだけ揺らして応えた。
「ところで、殿下に対しては、どのようにお話すればよろしいですかな?
いや、何分、皇族の方々には我らのような階級が存在しませんからなあ」
早速、口を開いたのがルッツ。
これは明確な攻撃であり、口撃。
ボクシングでいうなら、左のジャブ。
初手で放つ牽制だ。
「そうですな。
通常の軍属ならば、襟章に従って話し方を考えればよい。
しかし、そうでないのに軍艦を指揮されている方が相手だと、勝手が分かりませぬ」
「殿下の方も、そうなのではありませんかな?」
追従するヨーゼフとエクムント。
彼らがこんな風に話してくるのは、会話の主導権を握るためだ。
親愛なる親父殿の思い付きで軍艦を与えられた俺たち皇子皇女は、それぞれ莫大な予算と二百人超える数の人員を与えられていながら、通常の指揮系統の範疇外。
身にまとっている軍服の襟は、実に軽いもんである。なんも付いてないからな。
ポイント203を預かる三大将はそんなあやふやな地位の俺に対し、優位を取りたいのである。
取ろうとせずには、いられないのである。
何故ならば……。
「いやいや、そのような些事になど、興味を抱かれていないやもしれませぬぞ?
何しろ、この基地へドッキングしてからの数日間……我らとの顔合わせは延ばしに延ばしてこられましたからなあ?」
ルッツが言う通り……。
俺は通常ならば真っ先にすべきであろう彼らとの面会を、今の今に至るまで引き延ばし続けてきたのであった。
で、通常の搬入作業や将兵へのお菓子配布作業を最優先に行ってきたのである。
てめえらなんぞ眼中にねえ。
大事なのは末端の兵たちだ。
そう言って、唾を吐きかけたも同然の行為。
この三人からすれば、面子を潰されたも同然の行為だ。
だが、安心しな。
まだまだ、俺の面子潰しは終わらねえ!
――ドカリ!
……という大げさな音を立てて、入り口側に二つ用意された応接用椅子の片方に座る。
当然ながら、足は高々と上げてから組んでみせた。
で、一言。
「――頭が高い」
「「「……は?」」」
ぽかんとする大将たち。
そんな彼らに対し、顎をしゃくるようにして見上げながら、俺はもう一度言い放つ。
「頭が高いと言っている。
お前たち、貴き身であるこの俺がこうして着席したというのに、誰の許しを得て見下ろしているのだ?」
――ビキイッ!
おお、すっげえ! 血管ってこんな音立てるんだ?
大将たちの頭に走ってる太い血管が、揃って浮き上がっておられる!
正直、もうそんなに若くない彼らをここまで怒らせてしまうのは申し訳ないのだが、これも老い先長いこの俺が後方で安全な生活を送るためである。
是非このまま俺の思い通りに行動して頂きたい。
「ふ、ふふ……これは大変に失礼いたしました」
「いや、皇子殿下を見下ろしてしまうなど、我らの浅はかさをどうかお許しください」
「そう、仮にも皇子殿下なのですから」
着席した三大将のうち、エクムントが「仮にも」のニュアンスを強調して告げる。
うんうん、皇子とはいえ庶子の身に過ぎない若造がこんなナメた態度取ってたらむかつくよね?
そのままキレちらかしておくんなさい。
「ん……わたしも歩き疲れたから座る」
言いながら、エステが俺の太ももにダイブ。
「では私も!」
流れるような自然さで、マミヤちゃんが空いてる席へと座った。
二人とも……アウトだ。
どー考えても、これはエステが隣の席に座り、副官の少尉ちゃんは立ちっぱの流れである。
だが……オーケーだ!
圧倒的……オーケーだ!
――ビキイッ!
――ビキビキビキイッ!
……正当な皇女であり12歳の子供であるエステはともかく、一般少女士官のマミヤちゃんにまでナメた態度取られた三大将が、激しい怒りによってスーパーナントカ人へと覚醒しつつある。
さて、ここらで俺の作戦を説明しよう。
まず、残念ながらアマテラスによる食糧輸送はつつがなく終え、前線の兵たちに喜んでもらわなければならない。
失敗した場合は、俺はもとよりエステまで宇宙の藻屑になっているということであるし、いざ到着したならば、そりゃ久しぶりに食うアイスクリームなどが嬉しくないわけないからだ。
ゆえに、失態を演じて親父殿を呆れさせ、後方送りになるという線はバツ。
となると、もう一つの線……偉い人にとことん嫌われて、軍全体から俺への不興を買うのがベストであった。
前線の兵士が何を言おうとも、人を……ひいては、組織を動かすのは上層部。
そこら辺は、人手不足で嘆いているフランチャイズ店舗のオーナーが人員増加を望んでも、人件費削りたい上層部がワンオペ継続させるのと構造的に同じである。
末端の兵がどれほど給糧艦アマテラスの再訪を望もうとも、この三大将が俺をとことん嫌いになればそれは実現しない!
いやー、心苦しいなあ!
カーッ! もっと帝国軍のお役に立ちたかったっすわあ!
んで、怒りのオーラが可視化しそうなくらいブチギレてる三大将を見る限り、今のところ目論見通りにいってるなあ!
これは、通常営業のエステはともかくとして、マミヤちゃんのナイスアシストあったればこそである。
……ちゃんとした士官教育受けてるはずなのに、やたらと不敬な言動行動連発してるんだけど、ひょっとしてわざとやってるんだろうか?
「さて……それでは、話を聞こうか?」
一抹の疑念を抱きつつ、妹を膝に乗せた俺は尊大な態度で問いかけたのであった。
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